幼馴染スキーが書く幼馴染がざまぁされない幼馴染ざまぁ
「遠山春香さんっ、好きです! つきあって下さいっ!」
夕暮れの学校の屋上で俺は学校一の美人と言われるクラスメイトを呼び出し告白した。
ずっと見ていただけの彼女に俺はなけなしの勇気を出してみた。
心臓がバクバクして変な汗が出る。
「はっ? 好き? あんたが? わたしを?」
「…………」
「ふっ、ふふふっ、ふはははははっ!」
突然遠山さんが笑い出した。
しかも、いつも教室で見る彼女と雰囲気がまったく違う。
「えーっと、あんた名前なんだっけ? そうそう工藤、工藤。まあそれはいいや。あんた鏡見たことある? あんたみたいな陰キャがわたしと釣り合うと思ってるの? えーっと、ラノベっていうの? 陰キャオタクが学校一の美少女となぜか付き合えるとかいうキモイ小説読み過ぎなんじゃないの?」
俺は唖然とした。
口調も雰囲気も俺が知っている彼女じゃなかった。
「マジ時間の無駄。もう帰るから二度とわたしに近づくなよ、クソ雑魚っ!」
「おーい、はるかぁ~、終わったか~」
そのとき屋上の入口から一人の男が入ってきた。
「あっ、涼くん♡ ごっめ~ん、直ぐいくねぇ~」
ちらっと見えたその顔に俺も覚えがある。
学校一のイケメンと言われる角川涼太。
たしか親がどっかの社長だとかいうボンボンである。
「早く遊びにいこーぜ。ってかお前もいちいちあんな陰キャを相手にすんなよ」
「ごっめーん、でもさ、あんな頭悪い奴、はっきり言ってやんなきゃ勘違いするじゃない?」
「それもそうか。クソ雑魚バカ陰キャにはしっかり教えてやった方がいいかもな」
「でしょう?」
「ああ、さすが春香はいい女だな。じゃあ今日はたっぷりかわいがってやるよ」
「キャー、わたし食べられちゃうの?」
二人は笑いながら屋上から階段を降りていく。
「……なんだよ」
教室の中では、他人の前ではおしとやかに上品だった彼女が俺の前では人が変わったような態度だった。
「くっそぉ~」
俺は屋上の床に膝と手をついて床を叩いた。
悔しくて悔しくて悔しくて。
まともな返事すらもらえないという屈辱に。
でも陰キャの俺は何も言い返せなくて。
「くっそぉ~」
――ごんごんごん
床を何度も叩いて手の皮が剥けて血が滲む。
悔しくて涙が溢れて床にぽたりぽたりと滴が落ちる。
涙で目が滲んで何も見えない。
「圭くんっ!」
あいつらと入れ替わりに屋上にやって来たのは俺の幼馴染の山下祥子。
見えなくてもわかる。
声で、その雰囲気で彼女だとわかるから。
「圭くん、どうしたの? !? 手っ、その手どうしたのっ!」
俺は祥子にさっきのいきさつを話した。
「……ゆるさない」
「えっ?」
「ゆるさないゆるさないゆるさないっ! 私のっ、私の圭くんを傷つけるなんてっ!」
「祥子?」
「ごめんね圭くん。私が間違ってた。圭くんがあんまり目立つのは嫌いだと思ったし、私も圭くんに干渉せずに見守ろうと思ってたの。でもそれは間違いだとわかった。圭くん、私はあなたが好きでした。付き合って下さい」
「えっ? でも……」
あんなひどい振られ方をしたとはいえ、さっきまで別の女を好きだった俺が祥子の告白を受け入れていいのだろうか。
「圭くんの言いたいことはわかってるよ。だって幼馴染だもん。圭くんはやっぱり優しいね。そんな圭くんがやっぱり好き。じゃあ、仮ってことで付き合おうよ。ね? いいでしょ?」
「仮か、それなら」
「じゃあ、そうと決まれば一緒に行こう!」
「行く? どこへ?」
「ふふっ、まあまあいいからいいから」
祥子に連れられて俺は超高級ヘアーサロンへと連れていかれた。
たしかどこかの雑誌で特集されていた日本一予約が取りづらいと言われていた店だ。
「なあ、祥子。予約あるのか?」
「予約? そんなのないよ」
おいおいと俺は心の中で突っ込みを入れる。
「いらっしゃいませ、お客様。ご予約は?」
「店長の前田さんに山下が来たとお伝え下さい」
「? 少々お待ち下さい」
その直後、茶髪のイケメンの若い男性が凄い早さで走ってきた。
「山下様、お待たせしましたっ! さあ、どうぞこちらへ!」
「ありがとう。圭くん、いこっ」
「あっ、ああ」
あれよあれよという間に奥へと通された。
「店長さん。圭くんを最高にかっこ良くしてください。あと私ももう構いませんから」
「ホントですか? わかりました、腕によりをかけて最高の仕上がりにしてみせます」
