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第66話、勇者を目指すのならば、モフモフ頼りになる相棒が足元に在るべき



SIDE:キショウ




「……ばむばむ」

「ばむ? って、あれ? なんで? うわぁっ、ちょっ。ちょっとぉ!」



肝心要な、もしかしなくとも一番に知りたいはずのその場面。

しかし、本当にいいところで目が覚めたかのようにはっと我に返ったら。


キショウの目前には、しとど濡れるピンク色の細い舌があって。

妙ちくりんな鳴き声とともに、避けるヒマもあらばこそ、問答無用でキショウに襲いかかりべろんと舐めまわす。


その瞬間、ぞぞぞと背中を這い回るものがあって。

キショウは自分が思った以上に熱くなっていた事を知る。




「ふむふむ、成る程ねぇ。現状のぼうやを形作り、護るためのポイントとなる時間はその辺りね。さらに場所はここと同じ場所ってこと。ソトミちゃんがこの場所を指定したのはそう言う訳だったのね。……あ、ごめんなさいね。カイロア、離れなさい」

「ばむむ」



本当にいつの間にやら召喚したのか。

母にして召喚主であるサマンサの命に従い一声鳴いてすぐさま舌を引っ込めたそれは。

黒白の肌色を胴の中心で分け隔てている、キショウが初めて目の当たりにする動物……獣型の従属魔精霊であった。


カイロア、と呼ばれたそれは『バク・リヴァ』と呼ばれる種族の魔精霊で、属性はその名が表すように【リヴァ】である。

ソトミが持ち込み、今はサマルェが管理している【虹泉トラベル・ゲート】と似通った能力を持っていて、【虹泉トラベル・ゲート】のように過去未来お構いなしに異世界へ移動することはできないものの、『役想回起』にあったモニターのごとき、鏡台めいたモノを生み出し、サマンサが見たい時代、時間軸の記録を映し出すことができる。



今回、サマンサがカイロアに指定したのは。

キショウが内なる世界に複数の魂、人格を生み出すこととなったきっかけ、そのタイミングである。


きっかけを知れば仕組みが分かって、内に棲まう人格たちとコミュニケーションが取れるかもしれない。

召喚の母とも呼ばれるサマンサの力を使えば、更にそれを訓練の一環にしてしまえば一石二鳥じゃないかな、とはソトミの弁であったが。



いよいよもって、という場面で。

と言うより、あらかじめテリアに詳しく話を聞いていたサマンサとしては悪『役』バリバリな頃のテリアが登場するのだとは分かっていたのだが。


同じようにその時その瞬間の一篇をカイロアに見せられていたキショウの反応が余りにも苛烈で心配になって。

いいところで止めてしまった、というのが現在の状況である。




肝心なところに近づくにつれて、魔力が暴走を開始し、破裂し拡散。

カイロアだけでなくキショウすら巻き込んで傷つきかねない本末転倒なそれは。

十中八九命の危険すらあっただろう記憶からキショウを護ろうとした結果なのだろう。

 

訓練云々以前にキショウが傷つくのが本意ではなかったサマンサは、故に暴発するよりも早くカイロアを引かせたわけだが。

十二の根源、属性の中でも気位の高い【リヴァ】の魔精霊の一子であるカイロアは。

何故だかそんなキショウが気になるのか、得意の舐めまわしで気付けし暴発しそうになっていた魔力を鎮火させた後。

珍しくもサマンサの言葉にも従わずに、その魔力の残り香でも嗅ぎ回るがごとく、ばむばむと鼻っ柱をキショウに擦り付けていた。



「もう。カイロアってば。いつもなら自分の力を理解ってるところもあって、みだりに人に近づいたりしないのだけど。もしかしてぼうやは、『従霊道士テイマー』の才能があったり、するのかしら」

「よーしよしよし。……あ、ええと。どうなんでしょう。動物っていうか特に獣型の魔精霊は好きです。もふもふな相棒が欲しいなぁって思ったことはありますけど、こっちに来るまでは縁がなかった気がしますね」


キショウは律儀にもそう答えつつ、カイロアの産毛のような白黒の体毛を、嫌がらないことをいいことにこれでもかとわしゃわしゃしていた。

臆面通りその言葉を信じるのならば、キショウに『従霊道士』の素養を感じ、気になっているというわけではないのだろう。


であるのならば、カイロアは何が気にかかって匂いを嗅ぐようにキショウの魔力を探っているのか。

分からないなら本人に直接聞いてみましょうかと。

呼ぶものと呼ばれるものでは定番の、語るべく口がなくとも通じ合える『交感能力テレパシー』を使ってみる。


その間も、動物好きであるのは確からしく、わしゃわしゃから全身マッサージに移行していたが。

ばむうぅと、カイロアは随分と気持ちよさそうな声を上げていたが、『交感能力』は問題なく効果を発揮していて。




「え? なんですって? 嗅いだことのある匂い? しかも……」


自身で望んで身をやつしていた訳ではないが。

サマンサが悪『役』時代に関わっていた『子ども』の匂いがする、だなんて伝わってきたから。


テリアとかつて大きく関わっているらしいとのことで。

興味本位で師のひとりとなることを選んだのに。

 

まさか自分にも大きく関わっているのかと。

もうすっかり仲がよろしくなっている一人と一匹を脇目に。

らしくなく呆然とするサマンサがそこにいて……。



   (第67話につづく)









次回は、2月14日更新予定です。

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