カルガディア内部【カラー】
太陽が当たらないせいか、中の気温は少し寒い。俺は上着を持ってきてたからいいが気温が高い場所に住んでいたアレンはどうなのか。
「なぁアレン。寒いか?」
「ん? いや全く寒くないよ」
腕をぐるんぐるん回し準備運動を始めていた。それを見て俺も自分が出来ることを確かめる。影の力は当然使えなかった。
魔王由来の力もすべてだめ。ただ魔力だけは問題なく使える。そうぽんぽん使いたくはないがグラディアスの時間を止めるスキル、時解が使えるなら一先ずは一安心だ。
「塔の攻略って言うのは初めてだからな。なにをどうしたらいいのか分からない」
「それは僕も同じだよ。とりあえず扉まで行ってみようか」
俺たちは一旦水晶を避けて遠回りで階段へと続く扉まで向かった。
アレンは俺に、どうして勇者候補しか攻略出来ないんだと思う? と聞いてきた。
だから俺はアレンにこう答えた。
「これが神の塔だから。かな。
魔王の力はグロウから繋がってきたもんだ。けど勇者は神が作り出した対抗手段たあり自分たちの娯楽の為に用意したもの。
力を与えるために神の塔を作った。けどそれを魔王や他の誰かに攻略されちゃ困るんだろうな。そして中身も見せないように必死なわけだ。
攻略が可能かも知れない魔王の力だけ封じておけば攻略されることはまずないだろうしな。不特定多数の個人スキルや魔法を封印するのは無理だったってのもあるかもな」
「僕が攻略出来たら神はどう思うかな」
「焦るんじゃないか? 想定外だって」
「そりゃいいね。
扉に付いたけど、見事に真っ平ら。隙間すらぴったり。
とりあえず破壊出来るか試してみる?」
「いややめとけ。おそらくすぐに再生する」
「エノアが空虚っていうスキルを使った時みたいに?」
「そうだ。下手に飛び込んで挟まりでもしたら餓死するぞ」
「じゃあ……あの水晶の所に行くしかないね」
「用意されたものをこなすしかないってことだな」
俺たちは振り返り、青く光る水晶へと向かった。
近くへ来た俺たちは水晶の乗っている台を調べる。
にしても近くへ寄ると眩しすぎる。
腕で目を覆いながら水晶に触れた。
「ッッ! さらに光が」
俺もアレンも水晶の光から目を隠し、距離を取った。やはりこの水晶が条件の一つ。
光る水晶から三体の何かがゆっくりと出てくる。
そして水晶の光が落ち着いていく。
目がその明るさに慣れてきた頃、出てきたものの正体を見た。
「ジール……」
「知り合い?」
「ああ。後の二人は知らないが」
「あれは僕の父さんと母さんだね」
「たちが悪いな」
「本当だよ。久しぶりに会ったら殺意むき出しなんだから」
「手伝うか?」
「いらない」
アレンは腕を小きざみに揺らしながら両親へと近づいていく。
おそらく認知範囲に入ったのだろう。ジールを含めた三人はアレンへと向かう。
俺はジールの腕を掴んだ。
「お前はこっちだ」
そして壁にまで思いっきり投げ飛ばす。
アレンは両親の攻撃を丁寧に捌いていた。
「どうやら本当に父さんと母さんなんだね。記憶だけかな」
アレンは魔素を支配し、溜め込んだ。
そして躊躇なく両親の上半身を吹き飛ばした。
「お前……」
俺がそう言うとアレンは言った。
「もう死んだんだよ。救えない。心臓なんて動いてないし、魂というものがあるのだとしたらここにはないと思う。
それにこれが教えだったから。躊躇はないよ」
その言葉に嘘はなく、悲しむ素振りも見せない。それだけの覚悟を持っていた。
俺はうつむきながらも左手を真横に突き出す。
とてつもない速さで近づいてきていたジールの頭が俺の置いてあった手に捕まった。
「また殺なきゃならないのか」
――バキュ。
俺は魔力を流し込み、ジールの命を再び奪った。するとジールは破裂音と共に人形に変わっていた。
「アレンそっちは」
「こっちは変わらないよ。死体のまま。ここに居たから都合よく使ったんだと思う。
本来は人形を使うんだろうね」
大きな振動と音がなり、扉が開いていく。
アレンはそのまま扉へと歩き始めた。俺はそれに追いつく。
扉を越えた後、アレンは言った。
「こんなものなんだね」
「油断するなよ? この塔は天にまで届く高さだ。いろんな敵が出てくるかも知れないし強い奴もいるかも知れない。
一番最初の敵で判断するのはよくないな」
「そうだね。僕の両親だって弱いわけじゃない。頂上に着いたのかどうかだけ気になるかな」
「登るだけで疲れそうだけどな」
「一応食料とか飲み物はたくさん持ってきてるから何日かは持つよ。
途中奪われなければだけど」
「数日がかりになるよなぁ……」
三十分ほど階段を登り、次の階に着いた。
随分歩いた感じがするが階段は螺旋状になっていて、高さはあまり稼げてないだろう。
これを戦いながら登っていくのか。
中に入ると一階にあった水晶が至る所に生えていた。まるで破龍の洞窟のように。
今度は条件を探すことなと必要なく敵が出てくる。
四本脚だが足先は剣のようになっている。下半身と上半身を一本の背骨のようなものが繋ぎ止めていた。