それから1時間。
鏡の前の椅子に座る俺の目の前に凄いイケメンがいた。
「えっ、これが俺?」
「そうだよ。圭くん、自分じゃ気付いてなかったかもしれないけどすごくいい素材をもってるんだもん。それに気付かない方がどうかしてるよ」
「あっ、ありが……」
そう言いかけて祥子の顔を見て言葉が出なかった。
目の前には凄い美少女がいた。
やぼったかった黒髪を絶妙の塩梅で梳きあげ元々艶のあった黒髪はこれでもかと輝いて見える。誰がどう見て清楚系超絶お嬢様の姿だった。
それに加えて驚いたのが祥子のその顔だった。
いつも長い髪とやぼったい眼鏡で俺と同じ陰キャ風に見えていたのに今はコンタクトにしているのか眼鏡を外している。
うっすらと化粧もされていてどこの女優さんかと思ってしまった。
そういえば祥子の顔をはっきりと見るのは随分久しぶりのような気がする。
祥子はいつも俯いていて目立たないようにしていたし、高校に入ってからは同じクラスにいながらお互いにあまり一緒にいることがなかった。
「いや~、いつも山下様から目立たないようにダサい格好でって言われててホントもやもやしてましたよ。本懐を遂げられてホント満足です」
店長さんが清々しいまでの笑顔でそう言った。
「ありがとう店長さん。じゃあ、行こっ」
「ちょっ、ちょっとお金は?」
「私のおごり。でも圭くんのお小遣いじゃ足りないと思うよ」
「え゛っ」
祥子はクスクスと笑いながら俺の手を引いてヘアーサロンから出た。
――次の日
朝、祥子が俺の自宅にやってくると俺の身だしなみをチェックし始めた。
それと学校に行った後の振る舞いについてレクチャーを受ける。
堂々と『俺様ですが何か?』って風に振る舞えと言われた。
「うん、これでよしっ! じゃあ、行こっか?」
祥子の最終チェックに通ってようやく自宅を出ると黒塗りのリムジンが止まっていた。
手袋をはめた運転士さんが後部座席のドアを開けてくれた。
「ほら、乗って乗って」
「あっ、ああ……」
車で15分。
学校の正門前にリムジンが横付けされると俺は祥子と一緒に車を降りた。
祥子が俺の腕をとって腕を組む形になった。
うちの高校は公立高校。
リムジンで登校する奴なんていわるけないので当然滅茶苦茶注目を浴びる。
「おっ、おい、あれ誰だ?」
「ああ、男も女も凄いレベルじゃないか? これドラマか何かの撮影か?」
「でもあんな芸能人見たことないけど」
「そりゃ、新しく入ったモデルか俳優じゃないか? まだテレビに出てない人とか多分いっぱいいるだろうし」
俺と祥子を遠巻きに眺める人垣ができる。
そんな中を俺は祥子に引っ張られるように悠々と歩いて教室へと向かう。
「おっ、おはよう~」
「ああ、おは……」
陰キャの癖が抜けずいつも通り小声で挨拶して教室に入ってしまった。
祥子から肘で脇腹を突かれる。
地味に痛い。
声で俺だと思っただろうクラスの連中が俺の姿を見ると驚いたように二度見する。
「お前、ひょっとして工藤か?」
いまさらだが俺の名前は工藤圭。
クラスの端にいるどこにでもいる陰キャだった男だ。
「見ればわかるだろ? 工藤圭だよ」
祥子に度突かれないように某王子様風にそう言ってやった。
「うそっ、マジかよっ」
「えっ、でも腕を組んでる彼女は?」
「山下祥子だけど? クラスメイトなのに見てわからないの?」
「え゛っ」
「「「「「えええええ~~~~~~~」」」」」
あっという間に俺と祥子はクラスメイトたちに囲まれた。
ホントに本人なのかとか、お前ら付き合ってんのかよとか、どうして俺は山下さんの良さに気付かなかったのかとか興奮の坩堝となっている。
「おはっ、あれ? みんなどーしたの~」
遠山春香が教室に入ってきた。
いつもは直ぐにクラスメイトに囲まれる人気者の彼女は今日はスル―されて疑問を浮かべている。
「ねぇねぇ、春香見てよ、あれ、工藤だってよ」
「工藤? !?」
遠山が目を見開く。
「うそっ、あれがあの陰キャ?」
茫然として立ちすくんでいる。
しかし、直ぐに気を取り直したのか俺の方へと近づいてきた。
「工藤くん、おはよー。うわっ、凄いイケメンじゃん。ねぇねぇ、今日どこか遊びにいかない」
「はっ?」
おいおい、あんなにこっぴどく振っておいて昨日の今日でそんなこと言うか?
あまりの手の平返しにさすがの俺も唖然とする。
っていうかこいつ頭大丈夫か?
