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聖遺物

 ダグラス神話はルール外。影もアウト。

 せめてダグラス以前の神と関係しているものがあれば試せるが……


「イリアスの仮面……?

 いや、仮面で何が出来る」


 シェフィやリドがあれば対抗出来たかも知れないな。

 俺たちじゃ倒せないかも知れない。ちゃんと図書館で調べておくんだった。



「リーシア。

 ミレッド帝国の聖書について知ってることは?」


「ごめん……農作物には詳しくなったんだけど」


「……今度農作物について教えてくれ」



 冗談なんか言ってる場合じゃない。

 リィファならなにか知っているかも知れないが今はいない。

 戻ってくるまで待つか? いや危険か。

 リィファの身体能力は高くないからな。

 守れるほどの余裕はない。


「とりあえず台でも壊すか」



 俺はやれそうな事を片っ端からやってみることにした。

 影踏みで台の近くに移動。それに向かって魔法を放つ。


「意味ないか……なら」


 今度は影で拳を作り、殴っては見るが効果はない。

 魔王の剣を振りかぶった。


「壊れるなよッッ!」


 スカッ

 魔王の剣はなんと台を通り過ぎ、地面に刺さってしまった。


「なっ!」


 さらにこれをチャンスと思ったか、上空から化け物たちが覆いかぶさってくる。

 触れられる前に俺はその場から離脱する。


「剣、置いてきちまったな……」


 あの台は化け物達と同じく触れることが出来ないのか。

 つまりあの台も”そこにあってそこにない”


 イナが魔王会議の時と同じ力を使ったとしても物理だ。

 届かないだろう。



 化け物達が魔王の剣を不思議そうにじーっと観察していた。



 一斉にこちらをぐるっ! と振り向く。

 はっきり言ってめちゃくちゃ怖い。


 その手に魔王の剣を模倣した剣が生成される。



「そんなのありかよ!」


 俺は襲いかかってくる化け物達の攻撃を避ける。

 化け物の振るった剣が壁に刺さる。


 この壁も……いやそれはおかしい。

 俺や、老人、少年が台の上に乗れたのはおそらく聖書のルール内で生贄として認識されたからだ。


 聖書とは物語でもあり、俺たちは生贄という役者としてルール内に入っていた。

 だがこの壁伝いに俺たちは歩いてきたんだ。


 この壁はルール外だ。ならあの模倣した剣もルール外と見るべきだろう。


「リーシア! イナ!

 その剣だけは弾ける!」


「おっけー!」「分かりました!」



 金属音が響く。化け物は後ろに仰け反る。

 力自体はそうとう弱いらしい。まぁこんな理不尽な能力に力はいらないだろうからな。


 こいつらを倒すには聖書のルール内に入るか引きずり出すか。

 引きずり出すならいいが、ルール内に入れば自己再生がある俺でも死ぬかもな。


 どうやってルール内に入る? 生贄としてもう一度認識されてから刺されるか?

 いや、その時点で生贄の死までの物語が確定するかも知れない。


 少年は老人という代わりを用意したおかげでルール外に出れた。

 老人という生贄が一人居たから俺や少年はルール外に出れただけのこと。

 今回は代わりなんていない。



「エノア後ろ!!」


 後ろを振り向くと水が壁を覆っていた。

 壁から少し浮いた状態で水が動いていた。


「ズルすぎるだろっ!」


 五体の化け物が壁から現れ、手に持った剣を突き出している。


「くそっ! 借り物だから使いたくないんだけどなっ!!」



 俺はアイリスの剣を鞘から抜き出した。

 するとピタッ……と化け物達の動きが止まる。


「……なんだ?」



 違和感を感じ、後ろを見ると他の化け物たちも同じように動きを止めていた。


 化け物たちは剣を手から落とし、自分の顔を両手で覆う。

 震えているのか? 化け物が?


 顔をぐりんと斜めに動かし、緑色の目がめちゃくちゃな動きをする。

 べしゃんっと音をならして水の中に消える。



 上半身だけを外に出して出口に向かって進みだした。

 慌てるように、逃げるように。


 俺はアイリスの剣を眺める。



「この、剣は……聖書のルール内、なのか?

