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転移者 カンナ

「もぐもぐもぐ」


 イナはいつものようにおいしそーに食事をする。

 あれか結構経っているが今でもアシッドボアの肉はおいしいらしい。


 と言ってもいつも同じ味というわけではなく、今は何かと調味料を買い込んでいる。


 ハーブアンドソルト。これは俺もお気に入りの調味料だ。


 そして今日はおいそーに食べてるやつがもうひとりいるわけで。



「なにこれうっま! お店出せるでしょ! もぐもぐ。


 臭みとか全然ないし、東京で一発当てられるんじゃもぐもぐ」



 言い終わる前にもぐもぐ。


 この子はカンナという名前だと言った。


 カンナは転移者だ。詳しく聞こうと思ったが二人の肉に対する意欲が強すぎてやめた。

 

 カンナは食べ終わった後、イナから飲み物を分けてもらった。



「ぷはーっ! おいしかったぁー……極楽。


 火起こせなかったから今まで生肉だったし、ほとんど木の実だし。


 寄生虫とかの知識はあるから大丈夫だけどさ……


 文明は神。肉まで頂いてほんとありがとうございます。


 ごちそうさまでした」



 カンナは手を合わせた。



「おいしいとお褒めの言葉を聞いたところで聞こうか。


 話せるとこまででいい。俺の興味だしな。


 どうやって来たのか。それといつごろに日本から来たのか。


 それと……」



 俺が死んでから大体十六年。カンナは転生後の俺と同じ年だ。


 つまり俺が死んだあたりに生まれたことになる。



 俺が死んだ時の事を聞いたがさすがに自分が生まれた年の電車での事件なんて覚えているわけがなかった。


 それにただの事故として処理されてる可能性もある。


 そうあって欲しい。



 それと日本は今までと対して変わっていないらしい。

 流行り廃り、技術の進歩はあれど大きな変化はなかった。



 カンナは焚き火に手を向けながら自分が今までどうやって生きてきたのかを話し始めた。



「なんといいますか。死にかけ……てた。


 理由は伏せるけど寒くて、死にそうで、もしかしたらほんとに死んじゃったんじゃないかって思ってる。


 気づくと暗い世界にいて、何も聞こえなくて、目の前がだんだんと明るくなってきたのね。そしたら鳥の鳴き声が聞こえて……


 あ、死んだって思った。そしたらさ別世界じゃん。



 お腹も空くし死後の世界リアルだなって思った。だって私制服着てるんだもん。死後だと思うじゃん。


 見たことない景色だったけど死後の世界ながら死にたくないって思って草原を歩き続けた。


 川があったから水飲んだりして、食べられそうな木の実見つけたら一度口に含んでみて舌がピリピリしたら吐き出してってがんばってたけどまーきついよね。




 そしたらさ、人の死骸見つけた。あー二回死ねるのかなと。


 異世界かなって感じたのはもっと後なんだけど、その時は死後の世界にきたらもう一度死んでまた同じように死んで最終的にはどこにたどり着くんだろうって考えてた。



 ずっと一人だしそんなことも考えちゃうよ。どうなるか分からなかったから、必死だったからその人の剣とかお金とか取った。



 怖かったよ? だって死んでるんだもん。日本じゃそんな死体に触れたり、見ることなんてほとんどありえないじゃない。


 それぐらい追い詰められてた。初めてゴブリンと出会って身の毛がよだった。



 剣なんて振ったことないけど襲われたから無我夢中で戦った。叫びながらゴブリンが死んでも剣をさしてた。だってまた起き上がるかも知れない。



 ううんおかしくなってたのかも。


 また歩き始めたけど……ずっと手に感触が残ってた。ゴブリンでもやっぱ人型だからさ。

 怖くて、すごい、怖くて」



 カンナが自分の手を見ながら震えていた。


 だから俺はもう無理をしなくていいと言った。



「ううん。今は話せる。話したいんだ。そっちの方がきっと楽になるから。

 今までは誰にも言えなかったから。


 それからあきらかなモンスターは避けて動物を殺して街にたどり着いた。


 そんなに大きくないよ。国ってほどじゃない。


 そこで今まで倒したモンスターとかの素材を売った。



 街の人に話をしたけど理解されなかった。言葉が通じないんじゃなくて、なんの話をしてるのか分からないって感じね。



 死後じゃない。ここは異世界だって分かった。私はここから一人で生きてかなきゃならないんだって。


 切れ味の悪くなった剣を鍛冶屋の人に持っていったら魔法使いだって言われて杖持たされて私の剣捨てちゃった。



 魔法についてはその鍛冶屋さんに聞いたけど全く使えない。根本的に理解できなかった。


 それからは地獄よ。あの国にたどり着くまで倒す時は殴打殴打殴打。



 ナイフもないから大変だった。過酷。つい最近まで学校に通ってるだけのJKに何させんだよと。取説用意しとけと思ったよね。


 そこからはギルドにたどり着いて今って感じ」



「ありがとう。話すのもきつかったろ。大変だったな。よく頑張ったよ」



「えへへ。ありがとっ。人と話せるっていーねー。しかも同郷だし!


