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魔王グラディアス

「お前の方こそ誰だ? この空間や表の仕掛けはお前の仕業か?」


「私は魔王グラディアス。この魔王城の持ち主だ」

挿絵(By みてみん)


 魔王?! ありえない。魔王は俺だからだ。

 この世界に二人はいないはずだ。勇者も、魔王も。


 まて、なぜ気づかなかった。

 ミレッド帝国に前勇者がいる? 勇者が現れないのはそれが理由か?


 だが目の前の男は魔王だと言った。少なくともここに二人の魔王が存在してしまっていることになる。



「ちょ、っと待ってくれ。何か知ってるのか?

 ここは、そもそも……」


 俺は椅子の上に誰も座っていないことに気がつく。


 その瞬間俺の顔は何者かに掴まれ後方の扉があったはずの壁に叩きつけられていた。

 頭を掴まれたまま、足は地面に付いておらず腕と足がぶらんと慣性によって揺れている。


 目の前の魔王と名乗るグラディアスはこう言った。


「戯言はいい。答えろ」



 グラディアスの腕に切れ込みが入る。

 ごろっと俺を掴んでいた腕が落ちた。邪魔だった手が落ち、俺の足が地面につく。


 睨みつけながら言った。



「随分な挨拶だなグラディアス」


「ふっ、それが答えと見た。

 この部屋を開けたのが魔王、そしてお前であったことが非常にうれしいよ」



「ちゃんとせつめ」


 俺は急いで屈む。

 グラディアスが右足で俺の頭を踏みつけようとしていたからだ。



「話が見えないぞグラディアス!」


「戦え、己の全てを持って私を殺せ!」



 グラディアスは空振ったせいで右足で壁を踏んでいた。

 そのまま地面に下ろし俺を肩をへし折る。


「ああああっ! なんっいっでぇ」


 ただの蹴り、のはずなのに……魔力回路ごと攻撃してるのか!

 俺はうずくまったまま横に転がり距離をとる。

 イナが俺の前に立ち、狐氷を構える。


 グラディアスはイナに言った。



「どうやって入ってきた。

 偶然か? なにか強いつながりのようなものでもあるのか?

