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裏で手を引く者

 俺はこっそり宿に戻ってリーシアとトアと会話していた。

「外で兵士が見張ってる。出入りを知らせる魔具も設置されてた」



 リーシアは窓の外を見ながら言った。


「やっぱり外には出さないつもりなのね」



「ああ。起こっている問題はある程度分かった。後はそれを裏で手を引くやつ。こいつに対する手がかりが全くないことだ。

 盗賊ギルドだとは限らない。彼らが手を組んだだけの可能性もある。たとえばジールのように魔物や魔族を操っているやつと」


「その線が濃厚ね。手がかりかぁ……んー……」



 誰かひっ捕まえて問い詰めるのが一番早いだろうが答えるかどうか。


「秘密裏に問い詰めて行くしかないな」

「そうね。じゃあここの宿の店主連れてくるわ」


 トアはなぜ? と答える。


「お客として文句を言ってやるのよ」

「?」








「ちっ、すいません」


 白々しい……

 リーシアが店主をこの部屋にまで連れてきた後、荷物がなくなったことを怒ると横を向いて舌打ちされる。


 心にもないような口調で吐き捨てるようにすいませんと言われる。非常に態度が悪い。

 リーシアは剣を握る。



「ここに荷物を置いた。それならその荷物を守るのはあなたの役目でしょ? 鍵は掛かっていた。むりやり開けられた形跡もない」


「締め忘れんじゃないっすか」



 剣を今にも抜こうという相手を目の前にしてこの態度だ。


「しらばっくれるのね。後悔するわよ」


「いやほんと知らないんですって。どうせ大したもんも入ってなかったでしょ」



「あの中には大切なものが入っていたわよ」

「へー」



「あの中に値打ちのつかない異世界の石が入ってるのよ。それも相当貴重なものよ。加工すれば魔具として優秀なものになるの。わからないように他の石も混ぜていて素人目にはどれが本物かわからないようにしてあるの」


