後悔と転生
「エノア? なに? また転生する前の……日本ってとこのこと思い出してたの?」
「まぁ、ね」
「ほらっ! 暗い顔しないっ! 私の隣では笑っていて。ね?」
そう出来ればどんなにいいか。
俺は……もう誰かを助けることなんか、出来ない。
勇者にだなんて、俺は……
――なりたくない。
"転生開始 ゆうsssmasss者適正"
"スキル秘密主義 習得"
"固有スキル追加 全適性 獲得"
"パッシブスキル 支配者 獲得"
無機質な声が真っ暗闇の中響いていた。
ああ、死んだのか。
もし、もしまた生まれ変わるのなら今度は俺が誰も”傷つけないように”
"スキkkkルエラー syyyt rivv? 習得"
俺はただ助けたかった。後悔したくなかった。それが自己満足なんだって気づいたのは今電車に轢かれるこの瞬間だった。
あれは死ぬ前の放課後での出来事。俺は同じクラスの陸に呼び出されていた。
「頼む! こんなこと言えたギリじゃないけどどうしても将太のグループに居たいんだ!」
陸はそう話すと両手を顔の前でぱんっ! と合わせた。頭を下げ力強く手を合わせている。
「ああ! まかせろっ! 陸の力になる。 大抵会って話せばきっかけは作れるさ。きっかけを作れば仲直りは難しくないって!」
俺は胸を張って陸にそう言っていた。
将太とはこのクラスのリーダー、いや支配者である。体格の良さと横暴な性格。それでいて大人の前では自分を隠す。ずる賢いタイプのやつだ。
翔太はいじめを楽しむタイプだった。ただ、俺はそのいじめを見過ごすことはできなかった。
嫌だった。目の前でいじめられてるやつをほっとくのは。そんな立場にいたくなかった。昔から人を助けようと努力をしていた。
そうすればきっと信用も絆も生まれる。俺が困った時助けてくれると思った。だから最低限自分を守れるように小さい頃から武術を習って鍛えたりした。
「計画としてはまず……」
だから俺は助けを求めてきた陸に自分の考えを話し始めた。
二人が同じ駅から通っていることを知っていた俺は、将太を早めの時間に呼び出した後に陸が時間と場所を合わせばったり会ってしまうという簡単な計画。
計画と呼べたものではないけどこれで二人は会話をするきっかけが生まれる。
俺は近くで身を潜め陸が暴力を振るわれるようなら助けに入ることを約束した。
いくら朝早くだからと言っても駅ではちらほらと人もいるから手も出しづらい。
この時点で気づくべきだった。翔太が俺の呼び出しに素直に応じたことを。
まずはお互い会わせる。その状況から次の策を練る。
場合によっては諦めさせる。それも一つの選択肢だと考えていた。
そして死ぬ当日、俺は予定の時間より早めに駅のホームについていた。
「朝早くに駅に着いたはいいものの陸も将太もいないな」
まだ時間がかかっているんだろうと考えていた。
いつ来てもいいようにとホームの端っこに立つ。
ここは上から降りてくる階段の真横。影になっている場所だ。
死角だから見つかりづらいだろう。見つけるには階段を降りてから振り向かなければならない。
顔を背けていればバレないはず。たぶん。そんな呑気なことを考えていた。
時間になったがまだ誰も来ない。おかしいなとは思いつつも二人を待った。
パァァァァ。電車が来る音が聞こえる。
「時間の電車来ちゃったな。まぁ後何本か見過ごしても余裕で間に合うしな。
あいつら遅いなー……っ」
ドンッ
背中に何者かの力が加わる。
後ろを振り向こうとした時、俺は体勢を崩していた。自分で崩れたのではない。
"崩されたのだ"
体が斜めになって片足も離れ、もう落ちることに抗う事ができない中、振り向こうとしていたせいか自分を押した人物を見た。
「ごめん……」
目の前の人物はそうつぶやいた。
そういえばここは監視カメラの死角でもあったな。待つ場所ここで良かった。
俺は今、喋れているのかいないのか分からない。その言葉が届くのか分からない。
だが彼にこう言った。
「謝らなくていい。仕方なかったんだ。全部俺の自己満足のせいなんだから。
本当に謝らなきゃならないのは、」
