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機竜戦記  作者: 雪野ツバメ
1/8

1.星詠みの儀

惑星エルゼ


 豊かな自然を持つこの星は長らく平穏な時代が続いた。

 しかし、とある大陸から古代文明の遺産人型機械“機人”が発掘され事態は一変した。

 機人はエルゼ各地で発見され、各国は機人の研究に躍起になり、自国で発掘した機人を元にした機人を開発していった。

 機人は用途に合わせ様ざな形を取るようになり、人々の生活を変えていった。

 労働力、文化、そして軍事力……。

 いつしか人々は機人を畏怖の意味を込めて“機竜”と呼び始めた。

 各国は独自の形態で機竜を開発し、軍事的侵攻が始まり、戦争が絶え間なく起こった。

 機竜による戦争によりいくつもの国が無くなり、併合し生まれたが争いは止まらなかった。

 エルゼの各地で再生不可能なほど環境が壊れた地が増え始め、各国は戦争の手を止めることとなる。

 そして、世界不戦協定が結ばれ、一時の平和が訪れた。




 舞台は不戦協定締結から10年余り経った、アルトメア大陸。

 不戦協定が結ばれてからも非公式の小競り合いが国境付近では起こっていた。



 星歴998年

 都会から離れた山奥の里から物語は始まる。






 赤く点滅するライトと鳴り止まない警告音で異常を伝えるには十分だった。

 度重なる機体の揺れも恐怖を増長させるのに一役買っていた。

 周囲の者達からも緊張と焦りが伺える。

 ビー!ビー!ビー!

「ロックオンされました!

 直撃します!

 総員衝撃に備えてください!」

 叫びにも似た報告が聞こえた時には今まで以上の振動が襲った。

「右翼被弾!

 高度維持できません墜落します!」

 操縦席からの再度の叫びと共に浮遊感が生まれる。

「あなただけでも……」

 横に座る者が庇うように覆いかぶさってきた。

「……!」

 声を発する間もなく全身を打つ衝撃に包まれた。





「ふぁ~……」

 早朝の柔らかな日差しを浴びても眠気が抜けず、欠伸をしながら里の中を歩く。

 日課の水汲みと朝食を終え、学校に向かう所である。

「スバルー。

 おはよう~」

 後ろから声を掛けられる。

「……おう。

 リリー、おはよう」

 振り返り、相手を確認してから挨拶を返す。

 年は1つ下だが幼馴染のリリーだ。

「あれ?

 なんか珍しく眠そうだね?」

 栗色の長い髪を一つに結っているリリーが体を折って下から顔を覗き込んでくる。

 いつもは規則正しい生活リズムによって夜は早く寝て朝は陽が昇る頃には起きる。

 この里ではだいたいの者がそうした生活を送っている。

「……ああ、寝るのが少し遅くなっちまって」

 リリーがスバルの横に並び、連れ立って歩く。

「そんな遅くに何やってたの?」

 リリーは不思議そうな顔をして尋ねてくる。

「あ、いや、えっと……。

 宿題を忘れてて……」

 スバルはリリーから顔を逸らし、質問に答えた。

「え!

 今日何か宿題あった!?

 昨日言ってよ!

 あたしやってないよ!」

 リリーがスバルの服の裾を握って抗議する。

「あ、いや、たぶんリリーは大丈夫じゃないかな……?

 えと、そう!

 オレだけだされた宿題だったから」

 スバルは慌てて、リリーに説明する。

「あ、そうなんだ。

 よかった~。

 ふふっ」

 心配事がなくなり、ほっとした顔から少し笑ってスバルの顔を見上げてくる。

「なに?」

「きっと授業中に先生の話も聞かずに外ばっかり見てるからだね」

「ちゃんと聞いてるさ」

「聞いてるのは機竜の話が出てきたときだけじゃない~」

「うっ……」

「昔は外から変な声が聞こえる~って嘘までついて先生の話聞いてなかったよね」

「ふんっ。

 そんな昔のことはいいだろ」

「あー怒んないでよ~。

 ごめんってば」

「怒ってないよ」

「ほんと?」

「うん」

「そっか。

 ありがとう」

 暫く横に並んで静かに歩く。



「そういえば、明後日だね?」

 スバルはリリーの言葉にドキッとしたが、顔に出ないように努めた。

「あ、うん。そうだね。

 リリーは準備できたの?」

「うん。お母さんが早くから準備してくれてたから」

 この里では十六になる子供は「星詠みの儀」という、所謂成人の儀式を受ける。

 里の広場で祭祀が儀式に参加する子供の名前を読み上げ、子供の中で代表となった子が巫女役として宣誓と簡単な舞を踊る。

 星に健やかに成長できるように願うという謂れの儀式だ。

「リリーは巫女役だから衣装の準備も大変だったろうね」

「そうだね~。

 でも、お母さんはあたしが巫女役に決まった日からウキウキして衣装作ってくれたよ。

 みっともない所が無いように体のサイズを何度も計ってきたんだよ?」

「そっか。

 大変だったね」

 リリーは今年十六になるが、スタイルがよかった。

 スバルは自然と服を押し上げる胸に目が行ってしまった。

「どこ見てるの?」

 リリーはスバルの視線に気づき、サッと腕で胸を隠し、ジトーっとした目でスバルを見上げてくる。

「べ、別にどこも!」

(今のは誘導尋問だろう……)