「えっ! あの中にそんな値打ちもんが!」

「ないわよバカなの?」


「だ、騙しやがったなこのアマ!」


 影が店主の体を包んだ。口を塞がれ身動きがとれないでいる。

「言葉に気をつけろ」


 俺はそう言い放つ。


「んっんんん!!」



 リーシアはにこっと店主に笑いかけた。


「そういうことっ。あなたに指示を出した人、呼んできてくれるかな」

「んん! んん!」


 店主は首を横に振る。



「言い方を変えるわ。連れてきなさい。あなた共々全員殺すわよ」


 もちろんそんなつもりはないだろうがこの脅しはかなり聞いたようですごい勢いで首を縦に振っていた。


 俺が影を解くとすぐに走り出した。

 ほんの数分で戻ってくる。朝金貨を払った男を置いて、店主は逃げ去った。



 男はまず消えた金貨について話し始めた。


「俺が大事に持っていた金貨が……突然消えたんだがこれはどういうことだ?」


「知らないな。落としたんじゃないか?」


「だとしてもなくなったものはお前がこの街に入るために払ったお金。

 それがなくなったのだとしたら払ってないも同然。もっかい払ってもらおうか」



「また金貨二枚か?」

「そうだ」


「トア」


 トアは軽くステップを踏みながら男に近づいた。そして軽く素早く拳を一発入れる。



「ぶっ!」


 男はのけぞり、バランスを保つために一歩、二歩と後ろに下がった。トアは先ほどと同じ用にステップを踏みつつ一定の距離を保つ。

 また軽くパンッと一発、また一発。


 男は立っていられなくなり地べたに寝転んだ。

「いっでぇ!」


 盗賊ギルドとしては弱すぎる。戦闘力などないに等しい。



「トア、もういい」


 トアはその手を止めた。もう一発本気で殴りたそうだったがスキルや魔素なしでもこいつは気絶するか死んでしまうだろう。


 俺は男の首を掴んで持ち上げた。そして壁に叩きつける。かろうじて男の足元にベッドの端が届いている。それでも呼吸は難しいだろう。



「答えろ。黒幕は誰だ。時間を掛けるつもりはない」

「知ら、ないっ」


「このままだと数分掛からず死ぬぞ。後遺症が残るかもな」

「ほんどにっ! ほんどに、しら、な……」


 俺は手を離した。男はそのまま地面に落ち、咳をしながら喉を押さえる。


 だめか……口止めは簡単だが……




 ウウウウウウウウゥゥゥゥゥ。

 外から警告音のような音が鳴っていた。


「魔族だ……」

 喉を押さえたまま男は言った。


「魔族? お前達が呼んでるんじゃないのか」


「知らない。確かに俺達は好き勝手してる。それはある人からのものだ。

 あんたらの探してる人は本当に知らない。顔も見た目も。

 だけど盗賊ギルドの集会所に手紙と魔具が置かれてたんだ。


 ”この街を守れ。そして金を集めてその一部を私に献上しろ。

 金の置き場所は街の外にでも置いておけばいい。中の者は外に出すな”



