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第78話、夢、目標は未だ遠いと、それを再確認できたことが収穫



SIDE:キショウ


幼少のみぎりから、その見た目からして虫をとって回っていたイメージがキショウ自身にもあったのに。

虫取りするには大きにすぎるとはいえ、垣間見た瞬間気絶するみたいに『変わって』しまったことで。

それは自分ではなかったことを思い知らされる。


そのような趣味に従って故郷の草むら、森などを駆けずり回って。

時には嫌がるキショウたちをも巻き込んでの捕物劇。

捕まえて標本にするためのピンの代わりに、極力傷つけずに保管維持するために『ルフローズ・レッキーノ』の魔法をマスターし、氷を司る魔精霊に愛されるまでに至った、キショウの友達の中でも、頭を働かせたら右に出るものがいなかった……そんな少年。



例のごとくその姿は見えず、今までその度に『変わって』きた者達のようにその名すら浮かばなかったのに。

見事な手前で次々と夥しく迫り来る大仰な虫たちを氷漬けにしていくのを見て、キショウは彼がそこにいると確信を持ってしまった。



そうなってくると、他の子たちも十中八九キショウ自身とそれなりに関係の深い間柄なのだろうと予想できる。

未だキショウは内なる世界にいる仲間たちに対してはそれぞれの日を受け持った師匠の口から聞かされるばかりであったが。

そんな、些細ながらもきっかけがあって、そうやって少しずつ思い出していくのだろうという予感もあって。


彼の一挙手一挙動を目を逸らすことなく見届けようと。

改めて気合入れたところでの、まさに突然視界の外へと放り出される感覚。




「……うどわぁっ」


変わる時も戻る時もいつだって唐突で、未だに慣れない。

しかし、今回は特にそれが顕著であった。

長い間出続けていたり、びっくりしてまた引っ込んでしまうといった、戻ることの理由になりうるものすら分からないほどに急で。


あるいは、自身の限界を測りきれず見誤ったのか。

彼にしては迂闊に過ぎるとは思うので、キショウには分かりえない外来的要因でもあったのかもしれない。

その事に対してじっくり考えたいところだが、当然そんな余裕などあるはずもなく。



キショウが投げ出され転がるように目を覚ましたその場所は。

夢のような世界とはいえ、【ルフローズ・レッキーノ】の彼が力尽きてもおかしくない、ダンジョンの最下層。

ダンジョンボスのおわす場所で。



「……ひぃっ」


そこには、数多の虫の特徴をくっつけて捏ね回したかのようなボスの名に相応しい合成魔獣がいた。

ギチギチ、ザリザリ、ギョムギョムと。

複数ある口から捏ましい鳴き声の合唱。

それに合わせて溢れ広がらんとする、異なる様々な魔力。


ひと目でわかる、ひっくり返っても叶わないであろう相手。

それ以前に怖気が先に立って今すぐにでも逃げ出したくなったが。



そもそもこれは訓練で、精神的なものの鍛錬であって。

肝心のここまでを自身で成せず消化不良な気分でもあったから、自分でも不思議なくらいに立ち向かわんと。

得物……は持っていなかったので、虫型の魔物ならば牽制くらいにはなるだろうと。

一応普段から使っていて咄嗟に繰り出すに易い【カムラル】の魔法、その文言を唱えようとして。




「【ヴァル・マジックボム】っ!!」



一足先に紡がれる、力込められし言葉。

当然のごとく、それは繰り出す予定であった初歩の初歩である火の矢……【カムラ・アロー】とは一線を画していて。

ツギハギだらけのキショウの記憶の中でも、鮮明に残る伝説の魔法のひとつ。

故郷の危機を救った英雄が十八番としていた、火……炎弾幕を生み出す、勇者を志すものの憧れ。


まるで、花火を打ち出したかのような。

拳大の白球が、絶妙にキショウの脇をすり抜け避ける暇も与えずに、ダンジョンボスに着弾。


その瞬間、カッと視界が白色一色に包まれて。

刹那の間ながら、五感のうち二つが機能しなくなる。

恐らくは、こんな逃げ場のないようなどん詰まりの場所で使うに向いてない広範囲の殲滅魔法であるがゆえ、もれなくその余波を受けたのだろう。

拾ってはくれなかったが、ダンジョンごと崩壊させかねない爆発音が、その場を支配していたはずで。



「焦りすぎだ。一応私室だったんだがな。あるべき姿へ還すのが怖いんだが」

「……あっ、ふへへ。ごめーん。ちょーっとやりすぎちゃったみたい」



視覚、聴覚が戻り、そんなやりとりが聞こえて来る頃には。

そこにいたはずのダンジョンボスの姿は跡形もなく。

世界にぴしりとヒビが入って、炭黒に染まる幻の世界が終わりを迎えんとしていて。



「キショウくんもごめんね。そんなつもりじゃなかったんだけど、結局また訓練の邪魔しちゃった」

「い、いえ、そんな。伝説に語り継がれる魔法をこの目で見ることができたんです。これ以上の訓練、経験は中々に得られないかと」


相変わらず、真面目ねぇ。

そんなに褒めてもやっぱりおゆはんのお供であるデザート(テリア作)しか出ないわよ、なんて笑うソトミに。


あぁ、目指すべき場所はまだまだ遠いと。

キショウはしみじみ深く、思い知って……。




      (第79話につづく)









次回は、4月8日更新予定です。

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