責任
次の日はお祭り騒ぎだった。
「魔王様ばんざーーい!!」
「かんぱぁぁぁい!!」
私物を持っていくにも限りがある。
ということで一日宴会を開くことになった。
にしても人間が言うべきではないセリフを普通に吐くものだ。
俺は席を回りながらミレッド帝国について話を聞くが有用な情報は出てこなかった。
ただ、今回の聖書の奴隷と老人の話によってある程度は分かってきた。
俺の元いた国、神の加護と同じ話なのかも知れないと。
聖書のルール。ミレッド帝国はこれに縛られている。
逆に言えば縛られているからこそ城壁も兵士も全く用意しない状態で国が繁栄しているのかも知れない。
あの境界線。あれは”ルール内とルール外の境界線”なのではないだろうか。
つまりあれが城壁と言っても過言ではない。
聖書によって守られたミレッド帝国はまず攻め落とされることはない。
さらに積極的に支配し、ルール内へと引きずり込んでいけばこの世界で一番の大国となることも頷ける。
問題は俺たちの敵になり得る存在がどれだけいるか。
なんとかルール外で戦えたとしても大国だ。勇者候補がいると思って行動した方がいい。
それと宣教師。イビア達を陥れることがた人間。
こいつも視野に入れつつ見つけないとな。
たたたっとサリーが走り寄ってくる。
「おにーちゃーん」
「サリー。どうした?」
「だっこしてー?」
「ん? いいぞ。よいしょっと」
「あははっ! ちゅーっ」
頬にチューするサリー。
「おわっっ!」
俺は慌ててサリーを下ろした。
「えー、おろしちゃうのー?」
「びっくりしたからな……」
「私は私を差し出すって言ったんだよー?
だからサリーおにーちゃんのお嫁さんになるね」
「お嫁さんって」
「だめよ」
「リーシアッ!」
「見てたわよエノア。
まさか、とは思うけど……こんな年端もいかない子に欲情」
「してないしてないっ!」
「私を一番長く見て欲しいんだからあんまり増やさないでよね。
それに私だって女の子なんだから」
リーシアは耳元に口を持ってくるとこう言った。
「妬けちゃうわ。あれからしてないし。寂しいのよ?」
「うっ……」
「押しに弱いわよねエノアって。そういう所も大好きだけど」
バスッ
サリーが俺の足に抱きつく。
「ねぇ、何話してるのー?」
リーシアはサリーに向かって大人気なくこう言った。
「エノアのお嫁さんは私って話よ」
「ええーっ! いやっ!」
子供独特の理由は言えないけど、いやって言う聞き分けのない返事が帰ってくる。
「いーーーやっ!」
リーシアもかぁ……
ひと悶着の後、俺は化け物がいた人の水がある場所に来ていた。
水位が少しずつ下がってきている。
このままミレッド帝国に渡すのは癪だが出来ることはない。
いや、もう聖書は適用されていないのだから影で回収できるか?
影で人の水を回収し、階段を上がる。
そして、地面を影で掘っていた。
そこにリィファとイナがやってくる。
「ご主人さまなにしてるんですか?」
「ああ。墓を作ろうと思ってな。リーシアは?」
「リーシアさんならサリーさんと話してますよ。呂律は回ってませんでした」
「……呑んだな」
リィファが魔力でスコップを二つ作り出す。
イナはそれを受け取る。
「手伝いますわ。そういう気分ですもの」
「イナも手伝いますっ! ちゃんと……埋葬してあげたいです」
「……ああ。結構な広さがいるから頑張ってくれよ」
二人は返事をして一緒に掘っていく。
ある程度の深さと広さを掘り俺は影から人の水を流しだす。
「跡形もないってのが嫌だな。
それに地下じゃ暗かったから分かりづらかったが日に当てると随分赤黒いもんだ。
聖書の奴隷が儀式を行い生贄を溶かし、それがなにかの力となっている。
おそらく聖書だろう。
さて、この情報をフラッド達にも流さないとな」
人の水を流し切る。
「安らかに」
俺はそう言い残し、リィファとイナと一緒に街に戻っていった。
酔っ払ったリーシアを部屋に連れていき、イナ共々抱きつかれながら就寝。
リィファは笑っていた。
翌朝。
俺はこれから国民となるもの達に言った。
「みんな揃ったな。
今から俺の国。正確にはまだ建国宣言はしていないがそこに行く。
魔物も住んでいるが敵対する必要はないし、怯える必要もない。
いいやつらだ。向こうにも力での解決はしないよう伝えてある。
と言っても最初は怖いだろうから打ち解けるのはゆっくりでいい。
ただ忘れないで欲しいのはお互い同じ国民と言うことだ」
彼らはその言葉をちゃんと聞き入れる。
上空をカラスが飛んでいた。
なぜかアビスがこちらに来ていた。
「アビス? どうした。なにかあったのか?」
「お久しぶりです魔王様。
距離が距離ですのでいくつもの中間地点を用意し、数回に分けて移動することにしております。
それともうひとつ。
――ルーカス達が帰ってきません」
「どれくらいだ」
「一瞬間ほどです。
長くとも二日から三日で帰ってくるので念の為ご報告をと思いまして」
「一週間か……
結構長いな。
……分かった。途中で俺たちはミレッド帝国に向かう」
「承知いたしました」
移動術式を何度も経由した後、俺はリィファにアビスと一緒に戻るように言った。
「なぜですかエノア様っ! わたくしも一緒に」
「リィファが力不足だとか、そういう理由じゃないんだ」
「ではっ」
「破龍だ。
今の所ちゃんと意思疎通が出来るのはリィファだけだ。
今回のルーカスの件、もしルーカスが捕まってしまっているのだとしたら場所を吐いてしまった可能性がある。
もしそうならできるだけ戦力が欲しい。
破龍はうちの中でも最大戦力と言って過言ではない。
だからリィファ。みんなを守ってくれ」
「っ……そういうことでしたら……
仕方ありませんわ。
あの、エノア様」
「なんだ?」
「今度、戻ってきたら……二人きりになりませんか?」
「ふたっ……」
「いつも身を引いてはおりますが、たまには……
独り占めしても構いませんよね?」
「……分かった」
「やりましたっ! ふふ、楽しみにしておりますよ。
それではご無事で」
「ああ。約束の為にもな」
「はいっ」
俺はリーシアとイナを連れてミレッド帝国へと向かった。
ミレッド帝国内。
以前と変わらずにぎやかだ。
不審な動きもなく、俺が来たからと言って警戒する様子もない。
大通り、路地と隅々まで足を運ぶが、見つけることが出来ない。
何人かに聞き込みをしても知らないとしか言われない。
おかしいな……
ルーカスはこの国の出身だったはずだが……?
人通りのない路地を歩いていた時、ある女性が息を切らしながら俺のもとへ来る。
リーシアは警戒し、剣に手を触れるが女性の顔を見て驚いた。
「あなたっ! あの時エノアが助けた子じゃないっ!」
「たす、たすけてあげて、くださいっ!
おねがいしますっ、おねがっ」
俺は落ち着けと水を差し出す。
「はぁっはっ、ありがとうございます」
「気にしなくていい。
久しぶりだなとか言ってる場合じゃなさそうだ。
その怪我どうした」
「こんなの、大したことありません。ルーカス様をどうか」
「!! ルーカス?! ルーカスと言ったか?!」
「はっはい!」
「事の経緯を話せ。俺たちはルーカスを探してる」
「っ……ルーカス様は、私を助けるために……
聖書のルールを破りました」
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