 それでこの魔具を持っていると魔族や魔物は逃げていくんだよ。そして要求された金を用意しながら好き勝手してたんだ。

 俺たちより強いものはいないから……」



 目的は金か。しかし魔物や魔族が逃げ出す魔具? ただの匂いを放つガラス瓶だが……

 匂いもこれはただの柑橘系の香りだ。変なものではない。


 魔具と呼べるような品物じゃ……



「っと、こうしてる場合じゃないな。魔族が出たんならそっち行かないと。リーシア、トア付いてくるか?」


「「行く!」」



 俺たちは男を置いて表に出る。


 街でパニックになった様子はない。おそらく今まで通り守ってもらえるからだろうか。それならあの死体は一体……



 真っ暗闇の中、耳を済ませ侵入してきた魔族、もしくは魔物を探す。

 こんな時、イナが居ればなんて思ってしまう。



 トアが走り出し、目の前の家の壁を蹴りながら上っていく。二階のベランダに手をかけた。その手で自分の体を引き上げる。

 トアの体は空中に投げ出され、そのまま屋根の上に着地した。


 周囲を見渡し屋根から飛び降りる。音を立てないためか転がりながら着地する。



「居たよエノア。あっちだ」

 それは俺たちが入ってきた道のほうだった。


「見えたか?」

「いや、暗くてよく見えなかったけど目が光ってたから」


「ならそいつで間違いなさそうだな」


 俺たちは急いでそこへ向かう。誰も外に出ようとはしていない。

 入り口に着くと、兵士達は何もせずに立っていた。



「おい。なに突っ立ってんだ。お前らも魔具もらってるんだろ」

「魔具? そんなものはもらっていない。ここからは出さんぞ」


「なら魔族だか魔物だかの対処をしろよ」

「その必要はない。彼らは殺すべきやつを殺す。だから放置でいいんだよ」



 ……これは別口だな。

 盗賊ギルドと兵士で別々の指示を与えている。


 俺は兵士を放置し、魔族を探す。

 そいつは数百メール離れた裏路地でうろうろしていた。

 俺はその方向へ走り出し、魔族を押さえつけようとしたが……


「ジール! なんでお前こんなとこに」

「アア……ア」


「っ……遠くに居ても洗脳に掛かるのか」



 ジールは再び正気を失っていた。仕方なく俺は少しずつ魔王の力を出していく。


「ア、アア、あ、う、魔王様? なんでここに」

「こっちのセリフだ。と言っても覚えてないだろうけどな」


「ここは……?」

「街の中だ」


「っ! また俺何か」


「やっちゃったな。まぁそんなことはどうでもいい。

 お手柄だ」


「?」


「魔素の痕跡が残ってる。

 リーシア、辿れるか?」



 リーシアは漂う魔素を眺めながら言った。


「うっすいわねぇ……なんとかしてみせるわ」

 漂う魔素にリーシアは手を触れた。


「ダグラスの炎よ」


 省略詠唱。魔素は導線を追う火花のようにチリチリッと光を発しながら進んでいった。

 それを状況が飲み込めていないジールを連れて追っていく。

 壁の外へ向かった時、俺は時間を止めて全員運びだした。


 ジールを連れて行くのが最も疲れた。


「はぁ、はぁ……よし、行くぞ」


 動き出した時間の中、火花は進んでいく。少しずつ火花が小さくなっていく。

 リーシアがもうちょっとがんばってと火花を応援する。

 そしてある程度進んだ位置でブツンと消える。


 なにもないただの土地。草木が転々としてるだけでなにもない。カラムスタの時のように地下につながりそうな目印もなにもない。



「ごめんエノア……」


「いや、ここが終着点だよ。空虚」



 何もなかったはずの場所に大きな一つの家が現れる。周囲に数え切れないほどの魔族と魔物と一緒に。

 しかし襲ってくるわけではない。ただそこに立っているだけ。


「認識阻害だ。ゴル達が使っていたものと同じだろう。こいつらは無心状態だと思う」



 木とレンガと使った家の中に俺たちは入っていく。魔物と魔族がいつ動き出すかとジールは不安がっていた。

 俺もいきなり動き出されたら驚くだろう。こういういきなりってのはいつまで経ってもなれることはない……

 カラムスタの死人を思い出す。



 中はホコリが被っている、生活感はあまりない。どちらかと言えば空き家。しかし魔素がここから流れてきていたということは必ずここにジールを洗脳したやつがいる。

 そいつが黒幕かどうかは分からないが……


 あの後、この家を散策したが手がかりらしきものは見つからなかった。そうなると上か下。お空に浮いてますなんてことはないだろう。

 また地下か。隠れてなにかするなら地下が一番だと言うことなのだろう。

 カラムスタの時も、聖書の奴隷の時も……そして今回も。


 俺は地面に手のひらを乗せ、影を這わせた。



「見つけてきてくれ」

挿絵(By みてみん)

 バッと影が一斉に地面を這う。そして段々と収縮していき一本の線が出来る。それを追って行くと廊下の一箇所に影が四角くなって待っていた。


「そこか。ありがとう」



 まるでスライムの時のように影が上下にぽよんぽよんしている。今度スライムと遊ばせてみようか……気が合いそうだ。なんなら話も合いそうだ。


 影が中に入り込み、内側から木の板を押し出した。拳ほどある板を押し出した後、影たちは戻っていった。

 中にははしごと先の見えない空洞。


 周囲から聞こえる騒がしい音。この家を壊さんとばかりの勢いに俺はため息をついた。

 外に居た魔族や魔物達に命令がいったのだろう。


 するとリーシアとトアが私達が相手しておくから行ってきていいよと言った。

 俺は二人に念を押す。


「殺すなよ?」


 リーシアはこう答える。

「もちろん。操られているのなら殺すつもりはないわ。

 戦闘不能状態に追い込むわ。全員終わらせたらそっちに向かうから」


「分かった。ジール。二人の邪魔になるだろうからこっちに来てくれ」

「分かりました」



 俺ははしごを滑り落ちるように降りる。そしてジールも同じ用に降りてくる。

 一方通行の道が掘られている。かなり狭い。ジールでは通れない。


 四角い穴が足元にあるのだが人でしか通れないような大きさなのだ。それも大柄の人間は通れない。



「地上まではたしか距離があったな。待たせてもいいが不安だろうし、影に掘ってもらうか」


 そう言って影を呼び出す。


「何度も悪いな……ここをジールが通れるくらい掘ってほしいんだけど」


 影は理解したようでジールの周りをうろちょろした後、型抜きのように道を押し広げていく。型抜きの内側にあった土は奥へと運ばれていく。


「頭いいなぁ……よし行くかジール」

 二人でほふく前進しながら進んでいった。

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喜びます。

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