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第80話、個人的な、彼女の場所であるからこそ何だか優しく見えるのか



SIDE:キショウ



「あの、すいません。サマルェ師匠。おれの内にいる他の人格さんたちのことなのですが、どうやらおれの方から呼ぶことはできないみたいで……」

「ふふん。そう呼ばれるのも新鮮で悪くないじゃないの。まぁ安心しなさいな。まさか、初めて変わった時のこと、忘れたわけじゃないでしょう」



キショウの内なる世界にいるらしい4人? の魂、人格たち。

そのうちの、かつての故郷の同級の少女二人のどちらかをサマルェはご指名だったわけだが。


サマルェのこちらが引く程の押しの強さに。

コミュニケーション未だ取れずとも、きっと間違いなく出てくるのを嫌がっているであろう二人を差し出すような真似などできるはずもなく。

とりあえずのところ、そのための言い訳のとっかかりとしてそう言えば確かにそうな台詞を口にしたわけだが。


すぐさま失念していたのは。

今でこそ曜日ごと師匠に教えてもらうたびに代わる代わる出てきていた友人たちであったが。

そもそもキショウ自身の内側のどこだかわからない彼らが入れ替わるようにして現れるようになったのが、突然のサマルェ師匠による注射器型のマジックアイテム……【性質変化】付きのポーションによるものだったということで。



その瞬間、手品でもするみたいに炬燵の上にあってサマルェ自身が手に持っていたみかんが。

コルク付きの試験管のようなものに入った、目にはやさしいけれど突然現れるとどきっとする桜色のポーションらしきものへと変わる。


それを、飲むなり注入するなりなんなりすればすぐにでも呼び出し変わることができるとでも言わんばかりな、サマルェの笑顔。

それが舌なめずりつきの、正直に言うとあまり似合っていない感じであったから。

キショウは少しばかり引くように仰け反りつつも、更に言い訳するみたいにいよいよもって一番に言いたかったことを口にする。



「あの、その。ええと、それはもちろん覚えています。おかげでおれに別人格がいるって知ることもできましたし、その事については感謝してはいるんですが……こうして贅沢にも日替わりで教えていただいているのに、けっこうすぐに変わっちゃうから、おれ自身が教えてもらってる感じがあまりなくてでしてね。

できれば今回は、おれのままで教えていただけるとありがたいのですが」



それは、前述した通り圧の強い、あまりあったことのなかったタイプのサマルェに対して内にいる二人が怖がっているだろうといった勝手な予想に基づいたものではあったが。

これだけのすごい英雄のみなさんに、一体一のつきっきりで教えてもらっているのにも関わらずすぐに変わってしまうから。

消化不良というか、キショウ自身、たまには変わることなく通して教えてもらいたいなぁなんて、わがままな気持ちがあったのも確かで。


そんな機会をサマルェが担当の日にしたのは、まぁたまたまタイミングがよかったからというか、それ自体キショウにしてみれば深い意味は無かったわけだが。


サマルェ自身は、どうやら別の意味合いで取ったらしい。

引いてしまうほどの笑みはともかく、それまであるいはテリア以上に人形のようであったサマルェは。

正しくもキショウと年の頃がほとんど変わらないくらいの普通の少女のように、目をしばたかせてみせて。



「ぬふふ。なぁんだぁ。そうならそうって早く言いなさいよ。……まぁ、はじめからそのつもりだったんだけどね。そう言うことならとっときの勇者~魔王コンボなポーションの作り方、教えちゃろうじゃないの」


はじめから、の部分に多少引っかかったものの。

その後に続く、非常に興味を惹かれてしまう単語に持ってかれてしまって。


「勇者から魔王、ですか? 何だかとっても凄そうな感じですけど。初めは回復のポーションとかじゃないんですね」

「その程度のもんはあたしじゃなくても足りるでしょに。せっかくだしあたしにしか教えられなそうなのからいこうじゃないの」

「あ、ええと。はいっ、それじゃあお願いしますっ」



別人、とまではいかないけれど。

何だか目の前のサマルェは、今日という日が訪れるまでとは随分と違っていて。


結局、下手に警戒していたのは杞憂だったんだなぁ、なんて思いつつ。

その何だか凄そうなポーションについての教義に。

どうにもミスマッチな、炬燵に陣取りつつ耳を傾けるのだった……。


SIDEOUT



    (第81話につづく)









次回は、4月17日更新予定です。

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