三国同盟
フラッドはアイリスの話を聞いた後、頬杖をつきながら俺に言う。
「それで? そのアイリスの剣とかいう聖遺物があればどうなるってんだ」
俺は椅子の背もたれによりかかり、一呼吸置いてから話始めた。
「説明したい所だが実際どういう状態なのかは分からない。
役回りが与えられているのか、それが何人までなのか、それとも聖遺物として別の能力として関与出来ているのかは分かってないんだよ。
だから結果としてあった出来事を話す。
この剣を持っている者、そしてその周囲の者はルール上の内にいようが外にいようが内にいるものを攻撃できる」
ガタッとフラッドは前のめりになる。
「ならそいつさえ持っとけばあの国を」
「それは難しい。
そもそもの戦力差がある。
一度も見たことがないが以前に聖書の写しを持ったやつが言っていたんだよ。
前勇者がいるってな。前魔王討伐から五百年以上生き続けていることになるがどの程度の強さなのかは分からない。
それに現勇者はミレッド帝国から現れると言っていた。
つまりそれだけ自信を持てる勇者候補が少なからず一人いることになる。
それにこの剣はあくまで今まで通り戦えるようになるくらいで聖書の原本と対峙した時どこまで通用するかは分からないんだよ」
「ちっ……
そもそもの戦力の問題か」
「ああ。こっちも全戦力をミレッド帝国進軍につぎ込めればいいが国が手薄になるからな。
だから理想は攻めてくれることだ。
まぁ本気で侵略しに来るということはそれが出来ると判断した時だ。
一筋縄では行かないだろうな」
「魔族を集めるってのはどうだ?」
「まだ覚醒としては一手足りない。
だから魔王会議を開いても大国を攻め落とすのに付いてくるやつがどれだけいるかな。
正直覚醒に時間がもう少しだけ欲しい。
気がかりなこともあるしな」
「気がかりだと?」
「ちょっと前魔王城に用事がある。
それと獣国ミィレンにもな」
「どれだけ時間を稼げばいい」
「この後、ロンの持ってきた情報を元にミィレンへと向かう。
国王と話をして魔王城に少し寄る。
後はシェフィの勧誘だな。
だから二週間、もしくは三週間ほど欲しい」
「それぐらいならこの国を俺が守ってやる。
しかしなぜ獣国の国王と? 何が目的だ」
「四カ国同盟。
俺が今求めている結果だよ。
人、魔王、魔族、獣の国が同盟を結び、少しずつ植民地と領土を増やすミレッド帝国を潰す」
「お前、それが目的で俺を」
「ああ。関わりのある魔族の国王なんてフラッドしかいないしな。
魔族の王なら誰でもいいわけじゃない。
もし実現出来たのなら、さぞかし心躍るだろうよ」
「はっ、ははっ!
少し前まで仲間さえ守れればいいと言っていたガキが大層な野望を持ったもんだ!