 スバルはサッと少し赤くなった顔ごと向きを変えて答える。

 リリーの母親がリリーの衣装をウキウキしながら作っていたのも知っている。

 実はスバルはリリーの母親から内緒で衣装の一部である冠の作成を依頼されて手伝っていた。

 里の中でも手先が器用なスバルに母親が頼んできたので、リリーの為にと快く引き受けていた。

 もちろん本人はそのことを知らされていない。

「スバルはさ……」

「うん?」

 顔を背けたスバルにいつもの顔に戻ったリリーが、聞きにくそうに尋ねる。

「スバルは本当にいいの?

 星詠みの儀に出なくて」

「……。

 オレはもう十七になるから……」

「それだって本当だったら去年参加できたのに、スバル参加しなかったじゃない!」

 リリーが声を少し大きくしてスバルに言う。

「お父さんだってスバルが良ければ今年参加してもいいって言ってくれてたのに!」

 リリーの父親はまだ若いが里長を担っており、星詠みの儀の祭祀を務める。

「年々、里の子供が減って星詠みの儀がない年もあるから、ちょっとでもやりたいんだろ?」

 スバルが言うように、里に十六歳になる子供がいない場合は星詠みの儀は行われない。

「そんなことないよ!

 お父さん最後までスバルが参加しないか気にしてたし、今年はって何度も聞いてくれたでしょ?

 あたしも去年スバルのハレ姿見れると思ってたのに参加しないし、もしかしたら今年一緒に参加できるかもって……」

 リリーは顔を地面に向けて残念そうに言う。

「……オレはこの里の子供じゃないから」

 リリーから視線を戻して、スバルは静かに言った。

 スバルはこの里の出身ではない。

 先生から聞いた話によると七歳ぐらいの時に先生に連れられてこの里に来たらしい。

 らしいというのも、その前後から前の記憶をスバルは覚えていなかった。

 両親の顔はもちろんどこにいるのか、今どうなっているのかすら知らない。

 先生からは旅の途中で女性から熱にうなされるスバルを預かり近くの里のここに寄って、そのまま今にいたるとしか聞いていなかった。

 スバルの一言を聞いたリリーは一気にスバルに見上げて、

「そう言ってるのスバルだけじゃない!

 みんなスバルや先生をもう家族みたいに思ってるよ!

 あ、あたしも……」

 リリーの最後の一言は小さくて、顔が熱くなり、また地面を向いてしまった為にスバルは聞き取ることができなかった。

「みんなにはほんと感謝してるよ。

 でも、参加しなくていいんだ」

 両親のいない他所から来たスバルに他の子供たちと同じように接してくれるこの里の人達とリリーにスバルは心から感謝している。

 だが、どうしても他の子たちと一緒に星詠みの儀に参加する気になれなかった。

「もう!スバルのバカ!

 知らない!」

 スバルと一緒に星詠みの儀に参加できるかもと楽しみにしていたリリーはスバルの言葉に怒って走って行ってしまった。

 もうこのやり取りは数回行われ、同じ結果に終わっている。

「ハァ……。

 それにしても、なんでオレが星詠みの儀に出ないだけであんなに怒るんだ?」

 スバルが疑問を呟いたところで里のはずれにある学校に着いた。


 学校と言っても里で数人の子供たちをスバルを連れてきた学者だった先生が教えているにすぎない。

 この先生は医学にも通じており、里の医者としても人々に慕われている。

「おやおや、今日は夫婦喧嘩ですか?」

 学校の入り口から先生であるワンが出てくるなりスバルに声を掛けた。

「そんなんじゃないです。

 からかわないでください」

 スバルは心の中でもう一度ため息をついてワンと共に学校に入って行った。



 学校が始まってしばらくはリリーの機嫌は戻らなかったが、昼を過ぎる頃には通常運転に戻っていた。

(切り替えが早いというか、なんというか……。

 ま、そこに救われてるんだけど)

