表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/86

第81話、男嫌いというよりは、変わったり変わらなかったりすることに戸惑っていただけ



SIDE:ソトミ


 

毎度毎度デバガメしていて、暇人に過ぎるというか。

お飾りの長で本当は何もしていないんじゃなかろうかと思われちゃうのもしゃくだったから。

わたしは、今回ばかりは遠慮することにして。

その代わりに、土曜日担当がサマルェであることをいいことに、クルベの自室を後にしてすぐさまサマルェの部屋へと向かっていた。



目的は当然のごとく。

第一印象、初めての出会いからして大失敗しちゃってる我らが妹ちゃんのフォローというか、説得という名のアドバイスである。


いわゆる、悪『役』であった頃の影響で、かつてのわたしやあるいはキショウくんのように男女が入れ変わったりする人物に対してトラウマがあるというか、それをへんにこじらせちゃって。

同性に対してはぐいぐいいっちゃうのに、異性に対しては警戒心の強い猫みたいになっちゃう彼女。

年頃の近い女の子たちと仲良くしたいがあまり、過剰な熱量を醸し出しちゃうせいで逆に引かれて逃げられちゃうってこと、言われなくても分かってはいるんだろうけど。

あのキショウくんですら戸惑って土曜日を迎えるのに抵抗ある感じだったから、逆にわたしの方が心配になってこうしてお節介を焼こうと思ったわけで。




「サマルェ~? いるー? お邪魔してもいいかしら」

「……はーい。どうぞ、お姉さま~」


ノックの後にいるのわかってて声をかけると。

少しばかりくぐもった、外で活動している時とは雰囲気の違う……言うなれば間延びした声がドア越しから届いてくる。

わたしはそれにならい、一拍おいてからお邪魔すると。

いつも通りの趣味満載なサマルェらしい部屋の真ん中、わたしが故郷から持ってきた『おこた』にどっぷりつかって首だけ出しつつだらけ……じゃなく。

何やら明日の訓練、教義の準備らしい作業をしているのが目に入って。



「おぉ、明日の準備? 精が出るわねぇ。ふつうのポーションって感じでもないけど」

「えぇ。数ある英雄の中でも勇者を目指す、憧れているだなんて耳にしたもので。いざという時に役立つものをと思って」


いずれは、それらも自作できるようになるのが理想ですけれど、なんて前置きしつつも。

たぶんアイテムマスターであるサマルェにしか作れなそうな類のそれ。

ヴルック】印が入ったフラスコめいたガラス瓶には、薄桃色の輝くものがひとつ、透明に過ぎてからっぽにもみえるのがひとつ。

そして、口から取り入れるにはちょっと勇気がいる感じの鉛色のもの、計三つ。



かつて……あるいは異世界にて勇者というよりは魔の王とも呼ばれたサマルェと同じマジックアイテム使いが愛用していた最上級ポーションたち。


薄桃色のものは、自身で取り入れれば敵性のヘイトを一心に集めることができ、対象にかけるなり飲ませるなりすれば攻撃にターゲットが、引き寄せられるかのように対象に集まってしまうという極悪なもので。


透明なやつは、その見た目よろしく受けたものを透明にする効力をもっている。

これまた使いようによってはどんな悪事もお手の物……じゃなかった、無限の可能性を秘めているすぐれものだ。

攻撃を受けても効力が切れたりしないので、流れ弾どころかフレンドリーファイアされ放題といったマイナス面もあるが、暗躍してこっそりいろいろやっちゃう的な意味合いで、サマルェがつくるマジックアイテムの中でも一番のお気に入りだったりする。



そして、最後のひとつは。

水の銀……はぐれてるけど経験豊富なあの子みたいな色をしているだけあって、完全無敵の鋼の肉体を纏うことができる。

勇者の専用魔法って言えば正にこれって感じだけど、効力が続く限りは動けないので自分に使う意味はあんまりない気もするけど、拘束し、五体満足なままとどめたい相手に使うのには有効で。




いざと言う時どころか、持っているだけで無双できそうなスペシャルなアイテム。

しかも、ご察しの通りそれらを組み合わせることで、魔王のごとき所業と嘯かれる程の効果を発揮できるわけで。

いずれは自作しろだなんて無茶言っている割に、今つくってるやつはキショウくんにあげちゃう気満々で。

普段とげとげしているくせに過保護にすぎるのはサマルェも変わらないんだなぁって、キショウくんの人たらしぶりに感心しつつも呆れていると。

部屋に入ってきて、何言うでもなく対面に座ってそんな健気な妹ちゃんを生暖かく見守っていたからなのか、作業の手を止めたサマルェが、まだ何も言ってないのにちょっと慌てた様子で、言い訳するみたいに口を開く。



「いやね、その。あれですよ。ここまでの一週間、たっぷりと脅しつつ圧をかけてやりましたからね。それでも尚この場へやってくると言うのならば、その勇気に免じてご褒美的なものがあってもいいかなって思いまして」

「あれ、サマルェちゃんってば自分の行動で相手がひいちゃってるってわかってたのね」

「そりゃあ、まぁ。溢れ出るパッションが制御出来てない自分は分かっているつもりです」



ふむふむ。

明日になって暴走しないようにって足を運んだわけだけど、これは杞憂だったのかな。


そうであるのならば、当初の目的は達成しました、とばかりに。

こんなこともあろうかとこの部屋の雰囲気にぴったりな、故郷ではジュースにするとヒットポイント的なのが回復しちゃう橙色の果物を取り出して。

かわいい妹分との、ゆったりとした午後のひとときを過ごすことにして……。


SIDEOUT



     (第82話につづく)








次回は、4月22日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