 ってあまりいい気はしないか。だってその、あなたは死んだんだもんね」



「ああ。そうだな俺も死んだ時のことを話そうか。イナは聞きたくないなら耳を塞いでおけよ」



 イナは大丈夫ですっと言った。



「そうか。簡潔にしゃべるけど俺は電車に引かれて死んだ。イナは馬にでも引かれて死んだと思ってくれていい。


 とある人間の相談に乗ってその人間を待ってた。だけどその人間とその友人は俺をはめたんだ。最初から待ち合わせにくるつもりはなかった。


 そいつらがいじめてた人間に俺を殺させた。駅で待ってた俺はホームから転落。



 そこは監視カメラの死角だから事故になったのか殺人事件になったのかは分からない。


 これは仕方のなかったことだ。だから俺を落としたやつは無罪であってほしいかな」



「どこの人間もクズね。高校生だろうと関係ない。


 落とした人だって一人殺してるのよ。正常な判断じゃないとしてもそれは罪。


 たとえあなたが罪じゃないと思ってても本人はずっと引きずると思う。


 あといじめっこは苦しみながら死ぬといいわホント。いや死ねっ!


 なんか腹立ってきたわ! この世界に来い! 私が拷問して殺してやりゃあ! 鈍器の扱いだけは手慣れてるのよ! こちとら人型やっとんじゃい!」


 ピシッと杖を構えるカンナ。



「落ち着いてくれ……


 それもまた人かなーぐらいさ。もう俺は死んだからな。


 俺を押した子だって俺がいじめから助けなければ俺を殺すこともない。俺のせいでいじめがエスカレートしたのかも知れない」



「確かに人の善意は時に悪意につながることもあるけど……


 でもさ、その人はきっとうれしかったと思うんだよ。

 たとえそれが私の妄想だとしてもだよ。別にそう考えたっていいじゃん」



「そうか……俺日本では死んでるもんな。そう考えるのは自由か。

 なんか楽になったよ」



「あ、そう? なら良かった。私も話して楽になったし気分も落ち着いた。


 もし、よければなんだけどさ、こっち来てからの話もしてくれない?」



「いいよ。イナにも聞いてもらいたい。


 まだ起きていられるか?」



 目を擦りながら大丈夫ですと応えた。



「よし。俺はその後暗い世界で無機質な声が聞こえた。


 なに言ってるのかは不明。覚えてない。死んだ直後だったしな。

 その後は貴族として生まれたんだ」



「貴族だったの? すごいじゃん! 生まれ変わって貴族とか前世の善行が考慮されたんじゃない? 神に」



「だったら良かったんだけどな。


 それからはエノアとして第二の人生を歩んだ。


 幼馴染のリーシアと幼少期を過ごした。屋敷で勉強したり遊んだりのんびり暮らしてたよ。でも俺が貴族になったのは俺が転生者だと分かってたからだ。



 この世界には魔王という概念が存在する。魔王が現れる前、勇者候補と呼ばれる存在もまた世界に現れる。


 その勇者候補の中から魔王を倒す勇者が生まれる。


 転生者、転移者は勇者候補である可能性がある。そうじゃないものも当然いる。

 だから俺は勇者候補として貴族の名を与えられ国からの援助で生活してたんだ」



「あれ? じゃあ私も勇者候補?」



「それは分からない。



 確認するには鑑定を受ける必要がある。鑑定は才能を見極めることも出来た。


 そして俺に勇者適正はなかった。勇者候補じゃなかったんだ。

 さらになんの才能もなしときた。この世界に来た時はそれでもいいかなと思ってたんだがリーシアに期待されてたからな。



 考えが変わってたんだ。目立つことはしない。普通に生活する。自分勝手な思いで人を助けない。できる限り人と関わらない。エノアとしての人生をそう過ごすつもりだった。



 けどリーシアがそんな俺を変えてくれたんだ。



 だからリーシアの期待に応えようとした。恩返しかな。


 だけど俺はその期待に応えられなかった。

 それからは国の面汚し、国の金を勝手に使う税金泥棒として街に出れば迫害を受ける日々だった。


 手のひら返しってやつだな。屋敷から俺は出なくなったよ」



「さいってい! そんなのおかしいじゃん! 向こうが勝手に期待して決めつけてたくせにさ!」



