表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/178

三人目

 焚き火を消し、俺とイナは荷物をまとめた。



「カンナはどうする? 俺たちはギルドに行って依頼を達成してくるが」


「どうしよーかなー……今後どうするかも決まらないし。

 昼ならスキを見つければ私でもあのイノシシ倒せそうだけど」



「昼飯奢ろうか?」


「いつでも行く準備はできるてるわ!」


「ははっ現金なやつだな」


「誘ってきたのはそっちじゃーん」


「まぁな。さていくぞ」



 俺たちは街のギルドに向かった。



 ギルドに入った後、俺はカンナに依頼を達成してくると言って受付に向かった。


 大きな声が一つ。ギルド内に響いた。


 この嫌な声。以前イナを引き入れようとしたやつだ。


 そいつがカンナに話しかけた。



「あんた確か昨日騒いでたやつだよな」


「え、ええ」


「昨日誘おうと思ったんだが颯爽と出て行っちまったからな。

 魔法使いは貴重なんだ。


 俺のパーティーに来ないか? そしたら冒険者登録の金、肩代わりしてやってもいいぜ」



「んー……」



 なんだ。案外まともに交渉できるんじゃないか。


「どうした? もちろんその代わりと言っちゃなんだが、ご奉仕ってのもお願いするかもなぁ」


「いやー普通に無理かな。あなた達と冒険するイメージできないわ」


 がしゃん


 カンナの背後にある壁が男の拳により破壊されていた。



「えっとー……私なにか怒らせること言った?」



「どいつもこいつも言うことは聞かねぇ。やさしくいってやりゃ調子乗りやがって」


 なんにも変わってないなこいつ。ここまでくると清々しい。



「俺の性奴隷になれっつってんだよ!!


 拒否なんてさせねぇ、使い捨てて奴隷として売りさばいてやるよ!

 最後まで俺たちの役に立ってもらうぜ!」



 なんてストレートな。


 カンナは冷静に言い返した。



「そういうお店行きなさいよ……」


「それじゃつまらねぇ。お前なら戦力にもなるしな」


「いやでーす。――がっ」



 男はカンナの首を片手で締めた。


「あっ……くっ、っっ」


 呼吸の出来ないカンナは男の上半身を蹴るが効果は全くない。

 俺は男の腕を掴んで言った。


「その手離せよ。自分勝手にも程があんだろ」



「ああ? またてめーかよ。凡人の癖によ。どうにかしてみろや!」



「システム リビア 起動 強化」



"強化要請 確認 握力向上 身体能力強化 魔素をエネルギーに変換 成功しました"


 ばきゅっ



「がぁぁぁぁ! 腕、腕がっ!」


「骨まではいってないだろ。カンナ、ほら」



 俺はカンナの胸に金の入った袋を押し付けた。


「登録料分くらいはある。俺のパーティーに入れ。

 苦労させるとは思うが行く宛なんてないだろ。気が済むまで頼れ」



「へっ……ぁ、う、うん……お言葉に、甘え、ようかな」


挿絵(By みてみん)


 男が叫んだ後、男のパーティーメンバーらしきやつらが集まってきた。


 五人か……多いな。カンナは今の所戦力としてはな……



 あれから時間はあった。少しずつ慣れた力も自分を指定すれば問題なく発動できる。


 もちろん失敗すれば爆散するかも知れないが俺自身だけだ。

 周囲の魔素がなくなってきたな。



「イナ、後で肩を貸してくれ」


「はいっ!」



「"満ちろ”」



 魔素があたりに漂った。


 大丈夫、大丈夫。そう自分に言い聞かせた。

 その後男は自分の腕を抑えながら話し始めた。



「知ってるか? おめーの怪我させたリーシアって女。今は幽閉されてるらしいぜ。


 なんでも反逆をしようとしたらしい。

 まさかとは思うがお前のせいかもなぁ?」




「うおっっ」



 男が後方にぶっ飛ばされる。リビアのスキルによって。



 止めるすべなどなく後方の壁に激突した。その衝撃はギルドの壁にヒビを入れ、男の通った後は嵐が通ったかのようにめちゃくちゃになっていた。



「幽閉? リーシアが」



 駄目だ。リーシアのこととなると冷静になれない。



「いってぇ……なんだってんだよ……


 な、なんだ? なんだこの魔素量は?! 夜でもねぇのに、いや夜でもこんな魔素の密量はありえねぇ! そんな馬鹿なことがあるか!」



 この建物の空間に集まった魔素の濃さのせいで他の人間までもが苦しみ始めた。

 濃すぎるのか。空間が狭すぎる。



「くそが……お前がやったのかエノア。こんなのできるはずがねぇ。

 この魔素量を滞在させてるってのか?


 ふざけんなっ! こんなの終焉魔法レベルのっっがっっっ」



 イナが男のみぞおちを殴り意識を失わせた。



 イナは魔素を直接エネルギーとして取り込める。魔獣と同じでイナは夜のほうが強くなる。


 そしてこの空間は魔素に満ちている。この濃さは人間にとっては毒でもイナにとっては実力を発揮するのに持ってこいの空間となった。



 敵対していた人間をイナは次々と倒していった。


 俺は目の前にまで来ていた二人を見た。


「お前らはどうするんだ。降参するのか? どっちだ」


 一人が苦しそうにしながらも叫ぶ。


「な、なんだよこの威圧感は! お前ほんとに人間か? なんでこの魔素の中で平気でいられるんだよ!


