前魔王城の違和感
俺は魔王城の前で立ち止まった。
この魔王城には不思議な点がいくつもある。
まず警備しているものが誰も居ない。
にも関わらず建物の劣化がない。
普段誰も入ろうとしないのもおかしい点だ。
寝床にしようとするものが居てもおかしくないはずだ。
そしてリビアが魔王会議の部屋から追い出された事。
あの時はリーシア達に会いたい気持ちもあって有耶無耶にしていたが何かある。
それに前魔王城になにかあるかも知れない。
最後のピースを埋めるような何かが。
「ご主人さま?」
「少し考え事してた。
今から中に入るけど、もしかしたら危ない事があるかも知れない。
だから気を張ってて欲しい」
「任せてくださいっ!」
俺はイナの手を握り中に入る。
まず目指すのは魔王会議の部屋。
リビア。数字でも数えててくれ。
”了承しました。一、二”
さて、頭の中が若干うるさいがこれでよし。
俺は魔王会議で使った部屋に入る。
椅子は壊れたままだった。
「あいつら……」
魔王らしく今度力でねじ伏せてやろうか。
そんなことはさておき、リビアの声は聞こえたままだ。
辺りを念入りに調べるが怪しい様子はない。
やはりあの時リビアが結界を破壊してしまったからだろうか。
だが結界を張ったのには理由があると思うんだよな。
「だめだ、この部屋にもう怪しいところはない。
無駄足だったかな。リビア、もういいよ」
”五千八百、十、分かりました”
「随分長いこと悪かったな」
”いえ、マスターの為なら”
「ありがとう」
俺は部屋を出る。
とりあえず魔王城を端から端まで歩いてみる。
なぜ劣化しない。まさかこの建物事態に何か仕掛けがあるのか?
このサイズだぞ?
ただ長い廊下を歩き続ける。
いろいろな部屋を見て回る。大体は普通の一部屋。
寝室があり、リビングがありとサイズ感がおかしいだけで普通の城である。
何も見つけられない。そう嘆いていた。
「あら? こんな所で会うなんて」
「シェフィ!」
「ふふっ。うれしそうな声出してくれてうれしいわ。
どんな用事でここに来たのかしら」
「以前ここで違和感を感じてな。
その違和感を物色する為に来たんだ」
「あらそうなの。何か進展は会った?」
「それが全く」
「なら私に付いてきてほしいのだけど」
「ん? まぁ闇雲に歩いてるだけだから構わないが」
「そう。それは良かったわ。
違和感なら私もあるのよ」
「そうなのか?」
「ええ。だからこっちへ来て?」
「ああ」
俺はイナと一緒にシェフィについていく。
シェフィは歩きながらその場所について話始める。
「その場所はね。
見た目は普通の場所。
部屋と部屋の間。不思議な厚みがあるわけでもないの。
なのにね……おかしいのよ」
「何言ってるか全然わからないぞ」
「そう。最初は私も訳が分からなかったわ。
ここで時々体を休めるの。快適だから。
その時に気づいたことなのだけど……
歩幅が合ってないのよ」
「は?」
「ちゃんと説明するわ。
あなたは右足を前に出した時、意識はしていないけどどれくらいの歩幅で歩いているのかは分かるでしょ?」
「まぁそりゃな。
今だって普通に歩いてるよ」
「その歩幅が短かったら?」
「自分の思っていた歩幅と違かったってことか?
でもそれは」
「それだけ、ならね。
なら……右足を踏み出したのに左足が出ていたら?」
「……気色悪いな」
「ええ。だから違和感なのよ。
試しにコインを投げてみたの。
そしたら普通に落っこちたわ。
でもコインを投げながらそこを歩いたらね。
――落ちた音がしなかったのよ」
「それは当たりだな。
というか気になりすぎてこのまま帰りたくない」
「ええ、本当丁度良かったわ。
私も気になって仕方なかったのよ。
解明出来たらキスしてあげるわ」
「なっ」
「ふふっ。ほんとよ。
どうせ魔王になってやりたい放題しているんでしょ?
以前より魔王の力が強くなってるじゃない」
「いや魔王だからじゃなくてなっ!」
「やりたい放題は否定しないのね?」
「うっ」
イナが俺に聞いた。
「何をやりたい放題なんですか?」
シェフィが口元に指先を当て、意地悪な顔で言った。
「それはね、とーってもえっ」
「はいそこまでっ! 続きは大人の場所でっ!」
「あら、いいじゃない。
教えてあげても」
「ダメです」
「まぁいいわ。そのうち分かるでしょうし」
油断もスキもない。
イナの耳がピンッと立った。
「ご主人さまご主人さま!
変ですっ! すごく変なんです!」
「落ち着け。どうした?」
「音がっ、音は……すごく長いんです。
でも、視界と合わないんですっ!」
「よーし。俺にも分かるように説明出来るか?」
「えっと、お部屋とお部屋が見えます。
でも音ではその間はもっと広いはずなんですっ!
