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第6話、創造主の分け身の少女、王者さながらに少年を出迎える



SIDE:ソトミ 



ソトミ・ヴァーレストは。

キショウに名乗り上げた通り、この悪『役』更生世界、【リヴァイ・ヴァース】の管理者である。

 

実際に、定期的にやってくる悪役を終えた者達を導き育て。

あるいは改心させ、様々な世界(ソトミが信望する神が支配する世界)へと、『悲しみ』を止める英雄として送り出してきた。



本人は否定するが、この世界の王と言っても差し支えない存在なのである。

少女然とした佇まいで派手な色をしたドレスを身に纏うのが常だが。

この世界で一番の実力者であり、見た目にそぐわない強さと怖さがあることを、ここで暮らす者は皆理解している。



特に、初対面……この世界にやって来たばかりのものは。

それまでの悪『役』に心引きずられ不安定な事もあって。

目を覚まさせる意味を込めて、まずは絶対強者としての畏怖をぶつけられる事となる。

それでも敵性が残り、歯向かうようなら最初の『おしおき』が待っている。


とはいえ、『おしおき』する展開にまで発展するのは稀である。

それは、ソトミの信望する神様から送られてくる『役を終えた英雄候補リスト』……【デューティ・メモリアル】という名の魔法の本に。

やって来る者の人となり、どんな『役』だったのか、能力などが記されるからだ。




故に、キショウが何の前触れもなくまるで偶然迷い込んできたかのようにこの世界に降り立った時。

ソトミがしたことは自身の神へお伺いを立てる事だった。


情報が載せられる本とは別に、日記帳のようなものに書き込む事で、断片的ながらも答えの返ってくるそれ。



―――今日は誰もやってくる予定などなかったはずなのに、一体どういう事なのですか?


そんな一文から始まって益体もない自分の言いたい事を書き込んだ後。

すぐさま自室、窓から飛び出していく。


その際、念のためとAクラス以上のお気に入り、英雄達を招集しておくのも忘れない。

それは、部屋の入口に立てかけてあるベルを二回鳴らす事で、魔法の力により伝わる仕組みとなっている。

ちなみにベル二回は、『ちょっとみんな用事があるから暇だったら集まって』、といった感じだ。



連絡を取る魔法の日記帳は、日記の体をなしているせいか、返事が来るまで一日かかってしまう。

思う通りに意思疎通出来ない事にいつだって愚痴りつつも、ソトミは我が家……通称『庁舎』を出て、

アンノウン……本に載らない稀有な存在の元へ向かう。




ヴァーレスト】の根源に愛されし彼女は翼なくとも空舞う事などお手の物。

途中ですれ違うこの世界の住人達と挨拶し、背中を押されつつやって来たのは、世界のはじっこと表現してもおかしくない場所。

役を終えた者達が、浮かび、あるいは落ちてくる入口とも言える場所。

小山のような場所に建てられた住宅街と庁舎までもが一望できる、ソトミにとっても定期的な見回りの際には必ず寄るお気に入りポイントのひとつであった。



アンノウンもご多分に漏れず、迷子になった……だけど好奇心の抑えきれない幼子のような顔をして、小山を見上げ惚けている。



そう、アンノウンはどこからどう見ても平凡な少年の範疇に留まっているであろう子供であった。

ソトミの記憶を刺激する、故郷のものによく似た学生服。

背格好から判断すると、15歳は超えていないだろう。


一見すると細身で鍛えているようには見えず、珍しくはないがソトミにとってトクベツな意味を持つ黒い瞳と短めの黒い髪は、僅かに魔力の篭るつば付きの帽子によって絶妙に隠されていて。

橙色の太陽の刺繍の施された黒色の帽子が、かろうじて没個性になる事を防いでいる。


当然、あからさまな邪気は感じず、それどころかその帽子以外にはほとんど魔力を感じない。

ソトミが存在感を持って近づいてみても、全く気づく様子もなく立ち尽くしているのを見ると。

第一印象通り、次元の狭間か異界の隙間にはまって偶然にもこの世界に転がり込んで来た一般人……『役』持ちでないただの子供にしか見えなかった。



だが、今まで『役』のない無関係な人物がここに迷い込んできた事などとんとなかったから。

そう思わせて油断させるくらいの極悪な役者であろうと判断し、ソトミは少年……キショウを庁舎へと招き入れる。



Aクラス以上のお気に入りの中で現在『弟子』のいない者達を集めたのも、未知なる者への警戒故で。



だからこそ、ソトミは気になって仕方がなかった。


この世界ができてから一番長い付き合いのあると言っても過言でではない、元悪役英雄同然の。

ど真面目がウリな親友の少女が、その場に現れなかった事が。




       (第7話につづく)









次回は、7月10日更新予定です。

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