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第58話、生まれ落ちたばかりであるからこそ、存在を証明する




SIDE:キショウ?




自分が何者であるのか、なんて。

普通に生まれ、学習し成長していったのならば考えることもなかったのだろうか。


彼女だけでなく、キショウとその身を共にする四人の少年少女には。

皆のリーダー的存在であったキショウとともに、勇者……あるいは英雄を目指していくための学校へ通っていた記憶があるのに。

その一方で、キショウという存在そのものが分裂したかのように、キショウから生まれた人格のひとつ、という感覚もあった。



一体、どちらの自分が本当の自分なのか。

考えても考えても答えは出ない。

だけど、そんな二つの相反する状況に至った、そのきっかけは覚えている。




それは、ずっとずっとつづくと思っていた学校での日々が、唐突に終わりを告げた日のこと。



勇者として、英雄として身になりできあがる前に摘むべきであると考えるものがいたからなのか。

あるいは、別の理由があったのか。

前触れなく訪れるは、容赦のない命の危機。

先生達や、先輩の英雄候補達の活躍、手助けもあって。

虹泉トラベル・ゲート】の力を借りて、危機の及ばない場所へ逃れ避難して。

その時の狭間の向こうの世界で、新たなる物語を紡ぐはずであったのに。

 


同期の、お馴染みの仲間たちの中に、キショウの姿だけがなかった。

 

故郷とも言える世界に、キショウはひとり、取り残されたわけでもなく。

心を欲し、妄執にとりつかれた魔導人形に未来を奪われたわけでもなく。

初めから存在すらしていなかった……まるで世界を、物語を創り出す主に忘れ去られてしまったかのように。




恐らくは、時の狭間の世界へ迷い込んだ時に。

勇あるものに一番近い、資格のあっただろうキショウであるからこそ。

強者を喰らい囚え必要なる世界へ誘わんとする【クリッター】に引っ張られ導かれたのだろう。



キショウは、その理不尽な仕打ちに抗わんとして。

おれはここにいるぞと、存在を証明するためにと。

やってきたのが、『リヴァイ・ヴァース』と呼ばれる悪『役』更生世界。

キショウを含めた仲間たちに手をかけんとした下手人のいる世界で。


キショウは、その心を守るためにと。

その出会いを自身の都合のいいように作り替えていたけれど。

いつ、その真実を知って、存在が儚くなるほどに傷つくかもわからなかったから。



きっと、その時その瞬間。

生みの親と言ってもいいキショウを護るために。

かつての仲間であり友である四人の人格が生まれたのだろう。




そのうちのひとりである【ウルガヴ】の根源に愛されし少女、『ウルハ』は。

メンバーの中でも最後に生まれ落ちたこともあって、実のところすぐには状況を把握できないでいた。



訓練の一環として異世界のダンジョンへやってきた所まではなんとはなしに理解していたのだが。

キショウと入れ替わった……彼女が『ウルハ』として然と意識を持ったその瞬間、彼女はひとり一面が白い世界に放り出されていて。


初めて『役想回起』と呼ばれるダンジョンに足を踏み入れた時のキショウと同じように。

異世界召喚にありがちの、神霊的存在のおわす箱庭世界へやってきたのかと思ってしまったのは一瞬のこと。


彼女は、その時他の人格……仲間たちと同じように、その魂ごと見た目すら様変わりしていたわけだが。

キショウを守るためには手の内を、さいごのひとりである自身を曝け出すべきではないと判断して。


そんな事を思いつつも、【ウルガヴ】の魔法よりも演じなりきることが生きがいである彼女は。

それでもそんな粘度の高い【ウルガヴ】の魔法、【ギヴァオ・ヴェール】を発動し、自身を彩ってキショウへと成り代わることに成功する。



そのまま、転移のショックで内にこもっているキショウが戻ってくるまで、彼女はキショウとしてやり過ごすつもりであったのだが。

訓練の相手、師匠のひとりである……恐らくは年の頃の近い少年までもが、あるいは自分たちと同じように別人へと変わってしまって。

あろうことか、変わった少女が、けっして口にはしないもののウルハがキショウを演じていることに気づいてしまっているようで。

だけど直接言われないのなら正体を明かすわけにはいかないと、変に意固地になってしまって。


ウルハは、本来ならキショウ本人が行うべきであった異世界のダンジョンでの訓練、そのほとんどを。

一旦舞台に上がったら降りるわけにはいかないとばかりにこなしていくことになってしまった。



気づけば彼女は、一体一では到底敵わないであろう、訓練といってもいいのかも分からない大きに過ぎるモンスターと戦う羽目になっていて。

勝てないまでも、自身の実力を超える相手との戦い、訓練だと判断したウルハは。


内なる世界で見ていてくれているかどうかもわからないけれど。

少しでも実に、参考になってくれればいいと。


少しばかり大仰に、わかりやすく。

まるで演舞でもするかのように。

魅せることを意識して立ち回り立ち向かっていったわけだが……。



   (第59話につづく)








次回は、1月12日更新予定です。

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