パァァァァァ
そこで記憶が途切れた。
そして気がつくと俺は暗い空間の中にいた。
真っ暗闇だというのに俺は目を閉じた。
開けていても閉じていても見えるものは変わらないのに。
その後俺は自分の人生を見つめていた。
「予想外だったな……」
そう呟いた。
俺を押した彼は別クラスの同級生だった。
そして将太が率いるグループのいじめの対象だった。
そんな彼を俺は助けた――つもりだった。
違かったんだ。いじめは終わったんじゃなく終わったように見せかけていた。目を光らせていたつもりだったのに……
「続いていた。気づけなかった。
ずっと彼は苦しんでたんだ。もしかしたらもっとひどくなっていたのかも知れない。自分が助けたいという自己満足で俺は……
もし、もしまた生まれ変わるのなら……
今度は俺が誰も傷つけないように、そんな人生を」
無機質な声が淡々となにかを喋る。
俺は少しずつ意識を失っていった。
どうすればよかったんだろう。
そんな後悔と共に。
”スキル zyyynkg かくt”
ピー
「オギャア! オギャアア!」
赤ん坊の泣き声が響く。
「成功だ! 成功したぞ! この子は勇者候補となるべくして生まれた子だ!」
「これでこの国から勇者が誕生すればまたこの国は頂点を……」
「ふふ、気が早いぞ。勇者とは限らない。あくまで勇者候補だ。しかしこの子は転生者だ。記憶を持つかは分からないが異世界の勇者候補は強すぎると聞くからな。
現に勇者となったもののほとんどは異世界者だ」
「ええ。勇者候補でなくとも転生者、転移者の力は偉大。勇者候補に匹敵するだけの力がありますからな」
「我々はやったのだ。ついに人為的に! 神の御業を達成したのだ!!」
「そうですな! 今宵は良い酒が飲めますな! さてこの事を国王にお伝えせねば」
高笑いをする二人の魔法使いの後ろに一人の女性が立っていた。
「な、なんだお前は!!」
唐突に現れた髪の長い女性に魔法使いの一人は声を荒げた。
「あら、そんなに驚くことかしら。それより何を勘違いしてるのかしら。
あなた達が呼んだ? ふふっ、面白いこと言うのね。違うわよ。
私がここを選んだのよ。必要な魔素量、適正な母体。そしてこの土地。他にも候補はあったけれど……
なによりこの国ならおもしろいことになりそうじゃない。
私の計画がうまくいきそうだもの。
ああ。そうそう。あなた達の儀式魔法だけど
"掠ってもいないわよ。だぁいしっぱぁい"
うふふ、うふふふ。ばぁいばーい」
そういうとその女性は二人の前から姿を消した。
「な、なんだったんだあいつは……失敗? 失敗だと?! この反応は、儀式の魔法陣は確かに反応していたというのに!」
「彼女が何者なのかは分かりませんが信用することはありません! 我々の儀式は成功したのです」
「そうか、そうだな。では国王に報告に行くとしよう」
「侍女たちよ! 新たな子が誕生した! 今すぐ対応しろ。丁重に扱え! この国の希望ともなる子だ」
二人の魔法使いはその場を後にし、国王の元へと向かった。
王は大変喜び二人に褒美をとらせた。そのうえで……
「ハーネスト卿。よくやった。私は非常に満足している。
そこで提案がある。どうだ近々私にも子供が生まれる。
その子供を異世界からの転生者とすることはできるか」
「国王様のご要望とあらば」
何者にも見えない空間から先程の女性がその会話を覗いていた。
「ばかねぇ……どうしようかしら。本来なら彼を突き飛ばした男の子か首謀者二人を殺して転生させたいけど……当の本人が恨みを持ってないし……
そんなことをするのは無粋よねー……
そうね王の子供は勇者候補にはしてあげましょう。擬似的にだけど。異世界の人間かどうかは彼らは分からないわけだし、バカっぷりを堪能することとしましょう。
それに……
まぁいいわ。ああっ楽しみだわ。あの子の成長が。
どうか苦しんで」
そして時は進み、転生した彼が十二歳になった頃。
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