腕も足と同じで剣になっている。頭は兵士のヘルムのような形をしていた。
それが水晶の数だけ出てきた。
何も言わずに俺たちは同時に走り出した。
アレンは敵の振り払う攻撃をしゃがみで避けた後、肩を片手で掴む。もう片方の手で拳を腹に入れ胴体と足部分を分断した。
心配なさそうだと俺は自分の状態を確認する。
周囲に敵が複数体、囲まれている。万が一に備え時解のスキルは温存。
敵が振り下ろした腕を避けつつ手の甲で破壊する。
瞬時に三発の打撃がその敵に降り注いだ。敵はバラバラになった状態で機能を停止していた。
後ろからの振り下ろされた攻撃を体の向きを横にして避ける。
その剣の腕を左手で掴み握り割る。左手は敵を掴んだまま、俺は右手で魔王の剣を抜いた。
そしてその体を一刀両断する。
俺の周囲にいた敵が一斉に俺に襲いかかる。
そして俺に触れる前に動きを止めた。剣による切れ込みが入り、全てバラバラとなってその場に崩れていく。
「ふぅ……」
俺がアレンの方を見るとアレンも最後の一体を相手にしていた。
腕も足も取られたのだろう。胴体だけとなった敵の頭をアレンは握っていた。
そしてそのまま潰す。
扉が開いていく。アレンは戦闘状態が終わりにこっと笑いかけてくる。
「終わったね。行こうか」
「そうだな……アレンお前……結構えぐい戦い方するんだな」
「流れに任せたらあーなったんだ」
俺は階段を登りながらエリナとの出会いを聞いた。
「なぁ、エリナとはどう出会ったんだ? そもそもどういう子供時代を送っていたんだ?」
「ん? そうだね。命と背中を預け合う仲だし話した方がいいかな。
その代わりエノアも教えてね」
「俺は別に構わないが……」
「それじゃとりあえず僕から。
僕が物心をつく前からエリナとは出会ってたよ。幼馴染なんだ。
町の小さな学校に二人で行ったり、休みの日に遊んだりしてたよ。
でも僕がこの塔を攻略するっていう意思を持ち始めた。十歳くらいかな。
エリナは最初嫌がったんだ。でも次第に何も言わなくなった。嫌われたのかと思ったけど一緒に遊んでくれるからよく分からなかった。
一昨日エリナにこう言われたよ。
見ないように、考えないようにしてた。
私は絶対に折れないアレンに対してそれを支えたり、向き合ったりする力と勇気がなかった。弱くて向き合えなかった。その癖にあんな自分勝手なこと言ってごめんなさいって。
それを言われて僕はうれしかったな……
嫌ったんじゃなくて考えないようにしてたって言われて。それはつまり僕のことを思って、思いすぎてそうなってしまったんってことだから。
話を戻すね。僕は幼い頃に両親から拳を学んだ。
いつも二人を相手にしながらぼろぼろになってたよ。ヒドイんだ。手加減なしだから」
「あははっ」
「笑わないでよ……」
「悪い悪い。だってそれが自分の子供を一番守る為の行為だからな」
「まぁね……
それでエリナともあまり会えずに修行が続いたんだ。そのうちエリナは道場に顔を出すようになって僕がやられるのを見てた。
たまにお弁当とか飲み物を差し入れてくれた。僕もエリナの前で負けるのが嫌で必死で修行したんだ。そしたら両親に対抗出来るようになってさ」
「それはエリナには伝えたのか?」
「もちろん。力になれていたことがうれしいって言われたよ。
それから僕は一人ひとりなら両親に勝てるようになった。次第に強さは逆転していった。
僕が行くからと言ったんだけど二人は塔に登ったよ」
「……そうか。自分たちより子供が強くても行かせなかったんだな」
「きっと、僕を守ろうとしたんだと思う。
今なら気持ちが分かるよ。エリナとの子供がもしそうだとしたら。
まぁ子供が出来たかどうかは分からないんだけどね」
「よくまぁ言えるよな。それを他人に」
「言えるさ。僕は死と隣り合わせだ。僕だけじゃない。戦いに参加するものはみなそうだ。
愛する人との間に何かを残そうとするのは自然なことだよ」
「それを言われたらもうなにも言えないな」
「それでエノアはどうなのさ」
「俺は転生者でな。個人の秘密はさすがに話せないから省くか濁すが」
俺は自分の生い立ちを話した。日本から今に至るまで。そのまますべて話してしまうと長くなるのである程度かいつまんで話す。
エピソードの一つ一つをアレンは楽しんでくれた。波乱万丈と言われた。
今にしてみればそうかも知れない。目の前の出来事を解決するのに精一杯だったから考えたことはなかった。
話し終わる前に次の階に着く。
「と、次の階だな」
「これは続きを聞くためにも絶対に倒さなきゃね」
そうやって次へ次へと階を登っていく。今の所手こずる相手とは出会っていない。
どれもこれも小型で数が多いだけの相手。
疲労が蓄積することもないまま階段を登っていく。こんな簡単なはずがない。
もっと何か、勝てないような相手がいるはずだ。
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