女の子として【カラー】
その日は予定どおりこの街に泊まることとなった。
俺たちを襲った奴らは盗賊ギルドだと言っていた。彼らは野宿し、商人は別の宿へ。日が落ちてきた街に明かりが灯る頃、俺たちは先程の店へと向かった。
俺は昼に挨拶したウェイトレスに声をかけ、俺は熟成肉を、リーシアは焼き魚を注文した。トアは昼と同じものを頼んでいた。
実はあの後、リーシアに肉の産地も聞くようにと言われていた。次に泊まろうとしていた街から北に向かった先に牧草地がある。
そこに住む代々畜産業をしている一家から取り寄せているのだと言う。別でロンに交渉に行かせる約束をリーシアとした。
だからと言ってこの店に来ないわけではない。この焼き方、ソース、それらはここの料理長が作り出したものだ。
何度も足を運ぶことになるだろう。転移術式を配置したい。と言ってもこの領地を治めてる統治主との交渉しだいだが……
魔王だからと言って無理やりなんて考えていない。そんな独裁をするつもりはない。
再び会計を済ませ、俺たちは宿で体を休める。
次の日、盗賊ギルドの奴らと商人に会った後、荷台に乗せてもらった。ふと気になり影を出してみると問題なく出せていた。
俺もクロエも影を扱うことは出来るらしい。
リビアを呼び出し、影がどういう意思で動いているのかと聞いた。
”影の世界はいわゆる死者の国よ。神に選ばれなかった者、神に捨てられたもの、毛嫌いされた者、そういう存在が集まっているの。当然転生も出来るけどほとんどは魔族よ。人間は天界に行けることが多いもの”
じゃあこの力にも魂が宿っていると?
”半分正解。半分不正解よ。魂っていつまでもその形を保っていられると思う? 死んだ後どれだけの記憶が残ると思う? もし残っていたとして、その死に方が残酷なものだったら? 死にたいと死んでその先が永遠だったら?”
……魂は朽ちるのか。
”そう。でも魂自体はそこにある。記憶はほとんど抜けてただそこにあるだけの何か。それがあなたの使っている影の力よ。だから影によっては意思が残っているものもいるし体を保っているものもいる。あなたが使っているのは朽ちた魂だから人形にはならないでしょうね。あっちょっと、今忙しいのよ”
どうかしたのか?
”ちょっとこの子達がね。ごはんならさっきあげたでしょ。え? 話したいってまだ言葉覚えてないでしょ”
リビアとの会話中、にゃーと鳴く声が複数聞こえる。声自体は人間の声だが……
なぁリビア。俺がここに転生して、クロエが俺のサポートとして常に一緒にいた。そういうスキルだと。これは偶然か? 偶然でないのならなぜ隠した。
”ごめんなさい……あなたが、どういう感情を向けるか分からなかったから。全部あの子に任せようと思ったのよ”
そうか。だがなぜリビアがそれを知っている。俺に肩入れする理由はなんだ。
”ごめんなさい、忙しいから”
答えるくらいは出来るだろ。居たんだろ?
そう言うとリビアは自分自身がクロエの中で俺と接していたことを知った。そしてリビア自身が何度も苦痛を感じながら死んだということも。
”そういうことよ”
そうか……なぁ、リビア。お前の求める願いってのは自分自身の解放か?
”そうね。自分勝手な願いを押し付けてごめんなさいね。他にも理由はあるけれど一番の理由はそれよ。私は命を終えたい”
その為に神を殺せ、か。さっき天界と言っていたな。神はそこにいるんだろ? けどどうやっていくんだ。
”ダグラス王国、あそこにはダグラスに関する聖遺物が多く残ってるわ。もしかしたら手がかりになるものがあるかも知れないわ”
つまり行き方は全く分からんと。
”ええ。だから、叶えられないのなら……それでいいわ”
そうだな。神の塔って言うくらいだから手がかりありそうだな。
”協力してくれるの?”
