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欺いて

 カルガディアを経由する最後の街に俺たちはたどり着いた。彼らも距離がある程度近いため寄ったりすることはあまりないらしい。

 ゆえにこの惨状を飲み込めないでいた。


 ゴミが散らばり、女が犯されても兵士は動かない。死体が転がっていても誰も気にしていない。腐った死体を鳥が食べていた。

 建物自体は老朽化などはしておらず、手入れはされている。そして彼らが驚いていることを考えるとつい最近こうなったと見るべきだ。


 路地の中央で人だかりが出来ている。喧嘩のようだ。

 短い剣を持ったまま見合っている二人。お互い躊躇している所を見ると手を出したくないという考えが見て取れる。

 そしてそれをさせているのは周囲の武器を持った者たち。金を握りしめ、発破をかける。

 商人はその変わりように膝から崩れ落ちた。


「なんなんですか、これは……私の知っている街じゃない。こんな無法地帯と化した場所じゃなかった。たった数年でなぜ」



 盗賊ギルドの一人が言った。


「ここはうちのギルドが仕切ってたはずだ。なぜこんなことに。そもそもこの状態になれば親分に連絡が入るはず……」



 俺は商人に外で待機するよう伝えた。


「さすがに荷台の中を見られた時のリスクが高すぎる。それに今の言葉を聞いたかぎりだとここに入ったら出れないと思った方がいい。

 感染症も気になる。全体性や毒、病気に対する耐性を持つ俺らはいいがあんたらは外にいるべきだ。まずは俺たちで聞き込みしてくる。このカラスを通じてそっちに連絡寄越すからばれないように待機」



 そして俺とリーシア、トアはその街へと足を踏み入れた。

 距離は近いと行っても塩の被害があるほどではないらしい。建物は木造を中心としているがレンガ造りやコンクリートらしき家も見える。

 土は乾燥気味、砂が風に乗る。死体の周囲では金属のような腐敗臭が鼻をつく。街へ入ったと途端、大勢が駆け寄る。


「うち泊まんない?」

「美味しい店知ってるよ。案内しようか!」

「この街の穴場あるよ」



 一人の男がそいつらにどけと命令する。彼らはその男の命令に従った。


「俺は盗賊ギルドに所属してるもんだ。この街を管理している一人であり旅行客の案内と説明を行なっている。

 運がなかったな。この街に入ったからには出ることは許されない――なんてな! あはは!

 ただし街に入るためのお金は払ってもらうぜ。出る時はいらない」


「いくらだ?」


「金貨二枚」



 トアが敵意を出しそうになったのを視線で止める。

 持っていた袋から金貨を取り出し、そいつに渡した。


「ほら」


「おっ、言い値で出してくれるなんてラッキー。こりゃ歓迎しないとな」



 ぷるぷると震えるトアの肩に手を置いて押さえる。

 金を受け取ったそいつは宿の手配と今日のスケジュールまた用意していた。

 言われた通りの宿に荷物を預けるなり食事処へ連れて行かれる。


 そこたやっと一息つくことが出来た。旅人の俺たちが珍しいのだろう。こんな所に来るなんてという珍しさだろうが。



「なんでだよエノア! ぶっ飛ばしてやろうぜ!」


「末端を倒しても根源が居なくならなきゃ毒は広がり続けるんだよ。情報が揃うまで我慢してくれ」



「お待たせいたしました」


 料理が運ばれてくる。どれもこれも普通の料理だった。あの街の惨状から抵抗はある。申し訳ないがリビアに毒などがないか確認してもらう。


 ”大丈夫よ。普通の食事。ただその街、ただの無法地帯じゃないかも知れないわ。今確認したけどこっちに来てない魂があるの”


 分かった。呼び出して悪かったな。



 ”いいのよ。それじゃ”



 思ったよりもこの街の状態は複雑そうだな……もしジールとも関係があるのだとしたら……

 リーシアは顔を近づけてこの問題を解決するのかと聞いてきた。


「するよ。ほっとくわけにもいかないだろ。もやもやするしな」


「はぁ……カルガディアの攻略だけで本当は手一杯だと思うんだけど……


 まぁいいわっ! 盗賊ギルド、そう言っていたわね。つまり一つのギルドがカルガディアとこの街を管理している。けれどこの街とカルガディアの間で連絡をとりあえていない。

 もしくは虚偽の申告を受けている。そしてこの惨状を作り出したのは反応から見てこの街の盗賊ギルドってとこね」



「ああ。そうなってくるだろうな。

 もう少し情報を集めよう」



 食べ物に問題はないと伝えるとトアは炭酸のジュースを一口飲んだ。

 そしてガッと頭の後ろを左手で掻きむしるようにして怒りをあらわにする。



「あーむしゃくしゃする! なんであんなのに金貨も! 働いてるやつ一ヶ月分くらいのと稼ぎだって言うのに」

挿絵(By みてみん)

