王
「ばかな……
四カ国の王がなぜここにいるのだ!!
魔王はなにを考えている、このうちのたった一人でも死ねば国が崩壊しかねないのだぞ!
理解が、理解が出来ん!
王とは最も死んではならない存在、最後の最後まで隠れているべきなのだ!」
私は思考を巡らせた。この意味を。
意味のない行動など存在しない。こと戦争においてはだ。
っ! 水晶越しにこちらを見ただと?! 見えているのかっ!
私はその水晶を投げ捨てた。
あの魔術師同様殺されは敵わん。
「逃げる。そうするべきか」
「その必要はないでしょう。聖書の力を信じるべきです」
「ジーラン……」
私の側近である男。長い白い髪を前髪ごと全て後ろで結び、常ににやけ顔の信用ならなそうな奴だが実際はそうではない。
灰色のスーツは毎度綺麗に整えているし、シワもない。白い飾り襟は汚れ一つ無い。
「我々は信じるべきです。そうでしょう?」
「分かった。お前がそういうのなら信じよう」
「では、準備してまいります。
それとご要望通り民に武装させヴァルクの進行を防ぎます。
民が居なくなっては国の再建ができなくなってしまいます。ですので必要な人数のみ避難させております」
「よくやった。迎え撃つぞ。
のこのこと王の首を四つも持ってきた馬鹿共を」
「はい。聖書の能力をお見せいたしましょう」
「くくっくはははっ!
そうだ! 私が勇者となったってなんら問題はない!
この目で見届けてやろう魔王よ! 貴様の死に様をこの目で!!」
俺はクロエに大丈夫かと声をかけた。
「大丈夫です。マスター」
「そうか。アイリスも大丈夫か? 結構歩いてるだろ」
アイリスは汗をハンカチで拭きながら言った。
「これでも少しは訓練しているので問題ありませんよ。
ただ思ったよりも熱いです」
「フィシア」
アイリスの顔の横に宙を舞う氷の塊が出来る。
「ありがとうございます」
「いいよ。俺も駆り出しちゃったし」
フラッドがだるそうに言う。
「いいなぁおい。俺にもくれよ」
「お前はいらないだろ」
「こっちは雪国なんだよ。あちぃんだよ。ま、ロッグに体感調整させてるから問題はないが」
ロッグは小さな声で言った。
「人使いの荒い狼だ」
グチグチ言い合ってる二人を置いといて俺はフェリルに声をかける。
「そっちはどうだ?」
「妾は問題ない。レイヴィアは大丈夫かの?」
フェリルはレイヴィアに問いかけた。レイヴィアはにっこりと笑い答えた。
「大丈夫だよー!」
俺はレイヴィアについてフェリルに聞いた。
「てかレイヴィア連れてきちゃったのかよ」
「妾も置いてこようとは思ったんじゃ。じゃが離れんしお主に会えると知ると体から離れん始末じゃった」
その後レイヴィアはフェリルの手を離して俺に駆け寄る。
「パパーッ」と言って抱きつこうとするが、この熱い中両腕にはイナとクロエが先に抱きついていた。
悩んだレイヴィアはジャンプし抱っこの形で抱きついてきた。
「ならないならない。そうはならない」
リーシアはレイヴィアを剥がしてから俺に言った。
「ねぇエノア」
「どうしたリーシア」
「”パパ”って? 後横にいる女の子、なに?」
「あっ……」
なんの説明もしていなかった。
「なに? 私に思いを告げる前に子供作ってたの? ふーん……」
冷たい目と俺のピンチを見て指差しながら笑うフラッド。
「あははははは!! おい見ろよロッグ! こいつ修羅場だぜ!」
狼にもお座りって覚えさせられんのかな。
「っ」
俺は視線を感じ、その位置を見る。
肉眼では見えないが魔素の塊を感じる。
「またか、クロエ」「はい」
これで二人目か。一人はミレット帝国で間違いないだろうが……
おそらく別。誰だ? 聖騎士団か?
フラッドが俺達の足を止めて言った。
「どうやら通せんぼのようだ。
まだ兵士残してたな。さすがは数だけはいる国ってわけだ」
俺が一歩を踏み出し、全てを凍らせようとした瞬間、フラッドは俺の肩を掴む。
「俺とロッグでやる。最善はそれだ」
「いいのかよ。ミレッド帝国は因縁の相手だろ」
「やるよ。どうせ俺は攻撃する手段をもたねぇ。
報告だけ待つ」
「分かった。期待してろよ」
そう言って俺は進もうとした。
「おい」
フラッドに呼び止められ、聞き返す。
「なんだ?」
「魔王らしくなったじゃねぇか」
「……死ぬなよ」
「お互い様だ」
俺は目の前の兵士に威圧をかける。その間にロッグが障壁を張った。
ロッグは俺たちにさっさと行けと指示する。
「行ったな」
ロッグはそう言って障壁を解除した。
俺は自分の手を握ったり広げたりしながら感覚を確かめる。
ロッグは行けそうかと言った。
「ああ。ロッグ。
問題なく開きそうだ。後は頼む」
「好きに暴れてくるといい。
ただし、喰われすぎないようにな」
「そのためにお前がいるんだろうが」
ミレッド帝国との戦争で死んだ同胞。
ただ殺されてきたわけじゃない。我が国で代々王家に伝わる力。
「正直驚いたぜ。なぜ俺と同じ力をあいつが持っているのかってな」
俺の後ろに影で構成された自分と同じ種族、言わば死んでいった自分の国の民が姿を表す。自分自身も影を纏っていく。
隣にいた影の狼は俺の足に噛み付く。俺はそれを引き剥がす。
無理やり呼び起こすこの力は、代償として自分も攻撃対象。俺がかつての君主だと理解する力はこいつらにはない。
だがたとえ死んだとしても俺の民。足を喰われたとてもう一度殺すつもりはない。
「一度失ったその命。それは俺が失わせてしまったものだからな」
最後だ。もう終わる。
ミレッド帝国との殺し合いは終わる。
期待なんてしていなかった。だがあいつは説得力を持ってきた。
俺はその説得力に屈した。これで全て終わると信じている。
魔族の求めていた魔王の姿をあいつに重ねた。
「最後の最後だ。力を貸してくれ」
俺は土に足が埋まるほど強く踏み込み、ミレッド帝国、無数の兵士達の中に入り込んだ。
「アォォォォォォン」
野生。自分に備わった知性を捨て去る。近くにいる者を殺せ。槍が刺さっても、剣で腕を切り裂かれても、死なせてしまった民に報いるため。
「王として、俺はここに立つ」
近くに居た兵士の体を鎧ごとへし折る。
影となった民が、波のように押し寄せてくる。
ここにいる全ての兵士を蹂躙するまで、戦い続けた。
「てめぇで最後だ」
最後の一人を喉を爪で掻っ切る。追いつかれた俺は影たちに噛みつかれる。
歯が食い込み、体がだんだん沈んでいく。
「ロッグ!」
「分かっている」
ロッグは杖の先を地面にとんっと当てる。影たちが溶けていく。
「やるじゃねぇかロッグ。さすが一度死んだ男」
「自分から死んだのだ。寿命などと言う時間制限から逃げるためにな。
今治療してやる」
「頼む」
「治療が終わったら魔王の後を追いかけるか?」
「いや、俺は報告を待つと言った。だからここで待つ」
「本当は国王を自分の手で殺したいだろ」
「ああ。だが、これが最善だと分かる。
それにあんま好き勝手すると狐の娘に怒られるからな」
「かっはっは! 意外と効いておったようだな! しつけられとるわい」
「お前今自分が骨であることを忘れるなよ」
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