 まぁいい。娘は黙って見ていろ」


「嫌です。イナのご主人さまが戦っているのに何もしないなんて嫌です!!」



 グラディアスは何も言わずイナの横にいた。

 既にそこに立っていた。


 ――何も見えなかった。


 突如まるでイナが横から数発の攻撃を同時に受けたように体が曲がり壁に衝突した。

 グラディアスはイナに言った。



「黙って見ていろと言ったはずだ。

 邪魔だ」


 イナはまだ治っていない折れた体を持ち上げ殺意のこもった目でグラディアスを見ていた。



「ご主人さまを傷つけるあなたを許さない。ご主人さまはイナの、全てです」


 ゆっくりと歩く、グラディアスの前に立つ。

 自分がされたのと同じ用にグラディアスは同時に複数の攻撃を受け地面を転がっていった。



「がはっ……これは、私のとは違うがほぼ同時に打撃したか……」


 イナは歩いてグラディアスに近づく。


 グラディアスはまた俺の気づかぬ内にイナの横に立っていた。


 今度は反対側に移動していた。



 その後グラディアスはイナの肩に手を置いた。


「何度も避けられて困惑しているな。

 それだけの力故に自信がある。

 頼りすぎだ」


 俺はイナの助けに入る為、魔王の剣を握って走り出した。


 そしてグラディアスに剣を向けた瞬間、天井に背中から激突し息が肺から全て漏れ出していた。

 そのまま俺は地面に落ちる。

 ぐしゃっという音が響く。


 グラディアスの声が聞こえる。



「悔しいか娘。

 もう届かない。そして眠れ」


「がっっ!」



 イナの短い声が聞こえる。

 俺は体を再生させながらイナを探した。


 イナは部屋の端で倒れていた。



「てっめぇ……」


「治りが早いな。

 魔王としての再生能力だけではない」



「はぁっ、はぁ……」


「ほう、目が赤くなったな。牙も生え耳も少し尖っている」



 俺は自分でも理解できない速度で拳を振るっていた。

 しかしその攻撃がグラディアスに届くことはなかった。


「あの娘と同じ、か。

 わざわざ殴ってくるとはな」


 グラディアスは少し前かがみになりながら俺の耳元で言った。



「中途半端な魔王が完全覚醒している魔王に勝てると思うか?」


「オゴッッ!」


 みぞおちを強く殴られる。

 その勢いで上に少し浮く。浮いたままグラディアスは次の行動を行っていた。


 宙に浮いた俺を蹴り飛ばした。

「ッッ!」


 自然と摩擦によって俺の体は転がるのをやめた。

 口から大量の血を流しながら俺は再生しかけの腕で地面を押し顔を上げる。


 強すぎる。死なないにしても手も足も出ない。

 からくりも分からない。


 グラディアスは口を開く。



「魔力が尽きる心配はしなくていい。

 お前が何万回死のうとこの部屋に満ちている魔力は尽きないからな」


「フィシアッ!」



 俺とイナを除く全てが凍りつく。

 リビアなしの自分の魔力を使ったフィシア。魔力はあれどここに魔素がない。

 凍りつく痛みが魔力回路を襲っていた。


「つぅっ……はぁ、はぁ……」


 フィシアで作り出した氷がきらきらと光る砂のようになっていた。

 そしてさらさらと消えていく。


 悠然と立っているグラディアスが言った。



「来い魔王。まだそんなものじゃないだろ」

「ふざけんな、いいかげん説明ぐらいしろよっ!!」


「いいだろう。ただし――殺し合いながらだ」



 グラディアスは空中に剣を出現させた。その剣を掴みグラディアスは俺に迫る。

 俺はグラディアスの剣撃を魔王の剣で弾く。


 話を聞く余裕なんてない。


「もう一本あるだろ」

「二刀流なんて経験あるかっ!」


「ならここで経験していけ。

 それが嫌なら一本で足りると証明して見せろ!!」


「ちっ」



 俺は魔王の剣を横にして顔の前に出す。

 振りかぶったグラディアスの剣を防ぐためだ。


 しかしグラディアスの剣が俺の剣に触れることはなく、当たる直前で軌道を変え、振り下ろす動作から手首を返し振り上げる動作で俺の胴体を斬っていた。



「ぐぁっ!」


「使え、全てだ、今お前が使えるもの全てを使え。

 それで勝てないのなら技を昇華させろ!」



「このっっ! さっきから自分だけの世界でものをいいやがって!」


 俺はアイリスの剣を抜いた。

 二本の剣をどう構えればいいのか分からない。


 右手に魔王の剣、左手にアイリスの剣。

 二本を握りしめグラディアスの剣に対抗する。


 最初の一撃を右手の剣で防ぐ、早すぎるグラディアスの追撃を左の剣で防ぐ。

 終わらないグラディアスの剣撃を左右の剣で交互に受けていく。



「様になってきたな。

 娘の力も使え」


「そこまで頭まわるかよ!」



「まわせ」

「むちゃくちゃなっ」


 こいつは説明不足の自分勝手なやつだが分かったことはある。

 こいつは俺を強くしようとしている。これだけ自分が強いのにも関わらず俺を強くしようとしている。


 全て終わったらこいつから全て聞いてやる。



 続く攻防の中、グラディアスは言った。



「全力で戦ったことがあまりないな?

 魔王として本気で戦ったのは何度だ」


「ああ?!

 んなの……」



 あれ、ほとんど……ない、か?


 ゼートと反逆した時、それ以外は一瞬で……

 破龍の時は影、そもそもほとんどを影と一度の魔法。それも魔王としての力を使わずリビアの詠唱省略で使っていた。


 魔王としての力を使うことによって魔王だとバレるのを恐れ、魔王になってからも魔王の性質に近づくのが嫌だからと恐れた。



「全然、ないな……」

「気を抜くな」


 グラディアスは剣攻撃の途中に蹴りをはさむ。

 問答無用のその蹴りは俺の左足をへし折った。


 がくんっと体勢を崩した俺の顔をグラディアスは平然と蹴り飛ばしやがった。

 俺は剣を握ったまま壁に衝突する。


 手から剣が落ち、遅れて俺自身も地面にうつ伏せた倒れる。

 グラディアスが何か言っていた。



「さぁ剣を持て。

 その程度で魔王を名乗るんじゃない」


「は、ははっ、あはははっ」



「……そうだ。

 のまれろ。お前は魔王だ」


「いてぇんだよ。

 その余裕な表情切り崩してやるよグラディアス」



「こい。

 先程よりも強ければ俺もスキルを使ってやる」


「かははっ」



 俺は楽しくて仕方なかった。


 無駄に体から魔力を溢れ出させ両手の剣を交互に振った。


 そして右手の剣を地面スレスレから切り上げる。

 その剣がグラディアスによって上空へと投げ出され、俺の手から離れる。


 後ろに下がろうとするグラディアスは途中で止まった。


「なんだ。壁はまだ後ろだったはずだ。

 氷で行く手を阻んだか。だが無駄だな。

 端から端まで壁を作る必要はない」



 俺は無言で左手の剣を突き出す。

 グラディアスはその剣を弾こうとするがグラディアスの剣は突然現れた氷によって遮られていた。



「なるほど、細かい調整が出来ないと見せかけたか」




 ――刺さった。俺の剣はグラディアスの心臓に突き刺さっていた。



「どうだグラディアス」

「お返した魔王」


「っ」



 にやけていた俺は真顔に戻る。

 ――左腕がない。


「状況を理解し計算、行動、すればいいというものではない。

 するにしても浅すぎる」


 そう言った瞬間、俺とグラディアスの間に剣が落ちてくる。

 炎の光で反射しているその剣は先程弾かれた魔王の剣だった。


「フィシアアタッチメント」


 剣が冷気を帯びて、柄が少し凍りついていく。

 柄がこちらを向いた瞬間にその剣を押し出しグラディアスの首元に突き刺した。


「あぁ? 何が浅いって?」

 グラディアスは口の端から血を流しながら少し口角を上げる。

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