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こんどは

「じゃあゆっくりこっちに連れてきてー」


 奴隷商のロンが安く、かつ厳選した家畜を運んでいた。

 かなりの数を用意してくれて助かっている。


 それを眺めながら自分の心を落ち着かせる。

 少しずつ、少しずつ魔王という性質に近づく。

 それが分かった今、俺は時折自分を見つめなおす。



 あれから数日。例の兵士は要件を伝えた後に死んだだろう。

 それからというものミレッド帝国の動きはない。

 やはり自分の有利な場所で戦いたいということだろう。


 だがそうやって腰を下ろしてくれているおかげでこちらは思う存分準備することが出来るというものだ。



 それにロンが帰ってきたおかげで食料問題に解決の兆しが見えてきた。

 現状魔族事態は特に問題はない。

 スライム達の用意してくれた畑で作った食料を食べることができるからだ。


 足りない分は各々稼ぎに言ってもらうという無責任な状態は続いてしまっているが食料が枯渇しているわけではない。

 まだ鉱石の蓄えもある。



 問題は俺が連れてきた人間の方だった。

 食事は鉱石の貯金を崩すことでしか得られない。

 他に産業もなく、以前厳しい状態が続いていた。


 しかしロンが用意したイノシシや鳥はなんと魔素までも栄養として取り込み、排出するという性質を持っていた。

 ここで育てるにはもってこいの品種だ。

 当然蓄えた魔素も排出してくれる。



 そしてスライム達が耕した土には雑草や害虫という問題があったがスライム達は宣言した通りなんとかしてしまった。

 スライムは土を吸収、排出することで土を栄養のある畑としていた。

 その時、スライムたちは自身の液体を少量混ぜることによって害虫や雑草が生えないようにしてくれたのだ。



 街の発展も著しい。

 魔王城はまだ時間がかかるそうだが完成を待っている時間はない。



 俺はアビスにカラスによる伝言だけを頼みその他の業務を終了させた。

 力になれて無いようで不安だと言われたが俺はアビス以上に働いたものはいない。

 だから休暇だ。

 ゆっくり休んでまた俺の力になってくれと伝えた。



 今はカラスによる伝言の結果を待つ暇な時間だった。

 時折ルーカスの魔王の義眼を慣らす為に擬似的な戦闘を行いはするがそれ以外はのんびりしているだけだった。

 ルーカスの得た力はそうとうなものだった。断言できる。

 もし俺が再生しないのであれば現状負けるかも知れない。



 しかし夢の女性が言っていた契約相手の力を一部得るというものだが、ルーカスからはなにか得たのだろうか。

 イナから得たのは再生能力か? 使えこなせてないという事はまだ一部なのかも知れない。リィファならテイマーか。

 一部。つまりは劣化したスキルになるだろうからな。破龍クラスをテイムするのは無理だろうな。



 ……こうして空を眺めて考え事をしていると頭によぎることがある。


 トアに言われた「あたしが思ってた魔王とは違うと思ってたのに」という言葉だ。

 言い訳して分かってもらえるだろうか。第一謝るようなことではないが……

 トアのあの顔が忘れられない。

 誤解だけは解きたい。しかしあれからずっと避けられている。


「……無理やり捕まえるか」



 俺は屈伸してふーっと息を吐く。

 まずは街を歩きながらトアを探す。

 今の所はだが魔族と人間は規律を守ってくれている。


 ルーカスとゴルのようにお互いが会話しているのを見ると求めていたものが手に入った感じがする。


 ちらっとリボンが揺れるトアが目に映る。

 トアも俺に気づき、そっぽを向いて早歩きで去ろうとする。



「今回は逃がすわけにはいかないんだ」


 俺はそう呟くと走り出す。

 路地に曲がったトア。俺はその後を追いかける。

 足音が近づいてくるのを感じたのかトアも走り始める。



「本気で逃げ始めたな。

 この速さ……スキルまで使ったのか」


 俺は魔王になったことによって魔力を扱えるようになっている。

 魔力を循環させ、速度を上げていく。さらに影によって補強。

 トアは後ろを振り向かずに言った。


「な、なんで追いかけてくるんだよ!」

「トアが逃げるから」


「くんなぁぁぁ!!」

「今回はやだ」


 俺は少しずつ距離を縮めていく。

 トンッと走りながらトアの肩に触れた。



「「あっ」」


 トアの足がもつれた。


 俺はトアを抱きかかえ影で自分たちを覆いながらゴロゴロと転がっていく。

 そして行き止まりだった壁に衝突した。

 お互い息を切らしていた。


 俺はトアから離れた。息が中々整わない。



「なんのっ、用だよ」

 トアはぜーはーと肩で息をしながら俺に言った。



「はぁっあー……


 この前の、さ。魔王らしいらしくないの話なんだけど、少しずつその、魔王に性格だとか考え方が寄っちゃうみたいでさ。

 今はもう、大丈夫だから」



「それ、言うために走ってきたのかよ。

 いいよ別に、もう気にしてない」


「ならなんで逃げたんだよ」




「だって……

 ルーカスって人がやられて怒ってただけかも知んないのにあんなこと言っちゃったし。

 なんか、気まずくて……」


「じゃあ、嫌いになったってわけじゃなかったのか?」



「嫌いになんかなってない!

