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第75話、帽子がチャームポイントのリーダーのこと、どうして忘れていたのか



『この世の果て』と呼ばれるダンジョン。

その中でも、とりわけ人を選ぶであろう『蠱毒の坩堝』などと呼ばれるもの。


本来ならば、数十人のパーティを組んで綿密に計画を立てて慎重に慎重を重ねて攻略していくものであり、少なくとも英雄に届きうるであろう人物が主となって踏破に向かっても、犠牲を出さずに攻略するには難しいダンジョンと言える。

 

しかし創造者であるクルベにとってみればあくまで想像力を刺激するだけのものであり。

実際そこにいるキショウの肉体的なものに何か影響があるわけでもなく。

あわよくばソトミからも言いつけられていたキショウの内なる世界に棲まう人格のうちの一人でも呼び起こせれば、なんて思惑も見事に成功していて。


そもそもがダンジョンの難易度レベルなんぞ二の次で。

むしろ好みのダンジョンを披露する機会を与えてもらって我が上司ソトミよありがとうございます、くらいの感覚でいた。

故に、クルベとしてもキショウ……代わって現れたカリマがどこまで行けるのかお手並み拝見、などと思いつつ俯瞰するようにして見守っていたわけだが。



当然、そんな事……クルベの存在すら知る由もないカリマは。

未だ夢心地のまま、夢の舞台だと思っているからこそ、その氷情からは分かりようもないものの気持ちが大きくなっていたのは確かで。


気分は歌劇や物語に出てくる、英雄として名を轟かせるほどの探索者。

成りきる力は無敵であると。

不意に男になったり女になったりする演じ手……友人のひとり(二人?)からさんざんばら見聞きしすぐ近くで体感していたカリマは。

夢幻にいる今なら自身でもそれを体現できるだろうと思っていて。




「……染めろ真白に。【チド・ルフローズ】っ!!」


ギチギチと鎌手を軋ませて迫り来る巨大カマキリ……コンフュ・シックルを。

リン、と軽い羽音を上げて天井スレスレまで飛び上がり襲いかかってくるお馴染みのバッタ、グラスホッパーを。

不壊のはずの地面を突き破って不意打ち気味に襲いかかってくる大柄ミミズ、ジム・ワームを。

尽く容赦も慈悲もなく真白に染まる深雪で覆い尽くしていく。


あくまでもイメージ通りに、刹那にして変わる世界。

それが本来の実力であることなど自覚もないままにカリマは白銀の世界と様変わりしたフィールドを利用して、軽快に滑るようにして下へ下へと向かっていく。



(……ふむ。これが友の視ている世界、か。ゾーンに、物語に入り込むというのはこんなにも心地よいことだとは)


上級などと呼べそうな魔法を間髪を入れず繰り出し、休むことなく迷うことなくどんどん進む。

蠱毒などと呼ばれるだけあって、子供の頃大好きで熟読していた昆虫図鑑を具現化したかのような天界に硬い頬を緩むほどで。

疲れを感じないのは心だけがその場に飛ばされているようなもので。

心、精神にはダメージもあるはずなのだが、何せ夢だと思い込んでいるからして。

思い込んだら頑ななカリマは、キショウですら気づいたことに気づかず、夢中になってダンジョン攻略を楽しんでいた。



降りれば降りるほど、あらゆる種類の虫型の魔物たちはその数を増やし身体を大きくし、手強さが増していくが。

『蠱毒の坩堝』と呼ばれるダンジョンを攻略することに対して身に秘めし属性があっていたこともあり、

クルベが瞠目し感心するほどには速いテンポで攻略を続けていた。

それもこれも、夢幻に望んでいるからこそ可能なのだといった思い込みの勝利だと言えるが。


そんな風に、ついぞ最近まで浸かったことのなかった緊張感、死がすぐそこにあるかのような感覚に。

カリマは故郷から異世界へとやってきて、何十年と経っているわけでもないのにすっかり朧げになっていた故郷のことを思い出すようになる。



(……ああ、そうか。何故俺はそんな事すらも忘れていたのか。懐かしいな。こうやって友と切磋琢磨しダンジョン攻略に勤しんでたじゃぁないか)


『リヴァイ・ヴァース』のソトミの館。

そのモデルとなった、ユーライジア・スクールと呼ばれる魔法学園。

国土の三分の二を誇ると言われるその学園の地下には、広大で蒙昧なるダンジョンがあって。

世界にもう一つあるといわれる学園に海の下で繋がっていると噂されていて。

授業の一環で日がなそこに潜り学んでいたこと。


そんな探索のためのパーティに級友で幼馴染な仲間がいた。

彼らこそが、奇しくもなのか。

だからこそなのか、キショウとキショウの内なる世界に棲まう魂、人格たちで。



(友……か。そうだ、そうだよ。一人だけ行方が分からないヤツがいたじゃないか。俺らのリーダーだってのに、一体どこをほっつき歩いているのか……)


カリマは気づいてはいなかった。

あるいは、鏡や水面のような夢の自身を映すものがあったのならば分かったかもしれない……

そんな風に思い出し話題に上がった人物に取り憑き棲まう現状のことを。


しかし、その事を不意に思い出したということは。

この先に、夢の結末にその答えがあるような気がして。


明確な目的をたった今持ったカリマの足は、一層のこと早まっていて……。


SIDEOUT



   (第76話につづく)









次回は、3月24日更新予定です。

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