第84話、モブと言うより縁の下の力持ちとしてやってきたかのような
SIDE:ソトミ
こうして、キショウくんがわたしたちの世界、『リヴァイ・ヴァース』やってきたはじめの一週間が終わりを告げた。
思えば、予定にないはずのイレギュラーな来訪者……恐らくきっとわたしと同じ故郷から落っこちてきたキショウくん。
その時ばかりは、ややっ、ついにはわたしの世界を脅かし物語が動くであろう鍵となる人物、所謂S級悪『役』がやってきてしまったのかと、かなーり警戒していて。
ちょうど暇を持て余していたというか、わたしを含めた……複数ある世界をすくい上げられるだけの実力を持つ英雄候補寸前なみんなを、監視監督の意味合いも含めて、師匠となってもらったわけだけど。
その時のあたしはどうして深く考えもせず、みんなを師匠としてつけちゃったんだろう、なんて思う。
たったひとりに教えてもらうだけでも色々大変というか、普通は一体一だよね。
真の英雄になるための卒業試験、異世界行脚に随行させる弟子がわたしを含めた7人が7人ともいなかったってのもあるだろうけど。
みんなでよってたかって才能があるかどうかもわからない、うだつの上がらなそうな主人公を育てちゃう的な物語を。
夜のお供に読み込んじゃったのが原因でした、なんて無理やりにでもまとめちゃうのもあれだけれど。
半ば強引にこの世界の長権限を使ったというか、ただお願いしただけで。
それぞれが色々思惑ありつつもキショウくんの師匠となって欲しいことに拒否権を発動する者が現れなかったのは。
思った以上にキショウくんに見込みがあったのもあるだろうけれど。
師匠と弟子の関係となって、キショウくんのこれからの物語を見守っていきたい……そう思えるような『人たらし』にも似た何かがキショウくんにあったからなんだろう。
とはいえ、ほとんど休みもあってないようなもので日替わりで訓練、教えられるのは。
自分で決めといてなんだけどどうあっても無理があるんじゃないかなぁと。
真面目さがウリなキショウくんでも、それまでサマルェの事を避け続け逃げ回っていたように、根を上げることもあるよねぇ、なんて思っていたのに。
キショウくんは、そんな負担を軽減するみたいに。
一癖も二癖もある師匠たちの、その人となりに合わせるみたいに。
分裂……と言うより、姿形どころか性別、性格、所謂愛されし属性(得意な魔法属性)が『かわって』しまったのだ。
初めの一週間は、キショウくんがかつてのわたしがそうであったように魂の入れ替わりしもの、『レスト族』と同じような種族、血を引いているんじゃないかなと思っていて。
キショウくんのその身に危機が……生命が脅かされそうになったり、いきなり女の子に変えられそうになったりして。
精神に負荷がかかったりすると変わっちゃうものなんだと思っていたけど。
キショウくんの一族『ショウリン』。
これも半ば創造主さまとの文通が途絶え半ば諦めかけていた一週間目の夜に不意に届いたものだけど。
厳密に言えば、本当の意味でわかたれるまでもなく血の繋がってない別人が同居していたわたしたち『レスト族』とは違い、『ショウリン』の一族は代々仕える者、付き従うものを排出してきたというどうにも難儀な一族で。
それに倣って進化していったのが、彼ら一族だけにあるという能力、名前があるわけじゃなさそうで説明するのもむつかしいのだけど。
久方ぶりの交換日記にテンション上がったままのわたしなりに判断するに。
主……この場合はお師匠さんだけど、お師匠さんがイメージする弟子像を叶えてくれるというか、立てた目標に向かってまっすぐ邁進してくれるというか、ぶっちゃけてしまえば敷いたレールに迷うことなく乗っていくような能力らしい。
え? それってそう言う能力って言うよりも性格的なやつじゃないのと思いつつも。
わたしが多少なりともお節介したとはいえ、あんだけ女の子の弟子を望んでいたサマルェが初日の講義、訓練以降、あれこれ文句を言いつつも、礼儀正しくて思ったよりも大人なキショウくんで納得しちゃっているというか、卒業試験、サマルェの故郷にて行われるそれに早くもつれていく気満々になってるところに、姉的ポジションなわたしとしては寂しいような悔しいような複雑な気持ちに襲われたけど。
主と慕うものに適う存在へと昇華する能力ってこういうことなんだなぁってひどく納得する気持ちにもさせられて。
そうなってくるとお師匠は7人いるんだからキショウくんの手というか、人格、魂? 足りてないんじゃないのって申し訳なくも思ったわけだけど。
そう思っていたのもやっぱり最初の一週間ばかりだった。
カイ(とユミ)に師事することが主になったのが、【水】に愛されしウルハちゃん。
クルベ担当というか、虫取りしたりダンジョン攻略に勤しんだりしてるのが、【氷】の魔法が得意なカリマくん。
たくさんのけものなともだちを従えたフォルトナとともに熱血トレーニングに勤しむのが、獣化がメインとされる【月】魔法の使い手なゼンザイくん。
わたしやサマルェも求めてたけど結局わたしたちのお母さんポジションなサマンサとともにあることを選んだ、【木】の女神そのものなサキちゃん。
そして、先にも述べたサマルェとともに行動し、いつに間にやら卒業試験のお供に決めちゃってたのがキショウくんで。
わたしと未だ顔を突き合わせて教えること、躊躇ってるテリアだけハブられ溢れちゃうのかと思いきや。
どうやら違うらしいと。
ほんとにわたしたちに合わせてくれたらしく。
どんなからくりなのか、キショウくんの同級生な彼らとは他に。
キショウくんだけど得意属性が違ったりする、いわゆる『もう一人の自分』が他にもいるらしいことに気づいたのは。
地獄の日替わり師匠トレーニングが始まってから、一ヶ月くらい経った時のことで……。
(第85話につづく)
次回は、5月6日更新予定です。