 お前はこの国のおちこぼれのはずだ!!」



「この国にどう思われるのかなんて知ったことじゃない。



 答えろ」



「っっっ」



 二人同時に白目を向きながら気絶した。



 魔素による圧迫感と昏倒、与えられた重圧により倒れたのだろう。



「ご主人様終わりました。ご主人さまに敵意を向けていた全員の意識は今ありません」



「分かった。窓やドアをあけて空気の流れを良くして、くれ……」



 くらっ


 意識が、落ちそうだ……




「やばいな。思ったより早い……っ」



「えっ大丈夫なの?! なんか私のせいで、ごめん、あと――ありがとう」



 カンナは俺の腕を掴み自分の首にまわした。


「いや、今回も俺のせいみたいだ。それに一瞬でもカッとなった自分が悪い。

 それとあの性欲に正直なバカのせいだな」




「っ、ふふ。そうだねー」


 すぐに空気を入れ替え、男たち以外は意識を失わずに済んだ。男たちは表に捨てて置いた。ギルド内の俺を見る目が変わっていた。



 恐れ、混乱、混沌、戸惑い。


 そりゃ怖いさ。特にあの状況は他の人間から見れば酸素が極端に薄い状態で俺とイナが普通に動いていたのだから。



 なぜかカンナも平気だったが転移者だからではないかと俺は考えている。


 あの状況下で俺たちを見れば怖いに決まってる。



「ミルさん。ごめんなさい。建物、壊しちゃって」



「あ、いえそんなっ。と言いたいですが私の判断ではどうにも……


 私も見ていましたがあれはあの冒険者が悪いです。やりすぎとも言えますが私の偏見と独断によりエノアさんたちに被害が及ばないようにはしてみます。


 コンスタントにアシッドボアの依頼をこなしてくれるのはギルドとしては助かっているんです。ある程度慣れると誰もやりませんから」



「ありがとうミルさん」


「はい! それとこの街での評価も変わってしまうかもですね。


 今ギルドにいる冒険者は時間帯のせいで少ないですが冒険者は冒険者。


 エノアさん達の強さを目の当たりにして言い訳できないほど実感したはずです。


 エノアさんが凡人などではないと」



「どうかな。信じるかどうか。


 一度決まった評価と結果はなかなか覆せないものだよ。


 魔王でも倒せば勇者として認められるだろうけど」



「期待してますよ!」



「ま、頑張ってみてもいいかな。リーシアにミルさん。


 二人に期待されたら」



 リーシアとはもう会えない。手遅れだと思った。


 でも、もしかしたらリーシアはずっと戦っていたのかも知れない。


 俺はカンナと外に出た。イナも後からついてきた。


 またやりすぎたが今回は建物をほとんど壊さなかった上に被害は最小限。


 結構成長したんじゃないだろうか。

 そんなことを思っていた。


「エノアー! エノア!」



 遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 この声、そんなまさか。

 だってさっき幽閉されてるって……



「エノア!」


 がしっ

 リーシアは俺に抱きついた。中腰だったためか胸が顔にあたる。



「リ、リーシア?! どうして」



「頑張ったんだから! 頑張ったんだからね!


 そしてもうひとり頑張った人がいるの。私が外にでるために尽力してくれた人。


 なんとこの国の王女!」



「王女、王女?!」



「あ、あの。王女ですわ。お初にお目にかかりますエノア様。


 お話はリーシアから聞いてますわ」



 唖然とした。王女様? 初めてみた。


 紫がかった髪色で長い後ろ髪を編んでいる。その毛先をリボンで留めている。この場に似合わないきれいなドレスを着ていた。


 その立ち振舞や雰囲気はたしかに高貴なものだった。



「これが、この子が、カリムとあの国王と血がつながっているだと?」



 邪悪の一文字など、かけらもなかった。


「きゃぁっ」


 背後から王子カリムが現れ、妹である王女を蹴り飛ばした。

 膝をつく王女。



「貴様……兄である私に恥をかかせるつもりか!


 王宮を抜け出し、さらにはリーシア嬢を誘拐だと!


 死刑にしてやろうか? お前の愚行を父上にいいつけてやる!」



 剣を振り下ろすカリム。



 俺はその剣を塞いだ。リビアの影響で意識はギリギリ保っていられる状態だがまだ動ける。最悪残りの体力を振り絞って魔素を集めてリーシアとイナに逃げてもらう。



 リーシアの魔法とイナの身体能力ならカリムくらいは巻けるだろう。


「てめぇ今、自分の妹を斬ろうとしなかったか?」



「斬るだけだ。父上の元に届ける。


 私のっ私の邪魔をした妹には罰が必要だろう?!


 エノア、貴様もだ。いつもいつもいつも貴様は目障りだ!


 ここで貴様の命も落としてやる!」



「威勢がいいなカリム。


 もうなにもできなかったころの俺じゃない」




「やってみるがいい凡人! お前の努力、実力などたかがしれているのだ!」

面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。


喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