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子供扱い

 気絶してたのか。


 覚えてる。いろんなことを。

 グラディアスはこの世界を作り上げる力を維持したままあの強さなのか。

 全開の状態で勇者と互角の強さと言っていた。


 そうだ、思い出した。俺は勇者候補だった。勇者候補の上で勇者となったのか俺は。

 勇者であり魔王か。いずれくる勇者に向けて準備をしていたんだけどな。

 自分が為すべきこと。リビアに事情を聞きつつその願いがなんなのかを聞かなきゃな。


 俺は……そうだ。守ろう。

 国を、仲間を。この先、ミレッド帝国は俺を殺しに来る。


 それに勇者は現れなくても勇者候補はいる。グラディアスの全開時と同等の力を持つ勇者を名乗る勇者候補も存在している。

 やることは変わらないな。


 後はあれか。グラディアスによって勇者となった俺は魔王の性質によるというデバフが消えた。

 実際には勇者の性質によるという力とぶつかりあって無意味になっているだけだが。

 これはつまり勇者は勇者らしく、魔王は魔王らしくあるようにと定められていたことになる。

 グラディアスはどうやって克服したんだ。もう聞くことは出来ないが……


 俺は簡単に考えをまとめて目を開ける。



「イナ?」

「っ……良かった。目を覚ましたんですね」


「ああ。心配かけたな」

「良かったです」


 顔にイナの涙が落ちてくる。

 俺はイナに膝枕をされていた。やわらかい太ももの上に頭をのせ、心地よさを感じている。



「悪いなイナ。どれくらい経ったって言ってもイナも起きてなかったから」


「体は動かせませんでしたが会話は聞こえました。

 会話が終わってから数分でイナは動けるようになり、ご主人さまの枕となっていました」



「そうなのか。

 疲れたろ? 体がスッキリしてるからな」


「体感では大体……半日程度だと思います」

「は、半日?!」


 俺は急いで起き上がる。



「あっ、でも、体感です」


「そんなに正座して、大丈夫か?」



「なんてことないですっ!

 ご主人さまの為なら!」


「イナ……」


 もう少し休んでいこう。

 イナにも休憩してもらわないと。


 俺は座ったままイナを抱きかかえて言った。


「ありがとう。

 ゆっくり休んでくれ。もう少しだけ、ここにいよう」


「ご主人さま……はいっ!」


 温かい。イナが静かに寝息を立てていた。

 このやさしい寝顔を奪わせはしない。


 それから一時間ほどが経った。


 イナは目を覚まし、んーっと体を伸ばした。

 そして少し顔を横に向け、俺の胸に顔を当てる。



「イナ、そんなに匂いを嗅がれるとちょっと恥ずかしいんだが」


「落ち着くんです。


 暖かさを知ったあの日からずっと変わらないこの匂い。

 好きなんです」



 俺は幸せを感じながらイナを頭を優しく撫でる。

 イナは撫でられながら言った。


「この手も、この撫で方もずっと、ずっとイナを包んでくれるご主人さまの全てが……

 ――大好きです」


「俺もイナを撫でるのが好きだ。

 ご主人さまと駆け寄ってくれるイナが好きだ。

 俺の事を第一に考えて、好意を素直に伝えてくれて、頼ってくれるイナが大好きだ」



「ご主人さま」


「ん?」



 イナは顔を上げた。

 イナの顔が近く、胸が締め付けられる。愛おしい。


「大好きです。ずっと、ずっとずっと大好きです。

 男性として、イナはご主人さまのことが大好きです」


 俺は驚き、つい反射的に離れてしまう。


「いや、イナっ……まだ、そういうのは」



 距離の離れたイナは自分の襟に結んであるリボンの装飾に手を当てる。

 装飾を外し、シャツのボタンを一つずつ開けていく。


 イナはボタンを外しながら俺に言った。


「ご主人さま。イナはそんなに子供じゃないです。

 世間知らずだったから知らなかったんです。

 全部、男性と女性の行為についてお母さんから聞きました」


 なんつうパワーワード。

 あの狐言っちゃったのか……あとで問い詰めよう。



「イナは真剣です。

 ずっと、もしイナとご主人さまが死んじゃっても来世でもずっと一緒に居たいです」


「でも……」



 ずっとイナをそういう目で見てはいけないと決めつけ、心に誓っていたからイナの要求に戸惑っていた。


 するとイナは溢れんばかりの涙を流し始めた。



「嫌い、ですか?

 イナはずっと、ご主人さまのことが好きです。

 イナだって我慢してたんですよっ!


