第83話、七曜のキショウたち、急転直下に集結
SIDE:キショウ
そんなこんなで。
一番面倒で厄介なことのなるかと思っていた土曜日が、予想に反して穏やかに過ぎていって。
気が抜けた、という訳ではないのだろうが。
キショウの内にあるという複数の魂が表に出てきているわけでもないのに。
自室へと向かっているその足取りはふわふわしていて、そこにいるのが自分なのに自分でないような……夢の中に入り込んだかのような感覚に陥っていた。
(あの、あったかくてそのまま眠っちゃいそうなテーブル? のせいなのかな)
柔らかに包まれしその奥に【火】の魔精霊が常駐していたであろうその熱がうつったのだろうかと。
故郷にて同じものが、古代から受け継がれ確かに存在していた事実すら忘れて。
ついでに、そんな『おこた』の上に言われなくとも次々と食べ物おやつが出てきてたから、またしても夕飯後のデザートを頂き忘れてしまって。
正に夢見心地のまま、キショウはようやっと……どこをどうやってやってきたのかも分からないままに自室の扉を開け放ったわけだが。
「……んん? まっくらで何も見えないや。ここってこんなに広かったっけ」
まだ眠るのには早いだろう時分であるはずなのに。
その日ばかりは【月】の明かり、その存在を主張していないからなのか、ベッドの場所すらわからず。
キショウは何だか色々と面倒になってしまって、いつもなら使うことのない【光】による灯りの魔法を何気ない様子で手のひらから打ち出すと。
「うわぁっ!?」
無詠唱だからいけなかったのか。
手のひらから生まれた光は思った以上に辺りを照らすことままならず。
その代わりに、ぼぅっと浮かぶはどこからどうみても瓜二つな、どこかで絶対見たことがあるはずなのにこうして面と向かうの初めてな、二人の少年の顔であった。
そのうちの左側に浮かぶのは、主に【闇】を見に窶していそうな……トレードマークの帽子のつばを山折りにしてその瞳すらよく見えない少年で。
右側にたゆたうのは、勇者を志す者にしては珍しいかもしれない【木】の魔に愛されし、お馴染みの帽子を反対にかぶった快活猪突猛進な少年で。
「……何を自分自身に驚いている、と言いたい所だが。本来その反応こそが正しいのだろう、な」
「きみが落ち着きすぎなんだって、だってこうして顔を合わせるのははじめてどころか、きみがこうして出てくるのもはじめてだろう。しょうが、ないじゃん」
「あ、えと。その、すみません。ありがとう」
そこにいたのが、確かに二人の自分自身であったから。
自分が『三人目』であると気づいてしまったから。
今まさに本当の……キショウ・ショウリンの『ばしょ』へとやってきた、密かに【光】に愛されし正統派で最優な少年は。
主人公のごとき元気いっぱいな少年に手を引っ張られ、咄嗟に礼を言いつつ起き上がりつつ状況の把握につとめる。
「ここは……自室じゃないんですね。いわばおれ……僕たちだけの世界、ですか」
「色を持たず何物にも染まりうる可能性を持ちし一族、『ショウリン』。『レスト』族のような日向の者とは違い、こうして人知れず表舞台へ立つものの影となり支えてきた。おれ……俺は本来ならばその要としてこうして出てくるつもりはなかったのだが」
「それこそっ、しょうがないじゃん。こまかいことよくわかんないけど、人数たりなかったんでしょ」
裏で暗躍し糸を引くかのごとき体の【闇】のキショウは、正しくもこの場所の要となるもので。
その言葉の通り、必要な存在を生み出し、あるいは管轄する立場にあるらしい。
一方で、【木】のキショウは、主人格として常に最前線に立っていて。
であるのならば、そんなふたりを見ている【光】のキショウは何であるのか。
臆面なく受け取るのならば、かつての同級生……友人たちを生み出し棲まわせたのと同じく、必要に駆られたさいごの一片であると言えたが。
「……常に俺達の中にあった、『理想の自分』」
「そうだねぇ。この世界へおっこちてくるまできづけなかったけど」
「そう、だったんですね……」
自分で自分を励ますかのような、くすぐったくて恥ずかしい、そんな感覚。
だけど、おまけなんかじゃないと。
忘れ去られてしまったわけじゃないと。
足りなかったからってわけでもないと。
そんな自分を誇っていいって、言われたような気がして。
その時その瞬間。
確かに、『もうらしく』も創造する主にうっかり忘れ去られてしまっていた。
つばつきの帽子をかぶったありがちに見えるけどそうじゃない。
勇者を目指す主人公、『キショウ』が生まれた瞬間でもあって……。
SIDEOUT
(第84話につづく)
次回は、5月2日更新予定です。