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イナと商人達

 イナは川から国の街に入るまでずっと俺の手を握っていた。


 街に入る前俺はイナに聞いた。



「戻るのはやっぱり怖いか?」


 イナは少し強く手を握った。


「ご主人さまがいるから、大丈夫です」



「そうか」


 俺もイナの手を強く握り返した。



 街に近づくと足がすくむ。リーシアとのいろんな思い出があるのにたった少しの出来事だけで俺はこの街に行きたくないと感じる。


 イナと一緒に街の中に入り大通りを避け商店が並ぶ場所へ向かった。


 道具屋に入り昨日のアシッドボアの皮を買い取ってもらおうと査定を頼んだ。

 若めの男性が目を凝らしながら査定していた。



「あんまり高くは売れないよ。結構流通しているものだからね」


 普通だ。薬屋の婆さんと同じだ。


「構わない。いくら位になる?」


「んーそうだね。こっちの皮は大体千五百ルティかな。

 こっちのは大きくて上等だ。二千ルティ。どうだい?」


「頼む。思ったより高いな」


「サービスってのもあるさ。長い付き合いになるかも知れないしな。


 流通は多くてもうちはアシッドボアの皮加工がメインだ。

 追い出されて一日で狩ってくるとは見込みがあるもんだ。


 しかも二匹。これからも贔屓に頼むよ。


 それにあんた……教会すら使えないんだって? 国立図書館も利用できないんじゃなぁ。

 がんばれよ」



 やっぱり気づいてたのか。この商人の懐の深さはなんなんだ……


「助かるよ。一人増えたしな」



「おや。奴隷かい? 貴族に売りさばいてるって話だったけど。ふーんそうか……


 ひどい扱いは受けていないみたいだね。信頼されてるようだ。

 私の方が怖がられてる。これで変な扱いだったら殴ってたかも。あはははは!」



 どちらかと言えば街の住人をぶん殴ってほしい。とは言えない。


 俺は査定された金額を受け取り店を出るために背を向けた。



「じゃあ俺たちはもう行くよ。また今度よろしく」


「あいよー」


 


 向かいにある服屋に入る。


 カランカラン



「はーい」


 店の奥から若い女性の店員が出てきた。


「すいませんまさかこんな朝早くにお客さんがくるなんて……

 えっ?!」


 ビクッ

 そうだよな。商人が全員ああいう人達だとは……



「かわいいいいい! なにこの耳! 獣人? 私は見るの初めてだなぁ!

 お名前は? どこからきたの?」


 確かに今まで会った商人とはまた違ったタイプだった。


 俺は胸をなでおろした。


 イナは食い気味に迫ってくる女性店員に驚きながらもちゃんと答えた。



「イナ……名前はイナ、です。ご主人さまと一緒に来ました……」



 ガシッ

 俺は女性店員に顔を掴まれた。



「こんな可愛い子にへんな事してないでしょうね。ひどいことも含めて」


「して、ません」


「よし。まー態度見れば分かるけどねー。えらいねーイナちゃんって言うんだ。

 言葉遣いも丁寧でこのおにーちゃんとは違うねー」



 イナはほっぺを膨らませ言った。


「ご主人さまを悪く言わないでくださいっ」



「あはーっかわいいねぇぇぇぇ」


 さすさすさすっとイナの頭を撫でた。



「うっうっううううう」


 イナの声が小刻みにふるえていた。撫で過ぎだ。



「ストップ。俺は客だ。


 物心ついたときからこういう態度をするようにしつけられてるんだ。

 悪意はない。


 まだ体から抜けないんだ。相手が目上なら言葉遣いも気をつけるんだがな……

 いや、今の俺からすれば全員目上ということになるのだろうが……」



「ふーん。さっすが貴族様。ま、貴族にもいろいろあるんでしょうけどね。

 貴族たるように振る舞わなきゃいけないんだし」



「もう貴族じゃないけどな。新しいシャツが欲しい。それとイナに服を買ってやりたいんだ。予算はあまりないが……


 三千ルティで俺のシャツとイナの服を見繕ってくれないか?


 俺のは一番安いのでいい」



「いいとこあんじゃん。噂に聞くより男前だね」



 やはり――知ってたのか。


 イナが俺の前にでる。女性店員はにやりと笑った。


「ほほう? ほほー? んーなるほどなるほど。嫉妬かぁ。


 取ったりしないよイナちゃん。私にはちゃーんと欲しい相手がいるんだ。

 イナちゃんみたいにね」



 イナはそう聞くとまた俺の横に来た。


「それって向かいの道具屋の男のことか?」



「はっ?! なんで分かった?! こわっ!」


「いやそんな意味ありげな目で向かいの店見つめてたら勘ぐるさ。

 認めなければ分からなかったよ」



「くっ……まあいいさ。別に知られて困るようなことじゃないしね」


「思いは告げないのか」


「言えたら苦労しないよ」


「会えなくなる前にちゃんと言っておいた方がいい」


「実体験?」



「似たようなものかな。今となっては会いたい人に会えないからな。

 話したいことがあっても話せない。もどかしいよ。


 だからちゃんと思いが決まってるなら悩んでないで言ったほうがいい。

 どっちにしろ言うんだ。自分の選択は決まってるだろ」



「はぁ……簡単に言ってくれるねー。


 分かったよ。じゃあ次の祭りで思いを告げる。

 結果次第で次来た時サービスしてあげるよ。ただし駄目だったらぼったくるから」



「なぜ?!」


「責任持て! あ、あんたはあたしの運命を左右したんだよ!


