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第63話、あまりに素敵な情景だったから、すっかり目的も忘れてしまって



SIDE:ソトミ




「ぬぅわわぁぁ、みのたろうのやつめぇ! とっぽいフリして気づいてやがったなぁ、ちくせうぅぅ!!」



片手で持てるサイズな、タブレット的なやつをみんなで覗きつつ、現場へと急がんとするその道中。

そんなタブレットを私に預け、駆け出しながらも匠にてんとう虫型偵察機を操っていたサマルェ。



はじめは、小山のようなクリムゾン・タウロスとキショウくんの役を脱ぎ去って勇猛果敢に戦う、【ウルガヴ】に愛されし少女に加えて。

それをハラハラドキドキしてる感じで見守っているカイのお姉さんことユミの周りをぐるぐる回りつついろんな角度で撮影しててご満悦な様子だったけれど。

多分、カイはそんなサマルェの困った性癖というか性格をしっかり把握していたんだろう。



もうサービスは終わりダヨ、とでも言わんばかりに。

クリムゾン・タウロスが、ある程度ダメージを受けたことで暴走モードと化したところで、急にてんとう虫の視界が光やら煙やらで見えなくなったかと思うと。

それらが晴れた時にはユミお姉さんも【ウルガヴ】色の少女の姿もなくなっていて。



サマルェがハンカチ噛む勢いで悔しがる中。

すっかり元に戻ったらしいカイは、同じタイミングで戻ったキショウくんを華麗にスマートに庇い、お師匠の株上げ、面目躍如とばかりに一撃のもと【クリムゾン・タウロス】を倒してみせる。




「うぬ。彼奴も大概過保護よな。この調子なら雁首揃えて出迎える必要もあるまい」

「……それもそうだな。帰って自身の教義の準備でもしようか」


そして、そのままとっても仲の良い様子でわいわいしながらいくつものアトラクションを楽しんでいる様を見せつけられて。

サマルェじゃなくても何だか悔しいというか、とてもとても楽しそうでわたしたちはいったい何を見せられているのでしょうといった気分になって。


それはともかくとして、みんなで揃って助けに行く必要もないだろうと。

フォルトナとクルベがそんな言い訳しつつもその場を離れて。



「そう言うことなら……私も戻りますね」

「あー、ぼうやはともかくとしても、確かに貴女は面と向かい合わせない方がいいかもねぇ、それじゃあ私も付き合いましょ」


テリアのことを危ないところで助けてくれた恩人だと思い込んでいる? キショウくんはともかくとして。

他の人格、あるいは魂は、よくよく聞くところによると悪『役』としてぶいぶいいわせてた頃の被害者である可能性が高いらしく。

ウルガヴ】の彼女がキショウくんのふりをしていたのは、そんなテリアを警戒している可能性もやっぱり高いということで。


何だかんだでそれに付き合ったサマンサとともに、テリアもそそくさとその場を離れて。

残されたのはタブレットを持たされてるわたしと、コントローラーを持ってるサマルェだけになってしまって。



「まぁ、この調子だと大急ぎで向かう必要もなさそうだし? 出迎えはわたしだけでじゅうぶんだとは思うけど」

「そうですねぇ。もうこれ以上見ててもみぐさいだけですし、あたしも早いとこ帰ってかわい子ちゃんたちを迎える準備をイロイロとしときたいところですけども。レディの存在がバレちまってますし、一旦回収しなきゃですからね。めんどくさいですけど付き合いますよ、もう」



なんとはなしにお互い見つめ合って、苦笑。

口ではそう言いつつも、サマルェもなんだかんだ言って二人を出迎えたいんだろう。

いやよいやよも好きのうちってやつ?

まぁ、それをそのまま口にするとサマルェってばきっと顔を真っ赤っかにしてムキになって否定してくるだろうから言いはしないけど。

……そんな様子もかわいかったりするけどね。



事実、サマルェは偵察機が壊されちゃあかなわないと言い訳しつつ。

わたしを置いて行く勢いで、二人がカイの故郷お……異世界へ向かうために使った【虹泉トラベル・ゲート】のある場所へとダッシュする。


その間にも、てんとう虫型偵察機の操縦を忘れることはなく。

小さな画面の向こうには、二人がダンジョンというには少しばかりエンターテイメント性の高いアトラクションの数々に挑戦していた。



その必要性があるかどうかはともかくとして、世にも珍しいスイッチバックのあるジェットコースター。

レイドボスな牛頭の怪物が殿をかってくれるスリル満点なゴーカート。

ダンジョン攻略のための鍵となるかもしれない、雨に濡れて綺麗なメリーゴーランドに、

ダンジョンの意思そのものでもある不倶戴天な赤黒い彼との決戦の舞台となる海賊船。


そして、全てを終えて一日の感傷に浸り合うかのような。

二人だけの空間を演出する観覧車。




「……なんて言うか、もったいない絵面ですねぇ。これがさっきまでのかわい子ちゃんたち二人なら、きっと素敵な絵になったのに」

「あぁ、まぁ。それこそ家族や恋人が楽しむものだからねぇ。元はと言えば。そこでそう言う発想になるのはさすがのサマルェちゃんだけど」

「ふくくっ。みのたろうってば狭い密室にテンパってるし、ウケる。しかし確かに、これはいいものですなぁ。せっかくだからお姉さまと楽しみたいです」

「それもいいかもしれないわねぇ。せっかくだし、迎えに行く体でわたしたちも楽しんじゃいますか」



そんなこんなで結局。

画面越しながら二人が楽しそうにしているのを見てたら引っ張られちゃって。


たまには、それもいいかなって。

当初の目的もすっかり忘れて、わたしたちは七色に煌く泉の向こうへと向かうのだった……。



    (第64話につづく)








次回は、2月2日更新予定です。

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