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破天荒jk

 それから俺とイナはアシッドボアを倒してはその報酬で毎日を過ごすという生活をしていた。


 俺としては楽しかった。ギルドは外側にあるから街の住人達とは会わないし、なによりイナと生活するのが楽しかった。



 代わり映えしないようでいろんな事が毎日起こる。ミルさんは相変わらずでいつもやさしいし。


 何度も戦っているうちアシッドボアの倒し方にも慣れていた。イナも狐氷が使いやすいのか力になってくれている。



 イナが戦えるようになるまでに時間はかからなかった。


 イナはアシッドボアに対して物怖じしないのだ。戦うようになってから気づいたのはイナはやはり動きが早い。強さも反応も人間とは別物。



 イナは次第に守るべき存在から一緒に戦う存在になっていた。イナに対しての接し方に変わりはない。


 戦闘が終わればいつものようにべったりしてくれるのだ。



 もしイナが離れていってしまったらと考えると苦しくなるほどにイナが大切な存在になっていた。



 リビアを使うことにも恐怖心はなくなってきた。イナを遠くに行かせリビアによるスキルを一つずつ試したりした。



 どこまで使えるか、どこまでできるか。



 時間はかかったが加減が分かってきた。言葉だけでなく自分の意思で能力を使うイメージをもつこと。


 そうすることでこの力を使うのは自分であるという認識と手にとるような感覚を掴めることで力のコントロールをしやすくする。



 一度感覚を掴んでしまえば容易かった。



「もうちょっと早く使えるようになっていればな……」



 だがそうなればイナには出会えなかっただろう。


 これで良かったのかも知れない。リーシアとは、会えないが……



 余談だがプチファイヤーは使いたくないので普段の焚き火は火打ち石を使っている。

 アシッドボアに命の危険を感じなくなってきた頃、ギルドで依頼を受けようとしているとなにやらさわがしかった。



「はぁ?! 一万ルティ?! ただの登録に?!

 私一銭も持ってないんだけど!」



「いっせ? ですがルールはルールですので」


 相手はミルさんだった。


「遠くからはるばる死にかけながら来て、素材売ったお金で装備買おうとしたら杖買わされて、あげくに生活の基盤にしようとしたギルドでまさかの登録料一万!


 うっ、もういやぁ」



 がくりと床に手をついた女の子。どこかで見たような服だが……?


