第86話、新しき世界へ。太陽の花、象られしふたりがゆく
SIDE:キショウ
キショウが『リヴァイ・ヴァース』へやってきて、幾星霜。
初めは、お師匠さんがたくさんいて、日替わりで勇者になるためのことを教えてもらえるなんてなんて楽しい……大変だろうと思っていたのに。
まるではかったかのように。
音に聞く、魂を複数持ちし『レスト族』も真っ青な感じで。
それぞれのお師匠様と相性のいい、ウマの合う性格属性をもった7人の人格たちがそれぞれの曜日を担当するようになって。
最初はブレて変わったり変わらなかったりすることもあったけれど。
本当の英雄にお師匠さまがなるための試験に同行するようになってからは、しっかり馴染みきって。
このお師匠さまには、この子だと。
しっかりきっかり固定されて……。
―――ここから、ターニングポイント。分岐点。
『リヴァイ・ヴァース』の生みの親としてこの世界に足をつけ留まっていなければ、なんて思っていたのに。
ある時ふらりとやってきた、そんなソトミの兄的存在である上位存在が。
にやにや、によによしつつ何処の馬の骨とも知れぬ野郎にうちの妹をやるわけにはいかぬと。
共に生き、共に在ること認められたいのならば我を打ち破って見せよと。
実に楽しげにのたまったことで、ある意味8人目のお師匠さまが急遽参戦することとなって。
他の師匠たちをそっちのけで、一週間ぶっ続けで戦い続け、『リヴァイ・ヴァース』が壊れかねないほどの訓練のその果てに。
気づけばソトミそっちのけで。
ソトミが逆に嫉妬してハンカチを噛むくらいには二人が仲良くなってしまって。
いい加減キショウを返せと、他の師匠たちから文句が頻出していたのも記憶に新しく。
そんなこんなで、本人の意志などそっちのけ、預かり知らぬ所で許可が出てしまって。
せっかく一人一人用意したと言うのならば、ソトミのためだけのキショウがいるのならばしょうがないと。
気づけば、本当は必要ないはずの、ソトミが真の英雄になるための卒業試験、異世界行脚の日。
向かうのは、他の師匠たちのように悪『役』を与えらた、きっかけとなった世界ではなく。
創造主の手が未だかかっていない、新しき世界であった。
創造主、兄曰く。
『救世しに行くと言うよりも、何が起きて何があるかもわからないし、二人でハネ……じゃなかった、楽しんで冒険するくらいの心持ちでいいんじゃないかな』、らしい。
認めん、まだ認めんぞぉと。
似合わない言葉遣いでそんな事言われてもどうしたらいいのよと、戸惑うばかりのソトミであったが。
縛られ留まってなくてもいいと言われてしまえば従う他なく。
ソトミはそんな新しき世界へ向かうための、新しくつくられた【虹泉】の小屋、その入口となる階段にて。
自分でも引くくらい早く待ちぼうけをくらっていた。
(……そう言えば。わたしだけ『役』が、本当の意味での故郷がなかったからこそこの世界をつくったんだっけ)
今まで故郷と呼んでいたのは言うなれば兄の世界で。
妹が自分の居場所を探し求めてたもとを分ったように、自身の居場所をと思ってつくったのが『リヴァイ・ヴァース』であった。
今となっては数多の世界に英雄、勇者を排出することとなる場所として、自身の故郷として誇らしく思っているのは確かだが。
だからといって縛られる必要はないと、これも結局はお節介にすぎる兄の働きかけの結果なのだろう。
「ソトミ師匠~っ! おまたせしましたぁーっ!!」
きっと。
冒険と悪戯が大好きでだれよりも勇者に憧れている、トレードマークの鍔付きキャップを反対にかぶったやんちゃ盛りな少年は。
ただただ純粋にソトミと未知なる世界への冒険が楽しくて楽しくてしょうがなかったのだろう。
未だ陽が昇ったばかりで白む世界をかき分けるようにして。
こっちも元気をもらえるような、ソトミだけの、ソトミにあっているらしいキショウが。
ぶんぶんぶんと、大きく手を振り振り近づいて来るのがわかって。
「ふふふっ。これが、これこそがわたしのばしょ、ってことなのね」
引っ張られるようにして、ひまわりの、と称された笑顔を浮かべている事にも気づかぬままに。
ソトミは、立ち上がって。
そんなキショウを、向かい入れるのだった……。
【エンドNo.1、ソトミ】
大野はやとです。
分岐があって、マルチエンディング風に締めましたが。
『勘違いで悪『役』更生世界にやってきたけど、最強の『勇者』を目指します~Last notice~』は、今話をもっていったん完結、とさせていただきます。
これ以前のものもそうですが。
完結といっても下書きは続いていますし、お話も続きます。
ある程度ストックがまとまったところで、次話更新をする予定です。
他のエンドにするか、普通にさかのぼって続けるかはこれからのテンション次第ですね。
また、この話とはべつに新作を投稿したいと思いますので、またよろしくお願いいたします~。