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 俺は好き勝手言うアイギアに対して言った。


「誰がそんなこと頼んだよ。

 神だからって何でもかんでも自分の思う通りだと思うなよ?

 いいか、終焉をもたらすのは俺だ」


 そうグラディアスに言われたからな。何に対しての終焉かは知らないが。


 アイギアは俺の動きを制限した。おそらくはイナの狐氷の真似だろう。時間を止めることはさすがに出来ないらしい。

 アイギアはそのまま剣を生成、振り下ろす。


 俺はアイギアの動きを、フィシアで凍らせ止める。

 と、同時に俺の体の制限は消え、アイギアの氷は吸収される。


 瞬時に雷鳴。アイギアに向かって鳴ったそれはリーシアが放ったものだった。

「ニーア」


 詠唱省略された最上位魔法、ニーアはその後、地面を焼け焦がすように放たれる。

 それでも傷一つないアイギアにリーシアは冷や汗をかいている。


 アイギアはリーシア達の方へ向かって腕を振り払う動きをして言った。

「フィシア」


 フィシアの氷が冷気と共に走り出す。部屋半分を凍らそうというフィシアの氷はフェリルの青い炎の壁により全て遮られる。

 アイギアのフィシアがその壁を超える事はなかった。


 アイギアはフィシアを中止し、再び本を開く。


「パンドラキューブ。英雄の遺産。

 すごいね。神の世界を書き換えるなんて。とてもそれほどのことが出来るような物ではないと思うけど……

 ああ、そういうことか。随分と”不思議な関係性”を持つんだね。


 記憶は分からないけれど、どこの世界の住民かは分かる。異世界の力、知識はこの世界の抜け穴となるのか。

 勉強になったよ」


 何か分かった気になっているが、俺も俺で考えなきゃならない。

 使える手をどんどん使いたいところだが、その手を攻略されて行ったらいつか使える手がなくなる。

 勇者スキルもここで活躍するようなものじゃなかった。グラディアスから受け取ったものも今、効果があるかは分からない。

 かと言ってこのままだとジリ貧。状況は一緒だな。

 負けることはない。お互いに。


 用意してきた手も今は使えない。俺とイナ、そして付いてきたレイヴィア、アイギアだけの場所にする必要がある。

 そうなるとパンドラキューブの力の範囲外に出なきゃいけない。

 こいつがここから離れることはないだろうし、どうしたものか。


 アイギアが国王に言った。


「ボクのするべきことは、魔王達を殺し、ダグラスの時代を終わらせればいいんだね」

「そうですとも!」


「そうなるのなら、君が死んでもいいね?」

「はい?」


「この国も、なくなってもいいね」

「それは」


「神とは万能の力を持つ。しかし願ったことが思った通りに叶うとは思わないほうがいい。

 ボク達神にも人格というものは存在する。

 大丈夫、その願いはボクが叶えよう」


「ま、待ってください! せめて、私の命だけは」



「君だけが生き残って、君は耐えられるかい?」


「それは、じゃあいい! いいです! 魔王さえ倒してくれれば」



「それが結果的にダグラスの世界を終わらせることになるんだよ。

 君が思ってるほど魔王は弱くない。彼は神を殺せるだけの力を保有している。

 おそらくボクは神としての実力は今後上位に入るだろう。けれどそれは魔王も同じ。


 ボク達はこのまま殺し合おうと終わりのない戦いになる。

 ゆえにどちらかが、その状況を打破する策を打たねばならない。

 きっと魔王もその策を打つことだろう」



「そこをどうか」


「もう君に選択権はないんだ。ボクのすることは君の一言で決まってしまったんだよ。

 責任を持つといい。ボクという神を作り出したこと。

 この国の王であるということの」



「ふ、ふざけるな! 貴様っ! 私がいなければ生まれることすらなかったというのに何を勝手なことを」


「ボクが生まれたのは君だけの功績じゃない。ボクを生むために尽力し、死んだもの達がいるんでしょう?

 なら、その人達一人ひとりがいなければならなかったもの。

 君もその一人だ」


「わた、わたしが……王である私が、植民地共の薄汚い命一人と同等、だと?

