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第74話、氷の魔性の如き少年は、本当は三人組の『ちりょく』担当



SIDE:???




『彼』にとっての目覚め、その二度目も一度目と同じように唐突なものであった。



「……」


いつものように、舞台での稽古に熱を上げているうちに。

彼自身が口にせずとも憧れ目指す目標であると断じている演じ手のように、ゾーンの中へと。

あまりに集中したが故に、演じるべき物語の中へと入り込んでしまったのかと。

一度目はそう思っていたわけだが。

 

あまりにも一瞬過ぎて、目前……対面するように見た目だけなら子供の皮を被った戦斧持ちし怪物がいたことくらいしか分からなかった一度目とは違って。

不意に訪れた二度目の機会は、刹那の時間で現実に戻されるようなこともなく。

懐かしさすら感じうる、戦いの場へ放り出されたかのような感覚。


 

(ここは、ダンジョンか? 虫型のモンスターとはね。……何もかも懐かしい)



実のところ郷愁を覚えるほどに昔のことでもないのだが。

彼は、自身の故郷を飛び出す形で、異世界へとやってきていたのだ。


その異世界には少なくとも、目の前のようなロケーションは存在せず。

仮にまるで血塗らたかのごとき洞窟がその世界のどこかにあったとしても、ここまで一匹一匹が大きな虫たちが群れなして襲いかかってくることはそうそうないであろう。

 

かといって、彼自身の故郷へ帰って来てしまったのかといえばそれもはっきりせず。

少なくとも彼の記憶の限りでは、こんな……実に趣味の合いそうなダンジョンにお目にかかったことはなく。



「……【ルフローズ・レッキーノ】よ、滾滾吹きすさび、凍らせろ」


よくよく故郷にて悪友二人と虫取りをしたものだと。

そのうちのひとりの内なる世界に在ることに未だ彼に限って言えば気づかないままに。

そんな友人くらいにしかわからないであろう、幽かな笑みすら浮かべて自身が最も信望し魅力を感じている属性、その根源の名を呟き紡ぐ。


それは、正式な魔名ですらなく。

高位の魔法使いならば詠唱破棄、簡略化によって使いたい魔法を司る魔精霊に呼びかけて簡単な魔法を発動することもあるが。

彼が愛する属性に呼びかけたことにより、最早すぐそこまで来ていた、大きにすぎて彼にとっては逆に好ましい虫系の魔物たちを巻き込んで。

瞬きほどの一瞬をもって、血塗られた体内のごときその場を白銀の世界へと変えてしまう。



(ふむ。成りきる力、想像する力も馬鹿にできない、か。本来なら標本にしてでも持ち帰りたい所だが)


焦る素振りもなく、落ち着き払った様子で迫り来る敵性を氷漬けにしてみせた彼は。

実のところ、他の……キショウの内なる世界に同居する者達と違って、自身に置かれた状況をはっきりと理解してはいなかった。


キショウの内に棲まう複数の魂のひとりとして存在しているなどと、事前情報もなしに理解しろと言うのも難しいだろうが。

舞台の上での鍛錬中での急な召喚だったこともあって。

彼は自身でも口にしたように、トップクラスの演じ手にありがちな『物語に相応しい世界へ入り込む』現象が自分にも訪れたのだと勘違いしていたのだ。

 


それは、故あって異世界へ転移することとなった彼だからこその思い込みでもあって。

元々類まれなる【ルフローズ・レッキーノ】魔法の使い手であったのは確かだが。

思い込みの力と言うのも馬鹿にはできず、その表情は氷のように動いてはいないが。

実は彼自身が引くくらい……標本どころか白銀一色になってしまったその場に留まり続けることもいたたまれなくなっていて。

 


彼……カリマ・レッジレインは、そんな風に自分を誤魔化しつつ。


かといって、内心の動揺を傍から見れば微塵も出すことなく。

いきなり始まった、しかし故郷の世界に似ているところもなくはないダンジョンを、堂々とした余裕すら感じさせる空気を纏って進みゆく。


実際は、何もせずにその場に留まっていても物語が進むことはないだろうと。

彼独自の考え方で、とりあえずのところ先の見える……大型の虫たちがやってきた方に行けば何かしらあるだろうと判断し歩き出していて。



(ここがダンジョンならば、地上に出るべきか。あるいは、最奥を目指すべきか)


そう心内で呟きつつも、カリマは既に向かうべき道筋を決めていた。

その心は当然、そちらの方があるべき物語として正しい、話の進み甲斐があるだろうと判断したからである。



そんなわけでカリマは。

そんな心うちと氷のごとき外見とのギャップが激しくて周りを勘違いさせることなどまったくもって気づきもせずに。


意気揚々と、わくてかしつつ。

ダンジョンの攻略、最奥を目指していくのであった……。


 

     (第75話につづく)









次回は、3月19日更新予定です。

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