 ご主人さまはイナの事を子供として、みんなを恋人として見て……

 今は抱きつく以上の愛情表現を知ってます。足りないんです。知ってしまったから。

 イナの……


 ――イナの言葉を”子供扱い”しないでくださいっっ!!」


 胸が痛い。ズキズキと自分の手で押さえつけなきゃいけないくらい胸が痛い。

 口からああっと声が漏れ、苦しい。


 イナの言葉が締め付ける。



「ごめんな……

 今まで、ずっと、守らなきゃいけない。


 保護したような、親になったような気持ちでイナを見ていた。

 恋愛感情が生まれてもそれをかき消してきた。

 こんな、言葉を口に出させて、ごめん」



「イナはたしかに子供っぽいです……

 でもこの言葉は全部本気なんです。子供の背伸びなんかじゃないです。

 好きです、大好きですご主人さま……だから」


 俺は素肌のイナに抱きついた。

 柔肌が全身に触れ、温もりを感じる。



「もう、我慢しない。

 俺はイナを女として見る。

 好きだ。俺も大好きだイナ」


 なにかのつながりを感じる。

 儀式のような、そんなつながりが。

 奴隷紋が少しずつ変化している。


 だがそんなこと気にしてない。



「はいっ、うれしいです。

 涙が止められないくらいうれしいです。

 来世でもイナを愛してくれますか?」


「ああ。ずっと、愛してるよ」



「やった……」


 より一層抱きしめる。

 この部屋が元の世界に戻るまで、後数時間ある。


 俺はイナの唇にゆっくりと近づき、キスをした。

挿絵(By みてみん)


 イナも求めるように、我慢してきた今までを取り返すかのように唇を押し付ける。

 イナの声が漏れる。


「んっ……」






 数時間が経ち、俺とイナは衣服を整えた。

 この世界が元に戻るまでイナとべったりくっついていた。

 やっちまったと思いながらも後悔はしていない。



 そして俺はあの行為によってイナと魂の契約を結んだ。

 血ではなく、魂という強すぎるつながりを得た。


 そのデメリットは片方が死ねばもう片方も命を落とすということ。

 メリットはイナと能力の昇華。俺のスキルを一部使用できることか。

 俺自身はイナの覚醒状態を同レベルで使えるようになった。


 はっきり言ってもう負ける気がしない。

 たとえ神が相手であろうと勝てるとそんな気がする。

 炎が消える。俺はイナの手を引き扉の外に出た。



 と、同時に部屋に押し戻される。

「んんっ!!」


 俺はシェフィにキスをされながら押し倒された。

 離れないシェフィの肩を掴んで無理やり離す。


「ん、んんっんんん! っは、シェフィッ!

 なんだよ突然」


「なんだよ? ですって? この顔見て心配してるって分かんないの?!

 ここに連れてきたのは私なのよ?


 そんなあなたが消えて二日経ってるの……

 もうずっと出てこないんじゃないかと不安になりながらここで待ってたんだから!

 キスくらいさせなさいよ!!」


「ちょっま、んっ!」


 そこからキス攻めにあい、満足したシェフィに説明した。



「前の魔王、グラディアスに会ったんだよ」


「えっ、彼と会った?!

 でも打ち倒されたって……」



「まぁいろいろ会ってな。

 勇者と口裏をあわせて負けたことにしてたんだと。

 それでこの部屋で時間も止めて世界からも隔離して俺を待ってた」


「彼は……」



「死んだよ。俺に殺される為に。

 街を守ってくれだってさ」


「そう……生きてたと思ったら死んだの。

 まぁ昔から自分勝手だったから」



「部屋に入るなり殺されかけて気づけば後は全部託すっつって消えてった。

 おかげでとんでもない強さにはなれたけどな」


「ふふっ、彼らしいわ。

 でも良かった……彼の生きた時間が無駄にはならなかった。

 あなたも生きていて、それも強くなって戻ってきた。


 分かるわ。もうちゃんとした魔王なのね」



「ああ。もうなんでも任せろ」


「慢心し過ぎよ。

 勇者だの魔王だのなんて話は人間と魔族の間の話でしかないんだから。

 原初の私や神や天使にはそのメリットは意味がないのよ?」



「それでもそう言えるくらい強くなったのさ。

 さて、後はリビア」

 ”はい まずはご無事でなによりです”


「グラディアスが約束は守った。だってさ」

 ”? なんのことですか?”


「え? グラディアスがリビアだって……」

 ”あ、そういうことですか 今呼んできます”



「んー、どういうことだ?」


 ”今結構忙しいのよねぇ……あら……あなた、そう……”



「いやいやいや。勝手に分かった気になるなよ。なんなんだよグラディアスもお前も全部分かってますみたいな」


 ”実際そうだもの。どこまで聞いたのかは知らないし”



「とりあえず約束は守ったってさ」

 ”そうみたいね”


「んでそもそもリビアって言ってたがリビアは何も知らないっぽいんだが」

 ”そりゃそうよ リビアって私の名前だもの”


「言えよ! 待て、そもそもリビアが二人いるのか?!」

 ”そうよ? あの子自体は名前がないからとりあえず私の名前を使わせているの”



「どうりで……んで願いってのはなんだ?」

 ”っ……それはまだいいわ。自分の願いを先に叶えなさい”



「んだよ……まぁいいが。

 聞いてやれって約束だからな。遠慮なんかするなよ」


 ”ほんといい子ね 私は忙しいからもう行くわ それとこの子もうそっちに送るから”



「だからそういうよく分からないことを説明もなしに……」


「”マスター”」

「え?」


 イナの話によると俺がリビアと会話をしている間に突然影から出てきたらしい。

 俺はとりあえず突然出てきた黒いフードを被った女の子に言った。


「自己紹介どうぞ」

「リビア。という名前を使わせてもらっています」


 パンクする。脳みそが。

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喜びます。

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