 無責任な発言なんて許すもんか!」



「俺も男だ……それに乗った」



「よし! イナちゃんちょっとこっち来ようか。

 お洋服選んであげるから」


「ご主人さま……」


「大丈夫だ。行って来い」


 イナはこくりと頷いた。



 数十分後。



「ほらこんな感じでどーお? ってもあたしのお古なんだけど。

 こう見えて昔は冒険者だったんだー。って言っても二年くらいでやめちゃったんだけど」


挿絵(By みてみん)



 白いシャツに黒いリボン。プリーツスカートの下に見えるイナの細くて白い足が見える。



「どう、でしょうか。ご主人さま」


 俺はハッと我に帰ってイナに感想を伝えた。


「あ、ああかわいいよ。すごく。似合ってる」



 女性店員はにやーっと笑みを浮かべた。



「はっはーん? たじろいじゃってぇ……骨抜きにされてたな?」



「ちょっと道具屋に用事ができた。今」


「わっわっ! ごめん冗談だって!」



 俺はさっさとシャツを受け取った。


 女性店員は代わり映えしないわねと言った。俺はそれでいいと返事をしてお代がいくらなのかと聞いた。



「あー千ルティかな」


「そんなわけないだろ」


「お古って言ったでしょ。それでお金なんて取らないわよ。


 第一こんな可愛い子に見合う服を見繕ってたらあんたの服買わなくたって足りないわよ。

 リボンと革の道具入れとベルト、それとあんたのシャツで合計千ルティ。

 ほら払って」



 女性店員は手を出した。



「ありがとう」


「ただの商売よ。イナちゃんまたねー」


「あの、お名前……」



「お? 心開いてくれた? あたしはニーナ。またよろしくね」


「ニーナ、さん。ありがとう」


「ふぐっっ」



 ニーナは胸を抑えた。気持ちは十二分に分かる。だがイナはまだ冗談が通じないので本当に耐えてほしい。


 ほら心配して駆け寄った。


 冗談であることをイナに伝えニーナと別れた。




 次は武器屋だった。



 店に入るといかにもな店の主人が立っていた。顔は老けていて白い髪の毛を後ろに流していた。その顔とは裏腹に体はかなり鍛え上げられたものだった。



 特に上半身、さらに言えば肩と腕の筋肉が立派だった。

 シャツがパンパンである。


「客か。こんな早い時間とはな。

 ん、その剣は」



 店に入るなり店の主人は俺の剣について言及した。


「すこし見せてくれ」



 店の主人は俺から剣を受け取るとそれを眺めた。


「いい素材を使ってるな。素材だけでいえばうちに置いてある剣を買う必要なんてない。


 だが腕が悪い。量産品レベルに粗悪だ。

 誰だこんな仕事をしたのは。柄を見る限り貴族の……」



 店の主人はすっと俺を見て言った。


「貴族、んでそのなりはエノア様か」


「様はいらないよ。俺はもう貴族じゃない。

 いろんな意味で有名人だな俺は。特に勇者候補のせいだが」



「はっは! んじゃ他の客と同じように旦那って呼ばせてもらおう。


 んでエノアの旦那、何しに来た? この剣ならこの辺のモンスターは十分だろう。

 アシッドボアあたりは剣が入りづらいが魔法討伐が基本だからなぁ……」



「その通りと言えばその通りだ。俺は基本魔法が使えない」


「あ。そういえば何かと不便を被ってるとか聞いたな。

 ならこの剣を鍛え直すか? サービスしますぜ?」



「いや、実はそんなお金はない」


「冷やかしはやめてもらいたいんがな。


 ふふ。まぁわしの作った剣をみたいってんなら仕方ねーな。

 へへ、照れるじゃねーか」


「一言もそんなこと言ってないだろーが。技術の事は分からん。

 そうじゃなくて今日はこっちだ」



 ひょこっ


「おあ?! もうひとりいたのか! やめてくれ嬢ちゃん。

 おじさん天に昇っちまうから」



 それで死んだら俺は一生忘れられない。


「ごめんなさい……」


「こりゃいい子だ……エノアの旦那と違って……」


 俺は店の主人に言った。


「そのくだりはもうやったよ」




「え、ああそう? この子の職業は?」


「分からない。戦ったことがそもそもない」



「ふむ、なんでまた……」


 イナは俺の後ろから声を出した。



「イナも戦いたい。ご主人さまに危険な思いをしてほしくない。

 イナがご主人様を守りたい」



 店の主人は胸を抑えた。


「うっっっ」


「いやそれももうやった」


「なんで最初にうちに来てくれなかったの?」



 いや知るかよと。



「話が進まん」


「んー。職業も分からないとなるとな。

 一応予算聞いておこうか」


「だせて二千五百ルティ」


「失敗作か量産の剣くらいしかないな……


 物によっては量産の剣ですら買えないぞ。

 よしわしが今から打とう」



「絶対足りない」


「収まるようにする。実際考えもある」



「変なこと企んでないだろうな」


「へへ。ないない」


 考えてんなこいつ。

 

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