 学校は基本的に午前で終わる。

 午後からは先生が医者としての仕事をするからだ。

 小さな山里なので住民の身体は頑丈だが、子供や年寄りがケガや病気にかかることがある。

 猟師がケガを負うこともあり、その手当を行うこともあった。

 こんな小さな里に学校や医者がいること自体が珍しいことで、先生が来てから噂を聞きつけて周辺の村から移住してくる者が増えているらしい。

 今日も午後は先生が学校の医務室に来る患者や動けない患者への往診・薬の処方を行うので学校は昼までで終わる。

「リリーは今日も先生の手伝いをするのか?」

 午前最後の授業が終わり隣の席に座るリリーに顔を向けてスバルは尋ねた。

「うん。そうだよー」

 リリーはスバルの問いに笑顔で返す。

「あたしお医者さんになりたいんだ」

 エヘヘと照れながらリリーは続けていった。

 リリーは先生の治療を手伝って医者を目指しているらしい。

 スバルが何度かケガをした時、リリーが診てくれたこともある。

 先生はリリーの治療を見て完璧だったと褒めていた。

「なれるよ。リリーは。

 立派な医者になれる」

 スバルは顔を教室の前に向けながら呟くように言った。

「う、うん。

 ありがと……」

 リリーは顔を赤くして俯きながらスバルに返す。

「ねぇ、スバルはどうするの?」

 リリーの問いにスバルは少し考えて、

「わかんない」

「そっか」

「機竜はいじっていたいけどね」

「いいじゃない。

 機竜の整備士。

 みんな調子が悪くなってもスバルが直してくれて助かるって言ってたよ」

「その機竜がこの里だと仕事になる程数がないんだよ」

 この里にも農作業や林業用の機竜が数体だがあった。

「じゃ、じゃあ学校の先生は?

 スバル、先生の話を聞いてないのに頭いいよね」

「失礼な。ちゃんと聞いてるよ」

「エヘヘ。ごめん」

 なんでそこで笑うんだよ。

「なにがしたいかまだわかんない。

 ただ……」

「ただ?」

「今は超眠い」

「フフッ。

 今日ずっとテンション低いもんね。

 いつもなら授業終わったら、農作業機竜見に行くんだーって走っていくのに」

「そ、そんなこと……。

 な、なぃょ……」

 自分のいつもの行動を思い出して尻すぼみになるスバル。

「あるよ~」

 ふふっと笑顔になってリリーは返した。

「んじゃ、飯食って山にでも行ってくるかな。

 肉の備蓄が無くなってきたんだ」

「少なくなってきたなら、うちに食べに来たらいいのに。

 お母さんも喜ぶよ」

「おばさんの料理上手いけどそんなしょっちゅう食いに行ったら迷惑だろ」

「そんなことないよ!

 スバルが採ってきてくれるお肉や山菜を里の貯蔵庫に入れてくれるから、みんないっぱい食べれるんだよ。

 スバルは採ってきてくれるのに、自分の分あんまり持って帰らないじゃない」

 リリーはまた声を大きくしてスバルに訴えてくる。

 ヤバイこのままだとまた機嫌が悪くなる。

「わかったわかった。

 今日また猪か鹿取ってくるから、それ持ってリリーの家に行くから」

「ほんと?絶対だからね?

 約束だよ!」

 怒った顔からパァーと笑顔になったリリーが立ち上がって、右手の小指だけ立ててこちらに出してくる。

「指切りの約束ね」

「またか。

 行くから大丈夫だよ」

 リリーは事あるごとに指切りの約束をねだってくる。

「だってスバル、指切りの約束すると絶対守ってくれるもん」

「しない約束もちゃんと守ってるだろ?」

「そうだっけ?

 でも、いいの。

 はい。指切り」

 そう言って一層小指を突き出してくる。

「わかったわかった。

 ほら」

 スバルも右手を持ち上げ、小指をリリーの小指と絡める。

「エヘヘ。

 約束ね」

「ああ、夕方遅くならないように行く」

「うん。待ってる」

 スバルは絡めた小指をサッと離して立ち上がる。

「なら早速飯食いに帰って山に行ってくる」

 スバルの指が離れても暫く小指を見つめているリリーに告げる。

「あ、お弁当あるよ!

 スバルの分も!

 一緒に食べよ」

 自分の世界から戻ってきたリリーが顔を上げて自分の席にかけてある鞄を持ち上げる。

「……そういうところだよ。

 リリー……」

「なにが~?」

 鞄を持ち上げて笑顔のリリーには何も伝わらなかったらしい。

「何でもないよ。

 外の天気もいいし、外で食おう」

 そう言ってスバルも鞄を持ち上げ、立ち上がる。

「うん。行こう行こう」

 スバルはリリーを連れて教室から出て行った。


ロボットアニメを見た感動の勢いで殴り書きしました。

ロボットが書きたかったのに、いつ出るのよ?

タイトル詐欺案件は前作から受け継いでます。

一応ロボットが出るまでは書きますのでよろしくお願いします。

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