「俺は今……幸せだからな。感謝してるんだ」
リーシアがどうかした? と聞いてくる。俺はなんでも無いよと答えた。
”ほんと変わらずいい子ね。随分とひどい世界にいたからかしら。あなたのそういうやさしさが私の心を奪っていったのかもね。もう行くわ。忙しいのは本当だから”
俺は微笑んだ。リビアだってやさしいじゃないかと。
忙しいか。影の、死者の世界。つまり忙しいのって俺たちがミレッド帝国の人間を殺しまくったからじゃ……
人間は天界に連れて行かれると言っても異教徒である彼らは影の世界行きだろ。ごめんなリビア……
荷台に乗せてもらいながら少し早めのペースでカルガディアに向かうことになった。盗賊ギルドの奴らもある程度の荷物は荷台に乗せていた。
そのおかげで足取りも軽く、休憩も少なくすることが出来ている。
予定より一日早く次の街へと着いていた。
日が暮れるまでかなり時間があった為、リーシアは一緒に買い物にでも出かけないかと誘ってきた。
「ね、買い物しましょ。ずーっと同じような服じゃ飽きちゃうわ。冒険者でもないんだしいいじゃない!
トアも一緒に行きましょ」
トアは恥ずかしがりながらそれを断った。
「いいよ……あたしはこれで。充分きれいな服着てるし、戦闘スタイル的にもこんな感じじゃないと」
「なーに言ってんの女の子でしょ? かわいらしくしましょ?」
「い、いいって」
「はい決定! ほら、エノアも行くわよ」
相変わらず行動力が高い……
服が売っている店に入り、早速リーシアは服を選びだした。トアはソワソワして落ち着かない様子だった。
俺も女性用の店ということもあって置いてあった椅子で休んでいた。
トアは座っている俺の目の前にまで来て言った。
「あ、あたしやっぱ帰るよ。なんかこんな感じの性に合わないっていうか落ち着かないって言うかさ……」
「リーシアが許してくれるならな。後ろ」
「え?」
トアが振り向くと既に服を何着か持っていた。
「ダメに決まってるじゃない。行くわよ試着室」
「ひっ、そんなかわいいの着れない!」
「勇者候補なんだから勇気出しなさい。行くわよ」
問答無用でトアは連れて行かれた。そして声だけが試着室から聞こえてくる。
リーシアが驚きの声をあげていた。
「な、なによこれ……この重量感……私も予定では……」
「へ、へんなこと言うなよ! エノアに聞こえるだろう!」
いやもうバッチリです。
「これなんかどう? そうそう。似合ってるじゃない!」
「でも……」
「いや? なら……こっちは?」
「む、無理!」
楽しそうで何よりだ。最近戦いもなく、のんびりしていたせいかあくびがでる。
「ふぁー……はぁ……」
リーシアが試着室から顔を出す。
「ふっふっふ。どうエノア。これが私が選んだトアの女の子っぷりを引き出す服よ!」
ジャッと勢いよく試着室のカーテンを開く。
トアは慌ててこう言った。
「あっちょっ、ちょ……ま、待って」
恥じらいながら試着室にいるトアはリーシアの選んだ服を着ていた。慌てて隠す。
「み、みるなぁ!」
トアは両手で自分の顔を隠してしまう。それをリーシアが咎める。
「こらっ、せっかくかわいい服着てるんだから顔隠さない! はい堂々として!」
「う、うぅ……」
黄色みのあるワンピースとシャツが合わさったような服をベースとして、その上に紺色のスカートを履いている。スカートの裾の部分に白い横線模様が入っている。胸の下で茶色いコルセットを巻いている。
コルセットの先にはフリルがあしらわれており、その両サイドにはリボンが付けられている。それがひらひらと動く。
そのコルセットが腰を締めて、トアのその大きな胸を強調していた。襟部分にもリボンが付けられている。
そして薄いピンク色の羽織物が慌てていたからだろうか、片方の肩から脱げている。
いつものトレードマークの頭についてる大きなリボン。それと同じ色のリボンを横髪につけている。女の子らしさがぐっと上がっている。
「か、かわいい……普段は肌の露出が多い服を着てるけど、それは戦いに特化したもの。今回は肌の露出が少ないにも関わらずトアの女の子らしさが出てる。
恥じらっている点も最高だ!」
「真面目に解説すんなっ!」
「いや、かわいいよほんと」
「っ~~~!」
トアは試着室にさっと戻る。リーシアとの会話が聞こえる。
「どうする? 買う?」
「……」
トアはその後、小さな声で買うと答えていた。
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