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第72話、気分の上がる【金(ヴルック)】曜日のはずだったのに



SIDE:キショウ



キショウが、この悪『役』更生世界、『リヴァイ・ヴァース』へやってきて六日目。

流されるままに修行をつけてもらうようになって、五日目、【ヴルック】の日。

担当は、クルベ・ピアドリーム。

歴代の悪『役』、英雄達の中でも珍しい、魔絵師を生業とする青年である。



キショウ自身、記憶もツギハギであるものの通っていた学校スクールなどでも同じ肩書きを名乗る人物はいなくて。

一体どんな職業で、どのような戦い方をするのか。

せっかく教えてもらえるのだから、この機会に知りたいなぁと思っていたら。

クルベも初めからそのつもりであったのか、『魔絵師について知りたいのならば自分に宛てがわれた部屋に来るといい』、とのことで。



キショウは朝ごはんをいただくよりも先に、予め教えられていたその場所へと足を進める。

いわゆるソトミの屋敷の住人たちがもれなく揃う食堂に向かわなかったのは。

当然のごとく、油断すると色んなマジックアイテムを投与されたりするおっかないお姉さんが待ち構えているような気がしたからである。



(と言いつつも、明日になれば会いに行かなきゃいけないんだよなぁ)


ガイアット】曜日は、満を辞してのサマルェが担当する日だ。

キショウとしては、どうして一番に教えてもらいたいテリアじゃぁないのかと嘆き節にもなろうというもので。

ソトミ曰く、まだ至高の彼女に教えてもらうレベルに達していない、とのことで。

そう言われてしまえばぐうの音も出なかったが。


だけど、それとこれとは話は別なのである。

転ばぬ先の杖的な考え方だと言われようとも、できる限り邂逅する時期を伸ばしたいのは事実で。



(カイ師匠の時みたいに、異世界、異世? へ行く修行とかにならないかな……)


帰ろうと思ったけれど予定が狂って遅くなってしまって。

どさくさに紛れて一日飛ばしたりできないだろうか。

たとえ一日伸びてしまっても、きっと予定が一日ずれ込むだけでサマルェが待ち構えている事実は変わらないのだろうが。

キショウはそんな現実から目を逸らし、夢見がちなままクルベが日々暮らしている場所兼、『アトリエ』へとやってくる。



その入口、扉は。

それこそカイやキショウ自身に宛てがわれた就寝用の部屋とさほど変わらないように見えたが。

失礼しますと声をかけつつノックすると。



―――来たか。準備はできている。入ってきてくれ。



どこからともなく、くぐもったそんなクルベの声が聞こえてきたので。

それに従うように、声の出どころを探しつつもキショウは扉を開けて中へと入っていく。



……と。


「えっ?」


一体なんの準備を、なんて考えている間に。

キショウの目前に広がるは、キショウに宛てがわれし部屋とは一線を画すどころか、正に異界であった。

まさか、また異世界に行きたいなんて思っていたから、気を使ってもらったのか。



「異世界っていうか……洞窟? ダンジョンかな」


招かれて遊びに行ったことのあるカイの部屋はそれほど変わらなかったのに。

距離感がおかしくなるほど遠くまで続く道が見えるのは、はたして幻かまやかしか。

覆う天井も、地面も仄かな灯りの並ぶ横壁も。

赤と白、黒色が混じりあったかのような、今までお目にかかったことのないダンジョンで。



例えるならそれは……何ものか大きに過ぎる生き物の体内。

もちろん入ったことなどないが、その色合いといい、よくよく見ればその壁は蠕動しているようにも見えて。

どこまでも続いているようにも見える前方の道から、喰らわれたモノの成れの果てか、怨念めいた声が響き届いて来る始末。


このまま進んで大丈夫なのかと。

そもそもクルベの部屋へやってきたはずなのに、どういうことなのかと。

思わず振り返れば、ついさっきまでそこにあったはずの扉は綺麗さっぱり消え去っていて。



あぁ、何だかんだで本日の訓練、修行が始まっているのかと。

伊達に五日間代わる代わる修行を受けてなかったキショウは気持ちを切り替えて。

とりあえずのところ、終わりがないようにも見える……蠢き震える道を進み行く。



(これは……ソトミさんやカイ師匠の時のように、異世界に迷い込んだ……わけじゃないのかな?)


扉をくぐった瞬間に、異世界へ飛ばされたというよりは。

身体はそこに残されたままなのに、精神だけがこの不気味なダンジョンに迷い込んでいるかのような感覚に陥るキショウ。

事実それは正しく、それこそが魔絵師たるクルベの真骨頂で。

恐らくは、戦いの場においては、術者自身が有利になるようなフィールドを創り出すものなのだろう。



魔絵師とは何か。

準備はできている。

その答えと言葉から推理するに、その考えは大きく外れてはいないような気がして。



「とにかく、行ける所まで行ってみよう」


結局はまたしても、キショウが大好きなダンジョン攻略。

それが、夢幻の最中でのことだとしてもやっぱりわくわくを抑えきれずに。


改めてキショウは、【ヴルック】曜日担当、クルベとの訓練を開始するのであった……。




     (第73話につづく)










次回は、3月10日更新予定です。

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