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第68話、まるで生き別れた母と娘が再会したかのように



SIDE:キショウ



あくまでも思い出せる限りでは、初めて耳にし目の当たりにする、召喚魔法を扱うための呪文。

それでも上の世代の英雄候補たちの中には、召喚魔法を駆使し魔物や魔精霊を従える人がいたのを覚えていて。


従霊道士の才能に関して言えばからっきしであったキショウであるが。

獣型の魔精霊のお世話を学校スクールでよくしていたこともあって、憧れがあったのは確かで。

正しくも訓練らしくあわよくばその召喚魔法のための文言を覚えて使ってみよう、何て思いつつよくよく耳をそばだてていると。

案の定そう簡単には理解できない……そう言えば身体を動かすこと以外のいわゆるお勉強は苦手というか、

いつもつるんでいた『博士』的ポジションの友人に任せっきりであったこともあって。

誘われ自身の内へと吸い込まれるかのように眠りへと落ちていって……。






「……あらら。初めての試みだったけど。びっくりねぇ。ほんとにうまくいくとは」


召喚魔法を扱って自身が深く関わってきた人物を呼び出す、などといった荒唐無稽な手段。

もしかしたらと、ソトミにさとされる形でやってみたからなのか、存外上手くいったようで。


自身で感嘆の呟きを漏らすサマンサの前には、今までそこにいたはずのキショウの姿はなく。

サマルェが一度、キショウへマジックポーションを投与した時に『変わった』、正しく森の妖精のごときの……【ピアドリーム】に愛されし少女の姿があった。



「うん。改めてこうやって対面して、はっきり思い出したわ。【ウルガヴ】のお姫様の妹さん。サキちゃん、だったかしら。こうして面と向かってお話するのは初めてね」

「…………あ、あなたはあの時の、お人形使いのお姉さん?」

「ええ、そうだったわね。『レイキ』は私が初めて契約した魔精霊なの。厳密に言えばテリアちゃんみたいな魔導人形とは違うのだけど、覚えていてもらえて嬉しいわ」



声をかけられ、静かにその翠緑の瞳を開いた少女は。

自身が紡ぎ出すその言葉が、天然の【音系】魔法であることを理解していて。

一瞬だけ口を開くこと、戸惑ったが。

立場がどうあれ、あいまみえたことのある人物であるのに気づいたのだろう。


加えて、母のように見守るサマンサに害意めいたものなど一切感じられなかったから。

一度目の時のように出てきてすぐに引っ込むようなこともなく、妖精のごとき少女は昔を懐かしむかのようにじぃとサマンサを見上げ見つめてくる。



「ああ、でも。私が『役』を負っていた時代と今のあなたは違うのね。随分と大きくなって」

「そ、そうですか。そんなこと言われたことなかったから、何だかうれしいです」


初めて遭った時に、生き別れた娘と同じくらいだろうか、なんて思っていたのだ。

それ故に、『役』にならって彼女に秘められし力を利用せんと誘拐しようとして、結局うまくいかなかったわけだが。



そんな、サマンサにとって文字通り黒歴史とも言える過去などとうに忘れてしまったとでも言わんばかりに。

サキと呼ばれた少女は、はにかみ笑ってみせる。


その、確かに大人びた様子の彼女に、文字通り娘の成長の日々を見守れなかったかのごとき寂しさを覚えつつも。

サマンサは彼女がキショウの内なる世界に棲む理由、人格の一つとなっているその理由を直接聞いてみることにする。



「さっそく本題というか話は変わるのだけど、サキちゃんは現状のこと、どこまで把握していて?」

「現状、ですか? ええと、あの。気づいたらキショウくんの召喚魔精霊になっていたのは分かるのですけど、どうしてこんなことになったのかは、よく……」

「……ふむ。なるほど、ねぇ?」



召喚という言い方をしたのは、サマンサに合わせてなのか。

少なくとも、キショウのことは主人格というよりも、仲の良い友人のごとき感覚でいることが分かったが。

キショウの内なる世界へ居座ることとなったきっかけ、その理由は分からないらしい。


それは、キショウを護るための嘘であるのか。

あるいは本当に突然のことで右も左も分からないのか。

サマンサに判断はつかなかったが。


そう言われてしまえば。

素直で可愛い良い子が好きなサマンサとしては一にも二にも信じて鵜呑みにするしかなくて……。


SIDEOUT



      (第69話につづく)









次回は、2月23日更新予定です。

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