 バッと立ち上がり女の子は言った。



「いいわよやってやろうじゃない。一万稼げばいいんでしょ。

 ねぇ、ギルドに登録してない人間がすぐに一万稼ぐにはどうしたらいい?」



「え、えっとぉ。すぐですとアシッドボアを五体くらい倒せば……」



「五体?! 少しずつ倒して売ってを繰り返していくしか無い……

 くぅ、お腹すいた……よし! がんばれ私! ありがとねー!」



 どんっとギルドのドアを開けて女の子は飛び出していった。


「騒がしいやつだったな……」




「あら、エノアさーん」


 ミルさんが駆け寄ってきた。




「またギルドの依頼を受けに来たんですか?」


「そ、いつもの頼むよ。なかったら手頃なやつで」


「ありますけどそろそろ難易度の高い依頼受けてもいいんじゃないでしょうか」


「いいんだよ俺はこれで」



 以前喧嘩をふっかけてきた冒険者の男がでかい声で言った。


「チキン野郎! かっこいいぜイノシシハンター!」



 その男と男のパーティーは大声で笑った。

 ミルさんはむむむっと眉をひそめた。


「ぬぅーっ。見返してやりましょうよ!」



「いいんだよ。今の生活が気に入ってるんだ。わざわざ危険に飛び込むこともない。

 リーシアとももう会えない……


 侍女には魔王を討伐してくれって言われたけど、リーシアがいないなら……

 イナが危険な目に合わなければ今はそれで……な」



 俺はイナの頭を撫でた。


「こんっ」


 とイナは口から声を出す。今はふいに撫でるとこういう声を出すのだ。


 以前と違って頭を撫でようとしても身構えられることもなくなった。



「じゃ、行ってくるよ。明日には依頼達成すると思うから」


「はーいっ! お気をつけてー!」



 ギルドの出口に向かいながら軽く手を振った。




「ご主人さま! 私から行きます!」



 イナは小さく屈みナイフを逆手で持った。アシッドボアはイナに向かって走り出した。 寸前イナは横にかわした。


 アシッドボアの突進をかわした時、アシッドボアの左の前足を狐氷で斬っていた。


 斬られたアシッドボアの足は胴体と離れ勢いでぼたっぼたっと転がっていった。


 最後の抵抗。アシッドボアは叫び暴れていた。



 不用意に近づけば牙が刺さるかも知れないが命尽きるのをこのまま待つつもりはない。

 たとえ俺のエゴだとしても。



「すまんな」



 俺はタイミングを見計らってアシッドボアにトドメをさした。


「ふぅ……ガディのおかげで毛の上からでもさせるのはありがたいな」



 いつものように皮を剥いでいると……


「まてぇぇぇぇぇ!」



 ギルドで騒がしくしていた少女が走ってアシッドボアを追いかけていた。


 まず追いつけないだろと。そしてアシッドボアに相手にされていないことは幸運だなと考えながら解体を続けた。


 冒険者同士の介入はバッドマナーとされている。余計な手出しはアウト。


 そして獲物を横取りするというのは絶対にしてはならない。



 これはギルドのルールだ。



 あの女の子はまだ冒険者ではないだろうがこれから冒険者になる人間だ。

 余計な手出しはすまい。



「どうしますか?」


 イナは俺に訪ねた。


「とりあえずは放っておく。何者なのかは知らないが助けを求められれば助けるさ。


 それがいい方向に転ばなくてもそれは彼女が決めたことだ。



 今日は川じゃなくてこのあたりでキャンプしよう。


 システム リビア 起動。 この周囲二メートルに敵を察知したら教えてくれ」



 "承認"


 無責任、な言い方をしてしまったかな。


 俺だってどうすればいいのかわからない。何をしたとしてもどう転ぶかわからない。


 それがまだ怖い。



「さて、薪を集めてこないとな」


 リビアの指定位置に目印を置き俺とイナは焚き火の材料となる枝なんかを探しに行った。

 イナとのんびりと話しながら拾っていたせいで日が落ちそうだった。


「ん、そろそろやばいな。イナ戻るぞ」


「はいっ」


 目印にたどり着き枝を置く、彼女はまだ追いかけていた。


 一息ついた後、焚き火を始めた。女の子がちらっとこっちを見た。

 より一層速度を上げアシッドボアを追いかけ回した。



「ここまで相手にされないとは」


 肉に下味をつけている間俺は女の子の様子を見ていた。



「あの様子じゃ五匹なんて当分無理じゃないか?


 確かに登録料一万は高い気がするな。

 狩り初心者ばかりだろうから」


「イナの事、登録してくれてありがとうございます」


「二人で稼いだんだ。お礼はいらないよ。いずれ必要になるだろうと思ったし」


 それより女の子の杖の持ち方が気になる。


「なぜ振りかぶっているんだ? まさか鈍器として扱うつもりなのか?