「ん? あー、あれなら返してもらったよ。ほら」


 俺は手のひらを見せる。上から金貨二枚が落ちてくる。



「え、なんで」


「転移術式をこの二枚に入れておいたのさ。物くらいだったら俺でも転移させられる」



「言ってよぉー……怒って損したじゃんかぁー」


「あはは、悪い悪い」



 俺はその後、その店にいるやつに話しかけていた。



「はっきり言ってこの街の状態に疑問があるんだ。教えてもらえるか? もちろん誰にも言わないことは約束する。礼もする」


 俺はそいつの手に銀貨を一枚。

 そいつは顔を背けたまま話してくれた。



「魔王が現れてから、この街には魔物や魔族がうじゃうじゃ出るようになった。なにが目的かは知らないが次々と人が死んだり、連れて行かれたりしたよ。

 そいつらから守るという名目で今まで依頼された時だけ仕事をこなしていた盗賊ギルドが街を管理するようになったんだ。


 その途端金額が跳ね上がってこの有様さ。払えないものに人権なし。魔物や魔族は減ったがいなくなったわけじゃない。


 ただ搾り取られるだけの毎日さ。あんたらももうこの街は出れないだろう。

 盗賊ギルドの親玉も、魔族の王もクズだよ。俺たちの静かな日常が荒れ果てた。

 やっぱり返すよ。気の毒だ」


 そう言って握っていた銀貨を俺のポケットに戻した。


「そうか。いい情報だった。生きる金を得ることすら大変な状況で金を返すなんて、尊敬するよ。きっといいことある」


「どうせ持っててもいつか盗賊ギルドにせしめられる。ただつらくないように死ぬまでの毎日を送っているにすぎんよ。

 あんたもいいことあるといいな」


「じゃあな」


 俺はそう言って席を立つ。彼は店主に会計と言った。

「あれ、なんで銀貨が五枚も……銅貨しか持ってなかったのに……まさか」


 俺は少し微笑みながら手のひらを見せた。彼は頭を下げ、俺に礼をした。




 またか。俺たちのせいにされちゃ黙っていられない。これはおそらく故意だ。

 自分達から目をそらせる為のなすりつけとはな。

 いい度胸じゃないか人類最大の敵に。


 俺たちが宿に戻ると見事に荷物がなくなっていた。まぁ中身は石しか入ってないんだが。今頃変な旅人だと思われながら後悔されていることだろう。

 俺はカラスによる伝達では伝えきれないと考え、時間を止めつつ影踏みで街を出た。そして俺たちを警備した盗賊ギルドと商人、ジールの元へと向かった。


 離れた位置で焚き火をしつつ野宿をしていた。



「あの街を仕切ってるのは変わらず盗賊ギルドだ」


「あれっ! なんで、あの黒い鳥で連絡するって、しかもどうやって」



「それを説明するのは面倒だから今は置いといてくれ」


「分かりやした。けど俺たち盗賊ギルドはあんなたちの悪いことしないぜ」



「俺を襲ったじゃないか」


「それは俺たちの独断だ。ギルドの方針じゃない。盗賊ギルドとは言いつつも実態はどんな仕事でも受ける可能性があるギルド。

 それが悪事だとしても。今回あの店はギルド長のお気に入りでもあるんだ。だから商人に警備を付けた。魔族のこともあるし。


 もちろん金は取るがその金がなかった……」



「商品は届けたんだろ?」


「問題は回数と運んだ魚の数なんすよ。

 一回で稼げりゃいいけど一回の金額なんてたかが知れてる。これ以上こいつから金を取ったら生活費がなくなっちまう。

 魔族で行き来は難しいし、漁をしたやつらも魔族に襲われることがある」



「へー……意外と考えてるんだな」


「俺たちは俺たちの街の住人さえ良ければいい。他の街のやつらはどうなったっていい。

 そういうふうに選んでる。それがうちの盗賊ギルドだ。

 当然あの街も……」



「魔王とあんたらの親玉のせいになってたぞ」


「親分はあんな下劣なことしねぇ! 絶対許さねぇ!」



「だろうな。今の話とここまでのことを考えると悪事をなすりつけられてんのさ。

 腹が立つよな」


「ほんとだぜ!」



「さてそこでだ。お前らの内何人かにこの惨状を伝えに行ってもらう。そんで親玉連れてこい。叱るから」


「へい……ってなんで叱るんだよ!」



「管理責任だ」


 俺は低い声でそう言った。




「うっ」


「なんでもいいどうでもいいで人の上に立つなと言っているんだ。

 虚偽の申告を受けていたとしてもその目で確認をしなかった。現にそいつの甘い考えのせいで何人野垂れ死んだ。ハエがたかったまま放置された死体はいくつある。

 自分が管理すべき組織を野放しにしたからだ」


「……お、仰る通りで……」



「発端となった奴が最も悪いのは確かだけどな。そういうことだ。

 ジールは俺の近くに置いておきたい。だから商人とそれを警護すん何人かはここに残ってくれ」


「了解しやした」

 さて、戻るか。

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喜びます。

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