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第56話、鬼の首をとったつもりが、見つからないように隠れたい鬼は自分自身で



SIDE:ソトミ



「……これは。また、随分と世界にそぐわない怨念の、集合体かしら? カイさんの故郷はめでたしめでたしで完結した世界じゃなかった?」

 

同じ穴の狢じゃぁないけれど。

感じ取ったそれに何か感じるものがあったのかもしれない。

普段のすました様子と違って、心なしか興味深げに身を乗り出すテリア。



「ええと確か……この今見えてる白い大迷路なダンジョンって、お話が終わっても続いているっていうか、再利用してるって聞いたような」

「成る程。王が我らが城にて生み出し創り出した修練場と同じということだな。それにしては確かに滾る気配が迸っているようだ」

「あー、多分だけどそれ聞いたことありますわ。今から向かいますから少々お待ちくださいな」



怨念の集合体だなんて、穏やかじゃぁなかったけれど。

いい加減その呼び方やめてほしいんだけど全く聞く耳持ってくれそうにないフォルトナがいわゆる剛の者な気配を感じ取ったらしく。

そんな言葉面とは裏腹にわくわくしているのを目の当たりにして、気がそがれるというか。

言葉通りサマルェに心当たりがあったらしく、テリアの要望に応えるようにしてリモコン操作して。

白い壁が縦横無尽に走っているダンジョンを上空から俯瞰していた状況から、一路急降下。

ぐん、とスピード上げて向かうは蝋燭……燭台のような形をした塔が聳え立つ場所で。

 


「おぉぅ。でかっ。っていうかあかっ。あれね。テリアの言う念? の集合体って。あ、でも。大きさと色に圧倒されるけど、めちゃくちゃ見覚えがあるような」

「……『クリムゾン・タウロス』。カイがその真なる力を発揮した時の色に酷似しているな」

「待って。誰かが戦ってるわ、あれは……ぼうやかしら」

「うぬ。つまりは師匠自ら手ほどきを、鍛えてやっているということか。遊び気分かと思っていたが、小僧もなかなかやる気があるじゃぁないか」

「いやいや、どうやら違うようですね。あれはあいつじゃない。でも、この前見た森の妖精みたいなかわいこちゃんとも違う? まさか。もうちょっと近寄ってみましょう」



そもそもがこの雁首揃えてのお節介なデバガメは。

サマルェの可愛い女の子センサーが反応して、何だか面白そうだからといった流れによるもので。


てっきりその対象は、カイのお姉さんであるユミさんか。

あるいはちょっと前に出会ったばかりの、キショウくんとその身体を共有している【ピアドリーム】のお姫様……実はうっかり忘れてたわけだけども、テリアのモデルとなった我が親友の妹ちゃんにくりそつ(死語)な少女サキちゃんのことかと思いきや、どうやらそうじゃないらしい。



もしかしなくてもかつてのわたしがそうであったように。

ひとつの身体に複数の魂……あるいは人格があるらしいことは、今までキショウくんを見てきて分かっていたことだけど。


オーガかサイクロプスか魔人族かって雰囲気のおっきな彼でもなく。

キショウくんと相反するかのような、怜悧な氷情持ち少年でもなく。

言うなれば第4の人格、サマルェがバッチリ反応しちゃう女の子がそこにいるのか。

 

そう思いつつサマルェの操縦によりその問題の場所へと近づいていくと。

そこには確かに体格が違いすぎて、象と蟻のたとえを上げたくなるくらいに絶望的な戦いを強いられている少女……ではなく。


サマルェの期待と予想に反して、赤黒い血を全身を塗りたくって肉を捏ね回して固めたような、聳える塔と遜色ない大きさの牛型のモンスター……その巌のような手に持つ、攻城戦などに使われそうな巨大斧の、その一撃ごとに大地が吹き飛び景色が変わるそれを受け流し、ひりひりするような絵に書いたような、それこそ魂削るような戦いを繰り広げていたのはキショウくんその人に見えたけれど。


 

「うわぁ。カイったらえげつないわね。あれって一体一で戦えるような類のものじゃないでしょうに。それでもしばらくああやって戦えてるだけキショウくんってばやるわね……って、【ウルガヴ】の魔法!?」


いつだったか【鑑定】の魔法でキショウくんを見させてもらった時には、ほとんど内在しているようには見えなかった属性。

そんな属性の魔法を、時には大仰にすぎる斧を粘土の高い水の膜のようなもので受け流しつつ。

水圧を絞り極めた水のレーザーだったり、どうやって固定して維持しているのか気になっちゃう波濤の剣で応戦しているのを見て、はっとなる。

 


「やっぱり。違いますソトミ姉っ。どんなにつくろって隠れようったってあたしの目は誤魔化せんよっ。憤懣やるかたないことではありますが、どうやらあの【ウルガヴ】に愛されしあの娘、あいつになりきっているみたいですっ」



……どうやら、そう言うことらしい。


多分きっと、鬼の首を取ったみたいにそういって鼻息を荒くさせているサマルェが原因で。

4人目の彼女は自分を偽り自分を守るためにキショウくんになりきっているのだとは。


当然言えるはずもなく……。




         (第57話につづく)









次回は、1月4日更新予定です。

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