既に千年の恋も冷めてはいるがそれだけでは足りないレベルで驚いた。
「ちょっと貴女、私の彼に手を出さないでくれるかしら?」
「はっ、あなた……誰?」
「ちょっと、貴女、自分のクラスメイトの顔もわからないの? 目ん玉ちゃんとついてるの?」
クスクスと祥子がバカにしたように笑う。
「春香、あれ山下さん」
「えっ」
驚いたように祥子を上から下まで眺める遠山。
「貴女の様なクソ雑魚が圭くんに釣り合うわけないでしょ? 鏡見たことあるの?」
「なっ!?」
顔を真っ赤にした遠山。
今まで言われたこともないセリフを浴びて明らかに動揺している。
「貴女なんかそこらの猿とでも付き合っていればいいわ。昨日すれ違ったとき一緒にいた男がいるじゃない。それとも何? 貴女ヤリ捨てられちゃったの? うわっ、かわいそ~」
「おまっ、ふざけん……」
怒りで我を忘れたのか遠山はとっさに祥子に殴りかかる。
――ぱーんっ
祥子の平手が遠山の頬を張る方が早かった。
突然のことに自分で頬に手を当てて唖然とする遠山。
――ぱーん、ぱーん
続けて2発。
祥子は遠山に平手打ちした。
遠山の頬は両方とも真っ赤になっている。
「貴女が先に手をだそうとしたのだから正当防衛よ。ねぇ、みんなも見てたでしょう?」
祥子にそう言われた他のクラスメイトたちは口々に「確かにそうだよな」「山下さんは口では色々言ったけど手を出そうとしたのは遠山さんだし」「っていうか遠山調子に乗り過ぎだし」「先に工藤くんに色目つかったのも春香だしね」と結局遠山の自業自得という空気になった。
このクラスの最上位カーストが遠山春香から山下祥子になった瞬間だった。
――あれから2か月
「はい、圭くん、あーん」
今は昼休み。
俺は祥子と一緒に屋上で祥子が作った弁当を食べている。
「おいしい?」
「ああ、美味いよ」
「ふふっ、良かった~。じゃあ今度はこっちね」
ゆっくり時間を掛けて二人で弁当を食べた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
美味しい弁当を食べて食後にお茶を飲んで一服。
あれからいろいろなことがあった。
「そういえば角川って高校辞めたらしいな」
学校一のイケメンで社長の息子だった角川はある日突然学校に来なくなった。
噂では高校を辞めたらしい。
「それはしょうがないよ。だってあの人のお父さんの会社、潰れちゃったんだもん」
「そうなのか?」
「うん、だって従業員1000人もいない会社だよ。いつ潰れたっておかしくないよ」
「そんなものなのか?」
「でも安心して。おじい様にお願いして従業員の人はみんな西園寺グループが引き取ったから。従業員の人たちは誰も路頭に迷ってないよ」
「西園寺グループ?」
高校生の俺でも知っている日本屈指の旧財閥の流れをくんだ一大企業グループだ。
「おかあさんのお父さん、私のおじいちゃんが総帥なの。でも小さい会社って大変だよね。ちょっと取引を打ち切ったら直ぐに資金ショートして潰れちゃうんだから。ふふっ、おかしいよね」
「あっ、ああ、そうだな……」
クスクスと黒い笑みを浮かべる祥子にちょっと背筋がぞくっとした。
「それから遠山さんも学校辞めちゃったね」
「そうだな」
噂によると遠山は子供を妊娠したとかで大騒ぎになって結局学校に来れなくなったらしい。
その相手が誰だかわからないがもしもその相手が角川なら責任も何もどうにもならないだろう。
「あー、今日もいい天気だね」
「そうだな」
俺は絶対に祥子とは敵対しないようにしよう。
まあ、そうなることは絶対にないと断言できるが。
今は最愛の恋人になった幼馴染と一緒に白い雲が浮かぶ青空を眺めた。
幼馴染を愛するすべての皆さん!
いつもは幼馴染ざまぁを楽しんでいるけど最後まで読んで下さった皆さん!
最後まで読んでいただきありがとうございます。
↓の ☆を★に変えて是非評価をお願いします。今後の執筆の励みになります。
滅茶苦茶良かったという方はブックマークも是非お願いします(実は2Pつくのです! これは大きい!)
是非、ざまぁは『幼馴染ざまぁ』だけじゃないぞということを現実恋愛ジャンルに知らしめることにご協力下さい。
【言い訳】
幼馴染がヤンデレ風味になってしまった……
私も幼馴染ざまぁがすべていけないと言っているわけではないのです!
ただ、あまりにもそういう作品が多すぎてバランスが悪い……
そんな現状のランキングを憂いた一幼馴染スキーが書いた本作、楽しんでいただけましたでしょうか?
他にもいろいろ書いていますので作者マイページから覗いてみて下さい。
【ちょっと語り】
思うに、幼馴染ざまぁ作品を楽しまれている方は別に幼馴染という属性が嫌いなわけではないと思うのです(そうだよな! な!)。
たまたまざまぁをされる対象(悪役)が幼馴染だったというに過ぎません(書く側としては使いやすいというのがあるのだと思います)。
つまり、最近の幼馴染ざまぁが流行っているのは読者様が悪いのではなく作品を提供する我々作者側が思考停止して幼馴染ざまぁ以外のざまぁ新機軸を提供できていないだけではないでしょうか。
幼馴染ざまぁに代わる、例えば『陽キャざまぁ』とか『カースト上位ざまぁ』のような新たな概念・新機軸を作っていくことでざまぁを楽しみつつ、幼馴染を守っていくことが今後の目標です。