 ただの王族の剣だとばかり……」


「エノア……これ、一体どうなってるの?」



「分からない……

 このアイリスの剣が原因みたいだな。

 だが、なぜ……」


「ご主人さま。彼らの声が階段で止まっています。

 そこから先へ行こうとしてるみたいです。

 でも水がその先にないので」



「あくまでそこまでが領域なんだな。

 そこから先には水が上がれない。

 壁自体はルール外でもその上ならルール内。だから壁から出てこれたってところか。

 死を覚悟するくらい驚異的な能力だったが弱点でもあるんだな」



 俺は試しにアイリスの剣で台に触れてみる。

 すっ……と抵抗なく剣が入る。


 台はアイリスの剣で真っ二つに斬れていた。



「刃こぼれもなし、か」


 俺は魔王の剣を回収し、出口に向かう。

 バシャバシャと余計に暴れる化け物にアイリスの剣で触れる。

 ぼちゃんっと水に戻る。


 全ての化け物を水に返した後、水位が変わっていることに気づく。



「どこかに流れてるな。

 この水位が一定の高さを保てるように生贄を用意していた可能性が高い。

 どこに流れているのか調べたいがこの水位だと潜るわけにもいかないし潜りたくもない。

 おそらくはミレッド帝国にでもつながってるんだろう」



 リーシアはため息をついた。


「絶体絶命だったわ。

 アイリスには感謝しないと。


 受け取った経緯はあれだけどおかげで助かったわけだし。

 もしアイリスの剣がなかったら生贄になってみるしか方法がなかったわ。

 もしくは諦めて逃げるか」


「ああ。今度お礼を言いつつ話も聞きたいな」



「そうね。どう考えても普通の王位継承の剣じゃないわよ。

 イナちゃんは大丈夫?」


「はい。

 まだ、気持ち悪いですがもう吐いちゃったりはしません」



「そっ。正常な反応だから大丈夫よ。

 匂いも匂いだしね。

 イナちゃんは敏感なんだから仕方ないわ」


「はい……

 あっ、聞きたいことがあったんです」


「なに?」



「破龍さんを倒しに行く前、ご主人さまがリーシアさんを探しに行ったことがありました」


「あったわね」


「その日、ご主人さまがどこかへ出かけて、リーシアさんもどこか行ってしまいました。

 帰ってきた時にご主人さまからリーシアさんの匂いが、リーシアさんからご主人さまの匂いが強く感じられました。

 会ってたんですか? それと何をしてたんでしょうか?」



「いっっっ!


 あ、あぁーえぇーっとぉ……うーん、なんだろなぁー忘れちゃったわぁ。

 エノア覚えてるー?」



「お、俺か?!

 そうだな……どう、だったかな」



「じー……」とイナは目を細める。



「うっ……忘れちゃったなぁ」


「教えてくれないんですね。

 嘘ついてますっ!」



「頼むイナ……これ以上、聞かないでくれ」


「なんでですかっ!

 気になります!」



「大人になれば……分かるんじゃないかな」


「イナは子供ですけどそんなに子供じゃないですっ!

 後どれくらい大人になればいいですかっ」



「うーん、後、もう少し、かなー」


「むーっ、分かりました我慢しますっ」



 ぷいっと顔を背け、階段を上っていく。

 助かったと胸を撫で下ろしながらリーシアと一緒にイナの後ろを付いていく。

 階段を上がった先でリィファと鉢合わせる。



「あっご無事だったんですね! 今から降りようと思っていたのですが……

 どうでしたか?」



「ああ。アイリスのおかげで倒せたよ」


「アイリス様? なぜ……?」



「その話は後にしよう。

 疲れた……」


「そうですわね。

 まだちゃんと寝ていないですもの」



 イナはリィファに聞いた。


「あのっ、男女がからだをっっっっ」


 俺は急いでイナの口を塞ぐ。



「あ、いやなんでも無いんだリィファ!

