座敷童の間
懐かしいモノ、コト、懐かしさはセピア色を帯びて、
我々に過去の存在を訴えかけてくる。
時折、ブラッキーに、トーキー映画の白黒映画のように、
不気味なことばかりな内容で、
僕らを魅了するのだ。
宵祭り、盆踊り。今年の盆踊りには、人でないモノが混ざっている。
狐面の男の子。ねえこっちと、手招きしている。
あれについていってはいけない。
可愛い尻尾がちょろりと出ているが、あれは本物にしか見えないから。
また、狐面の男の子には影法師がついていない。”影なし”だ。
温泉にやってきた。随分古い佇まいだ。なんでも、座敷童の間があるというので、
そこに泊まることにした。お風呂も、お湯も、飯も、申し分ない出来だ。
ただ、いつも視界の端に子供の女の子が映りこむのが気になる。
遊んで欲しいのだろうか、ここの旅館の子供なのだろうか。
近寄ると、「取って食うぞ」と怖い目で叱られた。
嗚呼、彼女が座敷童か。
影法師、彼岸花、お地蔵様。秋は暮れなずむ。
列車が走ってきて、その前にたたずむ涙ながらの美しい女性に、つい声をかけてしまった。
生前、楽しいことがなにもなかった。でも、死んでからも、ここに縛り付けられて、苦しんでいる、と。
カンカンカン、と警笛の音がする。
そう云うと、彼女はふ…と消えてしまった。
僕は、何も言わずに買ってきた彼岸花を、踏切の近くのお地蔵様にお供えした。
夢うつつ。お地蔵様がけたけた嗤っている。
閻魔が、そこの曲がり角で人の舌を抜いている。
宿場町には、不思議な事が一杯。
辻占の老婆が、お前は死ぬ。明日死ぬ!
と、叫んで、ぽっくり逝ってしまった。
蝉時雨、夕凪、気が付かない間に、右腕に、緑色の錆びが。
神社に詣でたら、消えました。まったく、不思議です。
懐古の記録。あの背中には、追いつけませんでした。
雨の中たたずむ少女、彼女になにがあったのか。
誰にもわかりません。
だた、渡しそこねたような手紙だけを持っているのが、
答えです。