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第73話、少年はみんな、虫たちに憧れロマンを追い求めると信じてやまず




SIDE:キショウ



キショウ自身の身体はクルベに招かれた部屋にいて。

その心だけがとらわれ、種類は違うといえど実は結構好きなのかもしれないダンジョンの攻略をしている。

何とはなしの予想だったが、事実その予想は大きくは外れてはいなかった。




クルベ・ピアドリームによる、『魔絵』。

それは、始まりとしては魔力のこもった特殊な筆により、描いたものに命を吹き込み、魔物や魔精霊から始まって描けるものならば何でも具現化してきた。


それだけなら、一見するとサマンサの召喚魔法を変わらないようにも見えたが。

悪『役』の命を終えてからというもの、この『リヴァイ・ヴァース』にやってきて、自身の腕を磨き研鑽することばかりにかまけていたクルベは、気がつけば慣れ親しんだそのギフトを昇華させていた。


それすなわち、魂と魔力を込めて描いた絵の中に、自身だけでなく触れたものを招き入れることのできる能力、である。


今回、クルベが一ヶ月ほどかけて完成させた作品は、名付けるならば『この世の果て』。

ソトミが……厳密に言えば彼女とともにあった創造主が生み出した数ある異世界で繰り広げられる物語に感じ入ったクルベが、インスピレーションそのままに描き上げたもので。


足を踏み入れ、キショウが初めに感じたように、あるいは多くのダンジョンがそうであるように。

『この世の果て』と呼ばれるダンジョンは確かに息づいていて。

魔物を生み出し、宝を生み出し、生者を誘い込むことで長い年月をかけて成長し、世界の大地の果てまで伸び行こうとするものである。


その、下へ下へ成長を続ける最下層には所謂ダンジョンコアが座すとともに、ダンジョンボスが腰を据えている。

それだけならありがちといえばありがちで、話を聞いたクルベもそれほど興味を惹かれはしなかっただろう。


クルベがその在り方を、自らの魂もって描きたいと思ったのは、そのダンジョンボス……その世界に無数にあるといわれるダンジョンが、人の様々な想いがきっかけ、引き金となって生まれていたからに他ならない。


それこそ、ダンジョンのその一つ一つに物語が存在していて。

今回クルベが描き出し生み出したのは、その中でもお気に入りの一つである。


未だキショウの前に魔物たちは現れてはいないが、『蠱毒』にも似たそのダンジョンは、実に描き甲斐のあるバラエティに富んだ虫型の魔物が生まれ潜んでおり、もしもまかり間違って……幸運にも最下層へたどり着くことができたのならば。

キショウは、クルベから見ても芸術と言ってもいい多くの力持ったダンジョンボスと邂逅できることだろう。

さらに鍛錬を積み撃破できるようなことがあれば、そのボスの力を継承できるというスグレモノで。

 


この訓練方法を思いついた時クルベは、なんと効率的で素晴らしいものかと思わず自画自賛したほどであったが。


そんな彼が唯一失念していたのは。

自らが好ましいからといってその訓練を受ける相手にとっては必ずしもそうではなかったと言うことだろう。




「……っ! やっぱりダンジョンだし何事もないってのは……てええぇぇぇっ!?」


次元の外れから見守るようにしていたクルベが耳にしたのは、予想外なキショウの悲鳴。

目下目前には、満を辞して美しき統率をもって軍となし進撃接近してくる、トンボとハチの混成部隊。


相も変わらず実にいい仕事をしている、などとクルベが感心しきりなのを脇目に。

背筋がむずむずして震え上がり飛び上がったキショウは、ソトミの時と違って戦う素振りもみせずに敗走しだす。


それは、今は守るべきなのが自分自身のみだから、というのもあったが。

耳障りな音を立て向かい来る虫たちの一匹一匹が通常の何倍もの大きさで、前回のダンジョンアタックの時よりも対処できないくらい数が多かったのもあるだろう。


しかし、それより何よりほとんど引っ張られるようにして踵を返したのは。

キショウとしては、虫取り少年よろしく虫系の魔物がそれほど嫌いでないのに対して、最近ようやくはっきり自覚するようになった、どこにあるかも分からないキショウの内なる世界に同居するメンツ……

その中でも女性陣が、あからさまに拒否反応を示したからなのだろう。



「って、ちょ、ちょちょっと! このまま逃げたとしてもっ……」


やってきた入口は、とうに塞がれている。

それでも構わずに逃げたくなる気持ちは分からなくはなかったが、そもそもこれでは訓練にはならない。

何とか説得して、出来うる限り戦う方向にもっていかなくては。


虫型の魔物。

勇者の基本として、【カムラル】の魔法を使うことは多く、基礎魔法程度ならば使えるが。

そもそもキショウが生まれながらに扱いやすいのは虫型の魔物がいかにも好きそうな【ピアドリーム】の魔法である。

そうなってくると、虫系の魔物を御しやすい魔法、属性を主とする『もう一人の自分』を内なる世界から呼び出し『変わる』べきで。



変わるといっても、そう簡単に代われるものかよ、なんて思う間もなく。


そう願ったからなのか。

気づけばキショウは深く深く自身の内なる世界へ沈み込んでいくのを自覚していて……。




       (第74話につづく)









次回は、3月14日更新予定です。

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