「仕方ないさ。初めて人工的に転生者を出現させたって大騒ぎだったらしいから。

 期待も高まるさ。勇者が出れば国は安泰だからな。


 なにしろ世界を救った英雄の生まれた国だ。


 その後、才能が集まる学園への入学が決まった」




「それは……意図がよくわかんないね」



「後から分かったが王子の計画みたいだ。憶測にすぎないが。


 リーシアは国の中でもトップクラスの才能と活躍を期待されていた。


 王子カリムはリーシアをどうしてもパーティーに入れたかったみたいだ。

 俺を入学させたのは嫌がらせだろう。入学した次の日、国からの命令でリーシアはカリムのパーティーに入ることになった。


 つまり俺が入学した一日後、リーシアは学園を去るわけだ」



「もしかしてクズしかいないの? その国」


「いや、リーシアや商人の人たちは普通に接してくれるよ。


 その後事件が起きてな。



 鑑定で俺は才能なしと言われたがその原因となったスキルがある。


 そのスキルは鑑定を弾いたらしい。才能を示す精霊が出現しなかった。


 勇者適正の方は大精霊が近くに寄らず鑑定の範囲外に出てしまった。


 そしてもう一つ俺にはスキルがあった。



 学園内でリーシアが国王の使いに襲われてな。性的な意味で。俺はそれを助けるために制御できないスキルを使ったんだ。



 建物が崩れて俺は意識を失いリーシアに助けられたけどリーシアは怪我をしてしまった。


 後日俺は王城に呼び出され貴族の名を剥奪。国のあらゆる支援、施設の利用を一切禁止となった。


 実質追放だ。



 街で石を投げられながら罵倒されたよ。侍女がお金と剣を持ってきてくれてそれでギルドに登録したんだ。生きてくためにもな。だから侍女には感謝してる」




「ちょっと今からそいつら殺してやるわ。


 文句は言わせない



 大丈夫よ私魔法使いだから。


 まさか杖を鈍器として扱うなんて思わないわ」



 イナも同じようなことを言い始めた。



「ご主人さまをそんな目にあわせるなんて許せません。

 イナも石を投げ返してきます。


 ご主人さまが人目を避けて行動するのはそういう理由だったのですね。


 イナ、行ってきます。殺ってきます」




 荒ぶる二人を抑え込み続きを話した。



「いいから落ち着いてくれ。俺は大丈夫だから。


 確かに殺してやろうかとは思ったが商人たちやギルドのミルさんが普通に接してくれたから怒りは薄れたんだ。



 その後ムチで叩かれてるイナを見つけた。



 俺めイナを助けるために持ってるお金を全部使ってイナを買ったんだ。


 他の奴隷は置き去りにしてな。奴隷売買は国公認ということを知った。

 そこからはイナにも支えられながら今日まで生きてきた。


 イナに出会って毎日が楽しいと感じていた。


 リーシアの事も気になるが……



 何をしてるのかわからない。もしかしたらカリムのパーティーで活躍してるのかもな」



「イナちゃんを、ムチで? 奴隷? そんな環境で育ったの?

 奴隷商死すべし」



「国公認だって言ったろ? 殺しても次が来る。国を滅ぼすなんて無理だしな。


 国王を殺して革命でも起こさない限りはな。だが国王と王城は神の加護で守られてる。

 まず傷一つつけられないだろう」



「何が神の加護よ。そんなやつに神の祝福を受ける資格なんてないわ!」



「イナは、その……ご主人様と出会えたのでそれで満足です」



「イナちゃん……」



 ぱちっ


 焚き火の木が割れる音がした。



「そろそろ寝るか。アシッドボアが来たら俺が起きれる。



 それと俺のことはエノアでいい。



 安心して寝てくれ」


「分かった。おやすみ」




挿絵(By みてみん)


 カンナはそう言ってローブに包まった。


 続いてイナも俺とカンナに言った。


「おやすみなさいですご主人さま。カンナさん」



 そして俺たちは何事もなく朝を迎えた。朝、は。

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喜びます。

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