丁度一部屋分くらい……」
「シェフィ。まさかここか?」
「ええ。大正解よ。
あなたのとこのイナちゃんだったかしら。
すごいのね」
鼻を高くするイナ。
「リビア」
”はい”
「なにか分かるか?」
”一度通ってくださいませんか?”
「分かった」
俺はリビアに言われたとおりその通路を歩く。
「歩いたぞ」
俺はそう言って振り向く。
イナとシェフィが不思議な顔をしている。
俺はシェフィにどうしたのかと聞いた。
「傍から見てるとすごい違和感あるのね。
元々来るような所ではないから今まで誰も気づかなかったのかも知れないけれど……
なんか、ぶれてたわよあなた」
「わからん」
シェフィはイナの手を引いて俺の元に歩いてきた。
するとシェフィとイナがある箇所からズレて出てきた。
まるで入りと出だけで、その中間は切り取られたかのようなおかしさだった。
「気持ち悪いな……」
”解析が終わりました。もう一部屋存在します。
間の時間が省略され、存在に気づけないよう魔法が施されています”
「つまりその間の部屋を見ようと思っても、それを見れる時間は消し飛んでるから見れるわけがないということか。
その部屋、入れるか?」
”まずはこの魔法を破壊しなければいけません。
空虚の使用許可をくださいますか?”
「構わない。やってくれ」
”ありがとうございます。スキル 空虚”
空間が広がる気持ちの悪い感覚がある。
目の前の出来事に頭がついていかない。
部屋と部屋の間が長くなる。
”時間の仕掛けと外見の虚偽を破壊完了しました”
俺とイナ、シェフィはその突然現れた長い壁を凝視する。
扉はない。しかし部屋と部屋の隙間にしては長過ぎる。
何かを隠していますと言わんばかりの部屋だ。
「ぶち破るか」
シェフィはため息をついた。
「中に財宝でも眠っていたらどうするの?」
「……」
昔なら問答無用で破壊してしまっても良かったがもし財宝が眠っているのだとしたらみんなの食料や道具を買う資金になるかも知れないと考えてしまう。
壁を触りどこか凹んでスイッチみたいにでもならないかと期待する。
「だめか」
リビアに聞いてみてもこの先がどうなっているのか分からないらしい。
おそらく魔王会議の部屋と同じ仕組みだろう。
リビアにもう一度破壊させるか。多少時間はかかっていたが一回できてるわけだしな。
「ご主人さま」
「どうしたイナ」
「シェフィさんがいません」
「は?」
俺は壁から目を離しキョロキョロとシェフィを探す。
「あれ……いないな。
というか、なにか……変、じゃないか?」
廊下を灯す魔具の炎が動いていない。
俺はイナの手を引いたまま歩いて確かめに行こうとした。
「え、いや、は? か、壁?」
見えない透明の壁が出来ていた。
まさかまたあの空間が出来上がって閉じ込められた?
「リビア、リビア?」
リビアからの返答もない。
なんだ、なんだこの不安感は。
リビアがいないだけでこの場所から脱出出来ないんじゃないかという不安に駆られる。
「ご主人さま……」
「はっ……」
イナの不安そうな顔を見て気合を入れ直す。
「大丈夫。入れたなら出れるはずだ」
「はい……でも、もう一回入れそうです」
「おいイナ……なにを言って……あー……そう、かもな」
扉、扉があるのだ。
正直、開けるしか無い。開けるしかないがホラー映画で言う開けたら絶対にいるっていう展開である。
「すー……はー……入ろう」
「え、は、はは、入るんですか?」
「怖い。怖いさ。でも入るしかない。
イナもいるし、解決するなら早く解決して国に戻ろう。
どれくらい時間があるのかもわからないからな」
「分かりましたっ! 行きましょう!! イナっ、がんばりますっ!」
俺はイナの意気込みと共に扉を開けて中に入る。
当然イナの手は絶対に離さない。
部屋に入ると真っ暗だった。
ドアノブに手をかけたまま入ったのにいつの間にかドアノブは消えていた。
「くっ……怖いじゃないか……めちゃくちゃ。
逃げ帰る道もなくなったわけだ」
「怖いですっ!」
イナは俺の手を強く握る。やばい折れる。治るからいいけどよくはない。
すると部屋の壁から順々に魔具の炎が灯されていく。
おかげで部屋の大きさが分かる。
いつもの小さなギルドの宿、それと同じくらいの広さがある。
しかし高さは別だ。高さは通常の部屋と変わりない。
家具などはない。
たった一つの椅子。
少し大きめのその椅子は装飾が施されている。
その椅子には頬杖をついた人が一人。いや、耳を見るに魔族だろうか?
上半身は裸、ズボンはジーパンのようなものを履いている。
髪は白く、地面につくほど長い。
肌色は青く、俺の印象としては死人。
それでも十分嫌だったがその死人がうっすらを目を開けた。
目を覚ましたその男は俺を見て言った。
「貴様は魔王か?」
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喜びます。