 考えもせずに口走ったの、後悔してたんだ」


「ぷっあははっ!

 んだよずっと俺悩んでたんだぞ」


「わ、笑うなよ!」



「悪い悪い。

 そっか。トアに嫌われたんじゃないのなら良かったよ」


 俺はトアの頭に手をのせ、イナを撫でるようにそう言った。



「っ」


 トアは撫でられた後、俺に顔を近づけキスをした。

 軽いキス。少しだけ触れてトアは離れた。





 無言が続く。


 俺はついこんなことを言った。


「え……なんで」


「……あれ? 今、あたしなにしたっけ。

 え、え? キス、嘘、なんでっ?!」


「知るか! 俺の方が知りたいっての!」



「あっあっ、ぁぁぁぁ」


 真っ赤になった顔を抑えトアは全力で逃げていく。

 それを追いかける気力は俺にはなかった。




「エノア様?」

 その路地でぼーっと座っているとリィファに声をかけられた。



「そんなところで座っていたら汚れてしまいますわ」


 そう言って手を差し伸べる。

 俺はその手をとり立ち上がる。



「まぁちょっといろいろあって。

 考えてるのか考えていないのかわからない状態で放心してた」


「あら? また女の子関係ですの?」

「……」



「図星ですわね?

 もし時間がお有りでしたらわたくしとデートしてください」


「えっ、今でいいのか?」


「ええ。日没まではまだ時間がありますわ」



 リィファは俺の手を離さずに手を引く。

 俺は歩幅をあわせ一緒に街を歩いていた。



「すごいですわよね。

 人と魔族が一緒に住むなんて。

 そして一緒に手を取り合いながら街を作っているんです」


「そうだな……まだどうなるかは分からないけど、きっかけを作れたことは嬉しい」



 そして以前ゴルを見つけた噴水近くのベンチに腰を下ろす。


「あ、おにーちゃん!」

「サリー!」


 サリーは少年とゴブリン、オークの子供達と一緒に遊んでいた。

 夕焼け時に子供達が遊んでいるのを見るととても懐かしくなる。


 少し、日本が恋しい。もう二度と戻ることは出来ないけれどそれでもいいかとも思う。

 だってその光景はここにもあるんだから。


「リィファおねーちゃんも来てたんだ」


「ええ。サリーさんはお友達と遊んでたのですか?」



「うん! でもかけっこ勝てないの」


「ふふ、そうですわね。

 今度魔素の扱い方を教えますわ」



「かけっこ勝てる?」


「サリーさんの努力次第ですわ」


「がんばる!」



 リィファはにこやかに笑いながらサリーを撫でる。

 その後、サリーの両親が迎えに来る。

 サリーの両親は俺たちに頭を下げた後、支給された家に帰っていく。

 子どもたちも一人ひとり帰っていった。



 俺はリィファに言った。


「子供の扱いうまいな」


「そうですか?」



「ああ。とても城の中に閉じ込められたお姫様だとは思えないな」


「からかってますか?」

 ぷくーっと頬を膨らませ俺の顔を覗き込む。



「からかってるよ」

「むっ」


「あははっ」「ふふっ」



 平和だ。魔王じゃなければ、いや誰も戦う必要がない世界になればずっとこんな幸せな時間が続くのだろうか。

 そうとも……限らないか。でも少なくとも今の幸せは守れる。



「そろそろ日が暮れるな。

 続きはまた今度にしよう。



 ……リィファ?」



 俺は立ち上がろうとするとリィファは握っていた手を引っ張り俺を静止させた。

 戸惑いながらどうした? と聞いた。



「まだ、一緒に居たいですわ。

 ずっと、ずっと一緒に居たいですわ」


「? あ、ああ。俺もだよ」



「乙女の勇気を無駄にするおつもりですか?」


「ん?」



「鈍感ですわっ!

 ……もっと、エノア様を感じたいということです」


「……なっ!」



 リィファの顔は本気だった。

 うるうると目を潤わせ、頬を少し赤くし、唇をつぐんでいる。

挿絵(By みてみん)



「リィファ……」


「今度は――冗談なんかじゃありませんわ」




「分かってるよ」


 俺はリィファの手を引き、抱き寄せた。

 柔らかい胸が押し潰れるほど強く抱きしめる。


 リィファの鼓動が聞こえる。

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喜びます。

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