 そんなはずはっ!!」



「――口を慎め」


 アイギアはフィシアによって国王の腕、足を凍らせた。



「君は異教徒ではない。しかし、ボクを侮辱するというのなら神の罰があると知れ。

 思った通りに生まれなかったからと言ってボクはその通りになるつもりはない。

 ボクは神だ。そしてボクはボクだ。

 ボクを生んだ一人として今回だけは見逃す。

 ――次はない」


 氷が溶け、国王はへたっと地面に尻もちを付く。

 そこにジーランと呼ばれた案内人が駆け寄る。だがジーランはうれしそうだった。


 まるで思い通りに行っているかのような表情だ。


「国王様っ! どうですか、これがアイギア……

 ダグラスの時代を喰うことが出来るかも知れない神ですぞ!」


「……」


 その後もジーランはうれしそうに語っている。国王はどの言葉を発するのがダメなのか分からないのか、黙っていた。



 俺はアイギアに言った。


「もういいか?」


「いいよ。ごめんね。

 こちらの都合で待たせてしまって」



「邪魔する意味も無いからな。

 むしろうるさいのがだんまりしてくれて助かった」


「あれでもボクの信徒だ。その辺にしてもらおうか」



「懐の深い神だな。だが俺はお前を終わらせる。

 それにイナとレイヴィアの事を許すつもりはない」


「構わない。

 それじゃあ……もう終わりにしようか」



「へー、どうするつも」

「ページが埋まったんだ」







「これが時間の止まった世界。違和感があるね。

 誰も動かない、塵すらも動かない。神の世界はどうなっているのか。

 もし見ているのなら、慌てふためいていて欲しいね。


 もう充分、世界を理解するのに必要なものはない。

 時間は止めた。次はこの世界を作り変える。


 所有者は――ダグラス。当然だね。

 この世界を作り変えた後に、主神となったボクが彼を殺す。


 その前に……魔王を殺さないといけないけど、それは世界を作り変えてからかな。

 ……鍵が足りない。


 仕方ない、この世界を一度……」






「いや、鍵だけなら……

 君だけを置いて世界を白紙に戻そう」


「却下だ」



「っ……どうして止まった時間の中で君が動けるんだい?」


「この時間を選択したからだ。

 アイギア、お前のその時間を止めたスキルはイナの狐氷のスキルから得たもの」



「そうだよ。だけど君自身がまさか時間に関するスキルを持っているとは」


「分からなかったろ? このスキルには悩まされもしたがいい事もあるもんだ。

 ”秘密主義”俺は重要なスキルは全部これで隠した。

 お前の見えているスキルしか使ってないからこそ騙されたな?」


「やられたよ。そんなスキルがあるのか。

 世界は面白いね」



「もっと楽しませてやりたいところだがそれはさせない」


「理解しているよ。ボクは君を解析してその不死を取り除く」



「俺の不死は魔王とイナの力が重なってる。それでもやるか?」


「時間はたくさんあるからね」

「そんな時間用意させるわけないだろ」



 助かった。グラディアスから時間のスキルを受け取っていなければ俺はこの世界から、いや俺たちはこの世界から”消えていた”

 そしてグラディアスから受け取ったスキルは一つじゃない。強力ではないものも含めていくつか渡されている。

 そして最も重要且つ、このデタラメな神をねじ伏せることが出来るかも知れないスキル。


 俺は黒い魔力を溢れさせる。それも膨大に。そう、パンドラキューブから魔素が溢れたあの時のように黒い魔力で満たす。魔力の所有権は絶対にアイギアには渡さない。


 秘密主義、これがどこで所有権を守ってくれるかが鍵だ。


 黒い魔力を見てアイギアはこう言った。


「黒い魔力。さきほども流れてきたけど良質な魔力だ」



 グラディアス。お前からもらったスキル、いくつか捨てるからな。


「人が創造せし神、その存在を支えるは屍」


 俺はそうつぶやきながらイナの近くに寄る。

 そして狐氷をイナの手から自分の手に移す。


「その名はアイギア。聖書の名を持つ神である」


 アイギアは俺の喋っている言葉が詠唱であることを理解した。


 アイギアもまた、言葉を発し始める。

「この世界の始まりは……」


 だが、それは遅すぎる。俺の方が一手早かったな。


「終焉の魔王が拒絶する。

 その神としての在り方を」


 本能をむき出しにする獣が二人。

 グラディアスの新しい魔法を作り出すスキル。


「神を喰い殺せ――狐龍」

挿絵(By みてみん)


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