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第57話、結局、何だかんだでみんなで駆けつけたくなってしまって



SIDE:ソトミ




サマルェお手製の小さなスパイ探索機。

『リトル・レディ6号』と名付けられたてんとう虫型の、少々創り手の欲望ダダ漏れなそれは。

惚れ惚れするくらいくっきりと、小山のような血みどろの怪物に対するにはちっぽけすぎる勇者(見習い)の姿を、臨場感たっぷりに映し出している。



まさしく、すぐそこに。

まるで上等な見世物であるかのごとく。

ぐるぐると巧みに旋回しつつ、あらゆる角度からその僅かばかり大げさなようにも見える動きで戦いざまを見せてくれていた。


 

「うーん。やっぱりこうやって近くによってもらってもキショウくんにしか見えないんだけど。あきらかにわたしが指導した時と戦いかたも違うし、そもそもそのからだを構成する魔力まで違うものねぇ」

「……うむ。確かに、な。王やカイめに聞かされている、『魂の入れ替わり』、というやつか」

「もう、あいつめっ。このあたしに黙ってあんな【ウルガヴ】もしたたるかわゆい女の子を隠してただなんて許すまじっ」



たぶんきっと、画面越しじゃなくて近くで目の当たりにしてもキショウくんだって気づくことは中々にむつかしいことだろう。

カイやユミが気づいているかどうかはともかくとして、こうやってデバガメ状態でこっそり観察なんてしてなくっちゃ、あからさまにキショウくんじゃない属性の魔法を使って立ち回ることだってなかっただろうし。

キショウくんのふりをしている彼女としては、ここまでの流れを見ていると、キショウくんになりきることに自信があるようにも思える。



その時わたしが思い出したのは。

わたしたちと同じようにひとつのからだに複数の魂を持ち合わせていた真ん中の弟、妹たちのことだった。

彼らは、わたしたちの一族の中でも突出して演じなりきることに長けていて。

『役』になりきる者であることに誇りを持ち、愛していたから。

目前の、ごくごく自然に魅せる戦いを繰り広げている彼女を目の当たりにして懐かしい気分になったのは確かで。



……これはうんと後々に聞いたことなのだけど。

本来の彼女が、そんな愛すべき弟妹たちと切磋琢磨し演じ合う仲間だったから、と言うのもあったのだろう。




そう、目前で手に汗握る魂削るような戦いを繰り広げている彼女は。

そう言う見方をすると、けっして手を抜いているわけではないはずだけど、何とはなしに余裕があるようにも見えた。

余裕というよりも、これが勇者になるための訓練であると理解している感じ。



切れ味のいい圧の強い水のブレードに、同じく限界まで圧縮したレーザーのごとき飛び道具。

近距離から中距離を経て、離れた間合いでの戦い方を魅せる……じゃなくて、誰かに見せ、教示しているようにも見えてしまう。




「あっ、塔の入口のとこにユミちゃんいるじゃない。彼女にいいところを見せたい。ってわけじゃなさそうだけど」

「……【ウルガヴ】の魔法。あの娘はもしかして、私の?」

「あー、うんにゃ。【ウルガヴ】の姫様じゃなさそうよあの娘は。あの娘に誰かになりきるだなんて器用なことできないはずだし」


あの娘はたぶん、今はお互いが共有する身体の内なる世界にいるかもしれないキショウくん自身に、何かを伝えたい一心の健気なひとりの女の子なのだ。

誰だったかが、キショウくんの内にいる複数の人格たちはキショウくんが創り出した妄想的存在だなんだって言っていたような気もするけど、わたしとしては絶賛そっちの方を推したいところである。



「……カイとの初まりの模擬戦で見させてもらった凍り張り付く色とも違う、か。中々に綺麗な水の色をしている」

「まぁ、属性的にも悪『役』は似合わなそうねぇ」

「いや。【ウルガヴ】使いであるのならばもっとやりようがあるだろうよ。体内の水を支配するなり、相手の呼吸を奪うなり」

「流石の魔獣王、えげつないこと考えるじゃないの」


わたしがそんな風に、まがりなりにも師匠を引き受けたにしては下世話なことを考えている間にも、けっこうお師匠さんらしいやりとりをしている三人。


サマンサにしては珍しい揶揄うような言葉に、今は到底泣く鬼も逃げ出す魔獣王には見えないねこみみをぺたんとしつつ不満げに眉間にシワを寄せるフォルトナに。

言うまでもなく可愛いものが好きなわたしは思わずほっこりしていたわけだけど。




グオオオォォォォォォーーンッッ!!



まるで、注目し目に入れてなかったことが我慢ならなかったかのように。

赤黒い血濡れの山のごとき体躯のみの……じゃなかった。

その悪『役』、英雄候補に相応しき能力により、『クリムゾン・タウロス』に変化しているのだろうカイが文字通り魂消る咆哮を上げる。



「ほう。カイの小僧め。しびれを切らしたか。随分と気合いが入ってるではないか」

「いやいやっ、待って待って! あれはどうみてもみのたろうだけどみのたろうじゃないっ。あたしの可愛い子ちゃんがあぁぁっ!」


かと思ったら、何だかんだでいつもカイのことも気にしてるからなのか。

サマルェは目の前いっぱいに広がる赤が、カイの成れの果てではないことに気づいてしまったらしい。



だったらあれは一体なんなのかと思っている間にも。

強さがあきらかに一段階上がって一転危機に晒される彼女を目の当たりにしてしまって。

過保護にお節介に、今すぐみんなで助けに行かなくちゃ、なんて展開に変わってゆく……。


SIDEOUT




     (第58話につづく)








次回は、1月8日更新予定です。

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