 魔法使いじゃないのに杖? だめだ意味が分からん」



「鍛冶屋で杖を持たされたと言っていました。


 ガディさんではないと思いますけど……

 職業を見誤ったんでしょうか?」



「どんな鍛冶屋であれ鍛冶屋は鍛冶屋だからな……


 さすがにそんなミスはしないだろう。

 後でギルドでちゃんと職業適性受けた方がいいな」



 そして日が完全に落ちようとした頃。


 女の子は足に限界が来ていた。


 かくかくっと足を震わせながらアシッドボアを追いかけていた。



「まってって、い、はぁっいっでるのにっ……

 はわわ、足が、くぅ……ごはんっ、お腹、すい、た」




 駆け出しの冒険者とはみな腹を空かせているらしい。


「へっ、え? えっとイノシシさん?」


 来たか。アシッドボアの夜の姿。魔獣としての本来の力を発揮する。


 あたりの魔素が濃くなる夜の時間、アシッドボアは周囲の魔素を吸収し始める。


 ただでさえ硬かった毛が魔素を帯びて紫色に輝き始める。集まった魔素と魔素がぶつかり合い電気が生まれる。


 牙も長くなり性格は昼と違い獰猛そのものとなる。


 こうなれば対処は難しい。毎日のように討伐依頼が来るのも頷ける。



「あははー。やっぱ明日でいっかなー? またなくて、いいよ? あはっ」


「グルルルルル、グワァァァ!」


「ひぃぃぃぃぃっ! ムリムリムリムリ!」



 おお、速度が戻った。



「ホントは迷惑なんてかけたくなかったけど、命には変えられないですよねそうですよね」


 なにか女の子がぶつぶつと言ったあと。



「すいません助けてください! 死にそうです! あっ」


 助けを求めた途端足をなにかに引っ掛けたのかころんだ。



「うわぁ……死んだかも、異世界で」



「イナ!」



「はいっ!」



 イナは目にも止まらぬ速度でアシッドボアまで駆けた。


 目の前までたどり着くとそのまま空中で回し蹴りをした。アシッドボアは転がりながら体勢を戻した。


 イナは女の子を抱え焚き火まで避難した。女の子はひぇー力持ち……耳かわいいと言っていた。


言ってる場合か。異論はない。


「ふしゅーッ」



 アシッドボアは牙を突き出し俺に狙いを定めていた。

 俺はアシッドボアの相手をするべくアシッドボアの前に立ちはだかっていた。



「――システム リビア 起動」


 "起動 コマンド"


「フィシアアタッチメント ブースト」


 "承認しました"



 ぱきっパキパキッ


 俺の体の周りに魔素が集まる。


 簡単に視認出来るほどの魔素が集まった。その瞬間冷気が発生し俺の髪の先、服までもがこおり始めた。剣に冷気が漂う。



 アシッドボアとのすれ違いざま少しだけ傷を入れた。


 アシッドボアが振り向くことなく。傷口から体が氷始める。


 ぱきっ……


 全身を氷漬けにされアシッドボアは――動かなくなった。


「ふー……」


 白い息を吐く。


挿絵(By みてみん)


「寒い」



 リビアを解除し剣を突き刺した。アシッドボアを持って焚き火に移動した。

 女の子はお礼を言った。


「あの、ありがとうございます。


 あれが魔法ですか、焚き火の近くにいるのにこっちまで寒くなった気がします」



「魔法使いなのに魔法を見るのは初めてか?


 敬語はいらない。好きに喋ってくれ。寒っ」



 まだ冷気が残っている。



「ちがう……私は、私はまほうつかいじゃなーーーーい!

 絶対剣とかそっち系だよ! だっておかしいじゃん! なに? 魔素? 知らないって!」



「お、おお、おお……」


 俺は動揺した。


 女の子は突然語り始めた。



「前に街が在ったから鍛冶屋を訪ねたの。素材も売ってある程度のお金があって。剣は拾い物だったから切れ味最悪!


 死ぬ思いでやっと手に入れたお金を持ってるんるんで鍛冶屋に入ったわ。もうだめだねって剣を廃棄されて渡されたのは杖!



 胸ぐら掴んでやったわよ。そしたらだって君魔法使いだろ? って。


 今剣持ってきてたでしょうがっっ! それからギルドの存在を聞いて食べられるか分からない木の実を食べ、杖を鈍器としてモンスターと戦いたどり着けば登録料!


 なんてことなの……こんなこんなことって……おまけに本気で死にかけた。あそこまで豹変するとは普通思わないじゃないっ!



 でも、完全に運がなかったわけじゃなかった」



 ガシッ


 俺の手を掴み女の子は言った。


「命の恩人ですありがとう! 私は見ての通りなーんも持ってない戦力にもなれない雑魚JKですがこの恩は必ず返します。


 私を助けてくれた。放っておかなかったあなたに感謝を」



 そうかJKか。俺も前世は高校生……だった――な?


「え、女子高校生?」


「え?」



「焼き上がりましたぁぁ!」


 イナの声が夜の草原で響きながら溶けていく。

面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。


喜びます。

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