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第85話、らしくない二人の、きっとはじめての……



SIDE:ソトミ



それから更に、幾ばくかの時が経って。

こっちが逆に戸惑うくらいに、順調に成長していっているように見えたキショウくん。


正しくも、大事な大事なハイライトであるからして、割愛してまたいつかの機会に披露しちゃうだろうくらいには、それぞれの師匠との英雄、勇者になるための卒業試験……という名の、創造主さまのつくりし数ある異世界を救うための冒険、その第一回を終えてしまって。


だけれど、いくらそのたんびに代われるとはいえ、元よりその身は一つのわけで。

こうやって傍からデバガメ……じゃなかった、ハラハラドキドキしつつ見守っていると。

ブラック社員なデスマーチも真っ青なキショウくんの働かされっぷりに、大丈夫なのかなぁって思うところもあって。


いつの間にやらなくなちゃってたお休みを、わたしの担当曜日にあてていたら。

気づけばそんなハラハラドキドキな冒険をこなしていないのは、日の巡りもあってわたしとテリアだけになってしまって。



(……って。よくよく考えなくてもわたしはここの管理者なんだから試験もなにもにないというか、そんな楽しげな冒険するわけにもいかないんだったよ)


そう内々でぼやきつつも、向かうのは藤椅子ひとつだったのがここ数十日で紆余曲折あってけっこう様変わりしちゃってるテリアの自室へと向かっていた。

目的は当然、テリアの卒業試験のための作戦会議だ。



英雄になるためのそれに対して、テリアの気持ちを前向きにさせるのにもけっこうかかったけれど。

っていうか、テリアちゃんがねぇ、わたしの居場所であるこの世界にとどまっていたいというか、わたしと離れたくなぁいってだだをこねて(誇張)大変だったのよ。


それに加えて、キショウくんと顔を合わせるのが恥ずかしいというか、ここにきてようやく一緒に訓練はできるようになったけれど。

包み隠さずぶっちゃけて言ってしまえば。

師匠と弟子とはいえ異世へ数日間じゃすまなそうな冒険に出るだなんて違う意味でドキドキしちゃうよう(聞いていたらえぐられそうな誇張)、だなんて恥ずかしがってたテリアの背中を押すためのガールズトーク、とも言うけれど。




(そう言えば、キショウくんってばテリアお手製のデザートに未だにありつけてないのよねぇ。ここまでくると、狙ってやってるのかしら。いや、まさか)


そんな事いいつつも、そんな奇跡めいたことを助長しちゃってるのは分かってる。

だって、おゆはんのデザートがテリアが手づから作ったものだって言ったことないんだもの。

わたしが少なくともその事を自慢げに語れば、テリア大好きなキショウくんは一にも二にも飛びつくはずで。



(それをわざわざ言わないってことは何? え、まさか。だってわたしは主さま一筋なのにっ)


このわたしにもかつてテリアにもあったという嫉妬めいた感情が存在していたのかと思わず自分で言って鼻で笑ってしまうところだけど。

そう自分に言い聞かせつつも思い浮かぶのは、キショウくんが『リヴァイ・ヴァース』へとやってきてはじめに挑戦してもらった、ここでは一番ダンジョンらしくないダンジョン、『役想回起』での、恐らくきっとわたしだけに与えられたであろういつか来るかもしれない未来の光景だった。




わたし的にはそんな感覚はあんまりなかったのだけど。

創造主さまと、世界のヒロインとうたわれた『もう一人の自分』との袂を、魂の剥離、人格の分裂という形でわかったわたしは。

悪『役』に染まって落ちてやさぐれていたテリアを、ひとりじゃさみしいからって巻き込んで。

この悪『役』更生世界を開拓、つくりあげることでここから離れること叶わず縛られていたらしく。



そんなわたしに自由を、と。

共に生きて、いろんな世界を旅し冒険しようと。

少年のこころを忘れることのない、みんなのリーダー的存在の、太陽を象った刺繍の施されたつば付きの帽子が似合う、『わたしだけ』のキショウくんが笑顔で誘ってきたら。


本気なのか冗談なのか、うちの大事な妹をどこの馬の骨かは分かってるけどそう簡単にやるわけにはいかないなぁと。

分たれてから会うこともなかったのに、多分きっとその方が楽しいから、といった理由だけでやってきた主さまが。

張本人であるわたしそっちのけで、お望み通り随分と楽しそうにキショウくんと拳を交え魔法弾幕の応酬にいそしむ、といった可能性の一つが繰り広げられていて。



(うぬぬぬぅ。……そうか、その子が7人目かぁ。わたしのためだけなんて言われちゃうと)


元々そう言う力を。

究極の人たらし的な力を持っていらっしゃるといえばそれまでだけれど。

三人でひとつの身体に身を寄せていたって相当しんどかったのだから。


そんないじましさというか、ピュアでまっすぐな想いをむけられちゃたら、ねぇ?

きっと誰だって少しは絆されちゃうと思うのよ。



だから仕方ないのよ、と自分自身にいいわけしつつ。

わたしは、気づけば最初に向かう目的をすっかり忘れ去って。

リアルなガールズトークをするためにと、テリアの部屋へと向かうのだった……。


SIDEOUT



     (第86話につづく)









次回は、5月11日更新予定です。

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