人間も守るっつーのは相変わらずだけどな。
好きにしろ。俺は自分の国民を守るだけだ。
それ以外は自由にすればいい」
「なら納得でいいな。
戦争の時はロッグにも声をかけてくれよ?」
「あの元人間は研究することしか頭にねぇ見た目通りの脳なしだぞ。
ま、一応は言ってやるけどよ」
「じゃあよろしく頼む。
アビス」
「はい」
アビスは返事をすると机の上に置かれた箱の中から用紙を取り出す。
そしてその用紙をフラッドとアイリスに渡す。
フラッドは親指と人差し指のさきっぽでその用紙を持ち上げる。
「んだこれ?」
「三国同盟の同意書」
「必要か? 口約束でいいだろこんなもん」
「形式上のもんだ」
「かたっ苦しい」
そういいながらも同意書にサインをする。
そしてアイリスもサインを済ませた。
フラッドはアビスに片道でもいいからゲートを近くまでつなげておけと言って自分の国へと帰っていった。
気が抜けたアイリスとガルスは同時にため息をつく。
俺は二人を少しからかう。
「俺が思ってたより張り詰めてたか?」
ガルスは体を少しほぐしながら答えた。
「ええ。なにせあの巨体。
攻撃的な性格に魔族ですから。
緊張も致しますよ」
「ははっ。それもそうだな。
気が荒いのは間違いない。
ただ国民思いが過ぎるだけのいい王だよ」
そのせいで死にかけたが。
アイリスはゆっくりと立ち上がり頭を下げる。
「それではエノア。また今度時間があればお会いしましょう」
「待ってくれアイリス。
どうして同盟に賛成したんだ。
フラッドは魔王と魔族という関係だけど、アイリスの国は人間の国だ。
俺としてはそれが目的だし、助かりはした……
けど魔王の国と同盟を組むんだぞ? いいのか?」
「いいのか? ですか。
いいんですよ。
カラムスタ王国の国民、大多数がそれに賛成したのですから」
「はっ……?」
「以前も申し上げましたが私の一存では決められません。
国民の命に関わることですから。
お父様から託されたカラムスタという国を守ること。
それはフラッドという魔族と同じです。
そこで私は国に住む全ての国民に賛成か反対か問うたのです。
私がサインをしたのはただの代表者として。
同盟を組む。それがカラムスタ王国全体の意思なのです」
「約束するよ。カラムスタ王国がもし危ない目に会ったのなら真っ先にとんでいく。
たとえ同盟が破棄されたとしてもだ」
「それは当然ですっ」
そう言って歩いて俺に近づき耳元でこう言った。
「だって私の旦那様なんですから」
ちゅっと頬にキスをされ離れる。
「い、いやまだそうと決まったわけじゃ」
「諦めたわけじゃないですよ?
ただの宣言です。宣言っ! ではこれで。
二人で会えることを楽しみにしております」
アイリスとガルスはカラムスタ王国へと帰国した。
帰り際、リーシアがしゃーっと威嚇していた。
ぞわっとした感覚がまだ残っている。
アイリスにキスをされた頬を触りながら今後について考えていた。
考えをまとめた後、俺はイナに言った。
「イナ。俺と一緒に獣国に行くぞ」
「はい。ご主人さまについていきますっ!」
「もし両親に会えるのなら、会いたいか?」
「えっ……両親のことは何も覚えてはいません。思い出すことが出来ません。
ただ、サリーさんを見てて……もし、いるのならひと目見てみたいとは思います」
「そうか……」
親というものに対する憧れが生まれたのかも知れない。
イナを連れて行くのは二つの理由。
一つは警戒を和らげてもらいたいということ。
獣人は魔族でも魔物でも人間でもない。
敵かも知れないということだ。
しかしロンによって獣国もまたミレッド帝国とのいざこざがある。
ただもし獣国がミレッド帝国を取るのならば敵。
つまりどちらかはっきりとは分かっていない。
だからイナを連れて行くことによって友好的だとアピールしたい。
もう一つは当然イナの両親、もしくは血縁についてだ。
イナの能力について知りたいこともあるがそれはシェフィに頭を下げて教えてもらえばいい。
単純にもしイナの両親がいるのなら会わせてやりたい。
そしてはイナが奴隷になった経緯を知りたい。
俺はイナに行く準備を整えるよう伝え、部屋を出た。
今回はイナだけ連れて行くと決めていた。
リーシア達にはこの国に待機してもらう。
リーシア辺りは駄々こねるかも知れないが……
少ない方が警戒されないだろうしいくら獣国と言えど俺とイナなら逃げられるだろう。
そして次の日、イナを連れてフラッドの国近くにアビスの移動術式を利用して向かった。
そこから獣国ミィレンに向かって俺とイナは旅を始めた。
面白いな応援したいなと思っていただけましたらブックマークと評価の程、お願いします。
喜びます。