氷の眠り姫【カラー】
次の日の明け方から、昼くらいまでエルフ達の刻印を消していた。
全ての刻印を消し去った俺は森の出口になる所でアイリスと待っていた。
そして族長とティアナが俺とアイリスの見送りに来てくれる。
族長は俺に言った。
「みな喜んでおる。もう出ることはないと半ば諦めているものが大半じゃっただろう。
そんな長い歴史と輪廻を断ち切ってくれたお主になんと感謝したら良いか」
「約束、だからな。
礼なんかいらないよ。俺がそうしたかったんだ。きっとグロウだって約束守りたかったんじゃないか?
自分がそうしたかったからそうした。だからいいよ。
前に来た時も世話になったし、ゼートに襲われていた時も守ってもらったし。
この森についても教えてもらった。お互い様ってことで」
「かははっ。もっと胸を張っていいとおもうがのぉ……
この森も別世界のままにしてもらっておるしの」
「エルフは自由に行ったり来たり出来るようになったからな。それに安全とは言えない。
たとえ俺の保護下にあったとしても狙うやつはいるかも知れない。
それだったら族長に提案された通りこのままの方がいい。少しずつ進めていこう」
「そうじゃな。ティアナも何か言っておくか?」
族長の隣で話を聞いていたティアナはうーんと考え込んだ。
「……エノア。ありがとう。みんなが笑えたのはエノアが居たからだよ。
私達の英雄さん。早く帰ってきてね」
英雄と呼ばれ少し照れくさくなる。
「あ、ああ。カンナを連れて早く帰るよ」
「いってらっしゃい!」
「行ってきます。じゃあ行こうか、アイリス」
「はいっ」
アイリスの手を握り、この森を出た。
カラムスタ王国までの数日、俺はアイリスと共に旅をすることになる。
当然アイリスにも野宿をしてもらうわけだが……
「野宿、問題ないか?」
「その程度なんてことありません」
その日の夜。
「くしゅっ」
アイリスがくしゃみをする。俺は自分の上着をアイリスに掛ける。そして焚き火に薪を足し、火を大きくする。
「すみません……思ったよりも寒くて……」
「素肌が結構でるドレスだからな。結構汚れちゃったな」
「汚れなんて気にしませんよ」
「そうか?」
「着飾るのは王として振る舞う時だけでいいです。エノアの隣にいる時はただの一人の女。
だからいいんです」
「毛布二枚だともっと暖かそうだな」
「……っ!」
そして翌日、焚き火を消してから旅を再開する。
その間に俺はリビアに話しかける。
いるか?
”どうしたの?”
聞きたいことはいくつかあるが、ミレッド帝国は潰した。だからリビアの願いってのを聞こうと思ってな。
”そうねぇ……本命と行く前に別のお願いを聞いてもらおうかしら”
別のお願い? 本命からじゃだめなのか?
”それでもいいのだけれど、少し気になってね。いいかしら?”
構わない。それでそのお願いってのは?
”神の塔。何度か行こうとしてたみたいだけど、ちゃんと攻略して見てくれる?”
どうして神の塔なんだ? 俺はもう強くなろうとする必要がないくらい強くなってるんだが……
”それがね、分からないのよ。神の塔がなんなのか。私でも覗けない。これまでの魔王は一人以外入ったことはないし、出てきた勇者を見ても覗けないようになってるの。
入った魔王は出てこなかった。その代わり新しい魔王を用意することになったわ”
俺も魔王。もしかしたら出てこれなくなるかも知れないぞ?
”勇者でもあるから大丈夫だと思うの。そこを攻略して中の状態やどんな利益があったか教えてほしいのよ。
それともしそこで英雄の遺産を手に入れられたのなら見せてほしいわ。
パンドラキューブ、あれを作った勇者はいない。多分神の塔を攻略して手に入れたものじゃないかしら”
分からないことを知りたいってことだな。分かった。魔王に関係しない力を持つやつを連れて攻略して見るよ。
”助かるわ。後クロエもダメよ。もしかしたら影の力もだめかも知れないわ。私が拒絶されているから……”
考慮しておく。じゃあな。
”ええ。また何かあったら呼んで頂戴。忙しくなかったら来てあげるわ”
ふと気づくとアイリスが剣を握っていた。
遠くにアシッドボアがいるのを確認した俺はアイリスの肩に手を置く。
「いいよ。多分近づいてこないから」
「え、いいのですか?」
「ああ。魔獣も魔王の管理下みたいなもんだ。今はイリアスの仮面もつけてないし襲っては来れないだろう」
「分かりました」
アイリスは剣から手を離す。
俺たちが近づくとアシッドボアは逃げ出していく。
「ほらな?」
「襲われる心配がないっていいですね……」
「魔獣が相手ならな。もし人間なら襲ってくるかも知れない」
「魔王に襲いかかるなんて命知らずですね」
「まぁありえないな」
そんな会話をしつつ俺たちはカラムスタ王国へとたどり着いた。
ガルスやギルド長、世話になった城のメイドへの挨拶もそこそこに俺はカンナが寝ている部屋へと向かった。
俺は一人でこの部屋へと入る。以前よりも凍っている箇所が広がっている。天井、壁までもが凍っている。
部屋の外、廊下まで氷に侵食されていた。
メイドに聞いた話だが、様子を見に来る時は魔法を扱えるものに長時間溶かしてもらってから入るのだとか。
俺は空虚を使って入った。そうこう見ている内に扉は再び凍り始める。