 イナ、もう少し、もう少しだけ我慢するんだ。

 自然と誰にも聞かなくても分かるようになるからっ!」



 イナはこくっと頷いた。

 危なかった……


 リィファは流石に分からなかったようでキョトンとしている。



「戻りましょうエノア様」


「ああ、戻ろう。そして寝よう……」



 俺は片足裸足のままサリーの所に戻る。

 住民たちが心配そうな目で俺たちを見ていた。



「今日連絡を入れて明後日には出るぞ。

 ああ、それとな化け物は倒せた」


 住民達は顔を見合わせ、武器を落とし、手放しで盛り上がっていた。

 負けてからずっと怯えていた驚異が消えたんだ。


 分からなくはない。



「喜ぶのはいいが俺の国に来たとしてお前達が満足出来るような国になるかは分からない。

 それに一度踏み入れたら当分領地外には出れないと思え」


 覚悟は出来ているといった表情をしている。

 少年の両親が頭を下げに来る。少年の父親は言った。



「ありがとうございます。

 もう、ダメかと思っておりました。

 息子が戻ることはないと……ご無礼をしてしまい申し訳ありませんでしたっ!!」


「気にしなくていい。

 ついでだついで。今度はちゃんと守れよ」



「はい……!」



 それからサリーと話をする。



「サリー。もうこの国には戻れないが、いいんだな?」


「うん。おにーちゃんと一緒に行く」



「そうか。大変だぞ」「いいよ」


 俺は頭を撫でようとするが自分の手があの水で汚れていることを思い出した。



「俺たちは風呂に入って寝るよ。今度は襲うなよ?」


「うっ、もうしないっ!!」

「あはは」



 俺たちはサリーの両親が経営している宿に入っていく。

 玄関をくぐった時、サリーの父親に呼び止められる。



「その……なんと言ったらいいか……

 お礼と、謝ることしか……出来ませんが」


「謝罪は受け取る。お礼はサリーに言うんだな。

 俺はサリーのお願いを聞いただけだよ。

 いい子だよ。サリーは」


「っ……

 私共が想像していた魔王とは、随分かけ離れていますね」



「案外そういうもんなのかも知れないぞ」


 俺はそう言い残し、部屋に戻る。



「イナ、先に浴びてきていいぞ」


「いえ、イナは大丈夫です。

 ご主人さまから先に入ってください」



「いいのか? でも」


「もうなれましたから大丈夫ですっ!」



「……なら入ってくるよ。すぐ済ませるから。

 リィファとリーシアはどうする?」


「私達もいいわ。先入ってきて」



「そうか」



 俺は剣を置き、浴室に入る。

 魔法によって温かい水がシャワーヘッドから出てくる。

 この技術を伝えた先人の異世界者に感謝を。


 ガチャッ

 なぜか扉が開く。


 振り向くと……



「イナァァァ?!」


 なんだこの久しぶりな感じは。

 ぴとっ


「おいおいおいちょっと待ってくれイナっ! どういうことだっ?!」



 イナは衣服を身に着けていなかった。その状態で密着されて俺は焦り散らかした。


「こうすれば同じような匂いがつくはずですっ!

 うっ……なんか、イナ……恥ずかしくなってきましたっっ!」


 羞恥心っ! イナが羞恥心を覚えている。


 それは心を乱す……ああいや、落ち着け。

 相手はイナ……相手はイナ……


 スリ……


「リビアッッ!」


 ”了解 謎の光ならぬ謎の影、展開します”


 リビアに影を展開してもらう。てかなぜ知ってる謎の光。あれは日本の漫画とかで出てくるやつだぞ。聞いてる場合じゃないな。


 影は俺とイナを引き剥がし、お互い影で包まれる。


「わっっ!」

挿絵(By みてみん)


 イナは驚いた声を出しつつもどこか不満げで……



「むー……ご主人さまなんっ」


 ガタンッッ

 リーシアが慌てて入ってくる。


「ぜー、はぁーぜー……」


 状況を一瞬にして理解し、イナを抱きかかえ浴室からイナを連れ出す。

 さすがだ……


 俺はその後、いつイナが入ってくるかと怯えながら体を洗った。

 ちなみにその間イナはリーシアに叱られていたらしい。



「許可なく入ってごめんなさい……」

 と、謝られその件は落ち着いた。

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喜びます。

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