徐々にこの世界が凍っていくのだろう。
「氷の眠り姫か」
床が凍っているせいで足場が悪い。転ばないよう気をつけながらカンナの寝ているベッドへと近づいていく。
カンナ自身は以前と変わっていない。傷口ごと凍ったままだ。
「不幸中の幸いか……随分待たせたな」
不安。俺が失敗すれば、なにか足りなければカンナは氷が溶けると同時に命を失っていくだろう。
自分の過去を話し、俺を好きだと、自分を必要とする誰かを俺だと言ってくれた。
キスをしてくれたこの唇も、声も、肌も、心も全てなくなってしまう。
その魂はどこへ行くのか。日本か、それともこの世界か。
やめよう。失敗した時のことを考えるな。怖がるな。成功することだけを考えるんだ。
「絶対、助けるからな」
終焉魔法の代償。本来終焉魔法は大勢で行うものだ。千年以上生きているフェリルの中途半端な発動と、発動してしまったカンナでは違いが大きすぎる。
自然と消えるようなものではないと考えるべきだ。
終焉魔法の代償を消し去りながら、この氷も消す。その間にカンナ自身も治す。
空虚ですら消すことの出来なかった代償。
「時間を止める」
止まった時間の中で空虚を使い一時的に全ての氷を消す。
このままだと意味はない。再び凍るだけだ。
俺は聖書を取り出した。
「アイギア。お前の学習したスキルを消費させてもらうからな」
聖書、ダグラスでも日本でもない力を源とする。
「一二三四五六七八九十と唱へつつ 布瑠部由良由良と布瑠部」
十種祓詞。布瑠の言。
神道に伝わる言霊。死者蘇生を可能とする祝詞だ。
グラディアスの新たなる魔法を作る力をアイギアのスキルを代償に作り出す。
祝詞を使用して終焉魔法ヨミの代償を消し去る。
自身の膨大な魔力を使ってカンナの傷を再生させていく。
どれだけの時間が経っただろう。俺は無くなった臓器を作り出すことは出来ない。あくまで再生の手助けをすることだけ。
肌だけが再生しても臓器の状態が分からない。いつまでやればいいのかわからないまま再生を続けていく。
カンナのお腹を少し押して反発を確かめる。
「筋肉は大丈夫そうだな。これならもし再生が足りていなかったとしてもすぐに時間を止めれば間に合う」
自分の胸を押さえる。
時間が動き始め……
「カンナ……」
「………………すぅ」
寝息が聞こえた。苦痛で目を覚ますこともなく、凍っていく現象もない。
俺はカンナに近づき、その頬に触れる。
カンナの胸に頭を乗せ、良かったと呟いた。
「エノ、ア……?」
「カンナ……目を覚ましたのか」
「泣いてるの?」
「カンナが、無事だったから安心して涙がな……止まらないんだ。
俺の為にカンナが死んだらって考えると苦しかったから」
「そっか……私生きてるんだ。ねぇエノア」
「どうした?」
「今私、生きててよかったって思えてる。
死んでもいいやって思ってた私が、そんなこと思ってる」
カンナは俺の首に手を回し、自分の胸に引き寄せて言った。
「こんなに幸せだって思えたの、エノアのおかげだよ。エノアに出会えてほんとに良かった。私にこんな幸せをくれてありがとね」
俺はそのまま力強くカンナを抱きしめた。
「俺だって、同じだ。
こんな俺を必要だと言ってくれてありがとう。出会えて良かったって言われて俺は……
すごい幸せだよ」
「好きだよ。大好き。超大好き。あぁっ、ほんとうに、ひとりじめしたい、なん、て、勿体ないこといいたいくらい、大好きなんだよ……
エノアを好きになってよかった、なぁ……」
カンナは涙声でそう言ってくれた。
「アイリス達に目を覚ましたって言ってこよう」
「待って……」
離れようとする俺をカンナは呼び止めた。
「お願い。ここには私達しかいないんでしょ? もうすこしだけ、話したいな」
「分かった……フィシア」
俺は扉を凍らせた。
それからカンナが眠ってからのことを話した。
魔王として覚醒したり、エルフやゼートの刻印を消したことを話したり、ルーカス達やフェリル達、ミレッド帝国を潰したこと。
アイギアや、アイリスの剣の秘密、グラディアスとの一件。
カンナはそれらを一つ話すたびに眠っていたことを後悔していた。俺はこれからもっといろんなことがある。それを一緒に見ていこうと言った。
カンナは体を起こす。俺は大丈夫なのかと問いかけると大丈夫と答えた。
「ねぇエノア。また続きしたいな」
「キス?」
「言わせるの? そうだよ。
また長いキスしよ。眠っていた分、会えなかった分、お互いの気持ちの分。
長い長いキスをするの」
「いいよ」
「エノアからして」
俺はカンナにキスをする。カンナは唇が離れるたびに声を漏らす。舌が触れ合い唾液の音が響く。
「んー、んんっ、ちゅっ、くちゅっ、ん……っはぁ、ん……」
息継ぎをしながらキスを続ける。長いキス。
終わりが見えない。酸欠か、感情からか頭がぼーっとする。
カンナがキスをやめ、顔を離す。
女の子座りをするカンナと見つめ合う。カンナの舌から唾液が垂れている。
その後、体をもじもじとよじりながら俺に言った。
「脱いでも……いい?」
俺はカンナが来ている制服のリボンを外した。
カンナはそのままキスの続けてくる。俺はそれを拒まず受け入れた。
面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。
喜びます。