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第52話、誇りはもっていたけれど、結局攻夫が足りなかったのかもしれない



SIDE:キショウ?




―――それは。


今は『スリー・サーキュレイト』などと呼ばれる、生けるダンジョンが、別の名前でこの世界に座し。

カイやユミが悪『役』として、ダンジョンを攻略せんとする主『役』にたちはだかった頃の話。



彼らは当初、このダンジョンを解き明かし攻略するためにやってきたわけではなかった。

創始者であるまる爺自身が言っていたように。

家族が、恋人が、友達が、触れ合い想い合う人々が、スリルと興奮を味わい、得がたい一瞬の思い出を作る場所で。

そのあまりの楽しさに帰って来ない人物が現れる、なんて実しやかな噂が飛び交うようになって。

そんな真偽を確かめるためにと、世の不思議を調査して回ることを生業としている者達こそが、カイやユミが所属するグループであったらしい。




「この地を統括しておったわしは、既にこの生けるダンジョンに囚われておった。いや、その時は既にこのダンジョンそのものに溶けかけておって、もはやこれまでかと。わしはとんでもないものをこの世に生み出してしまったと後悔しつつも、わしにとっての最後の希望を託すものを探し求め彷徨っていたんじゃ。そこへやってきたのが、彼らでの。……しかし二人は、わしと邂逅するよりも早く、わしと同じようにこのダンジョンに囚われてしまったのじゃ」

「……」



そこまでに、どんな葛藤が。

心の動きがあったのかは、想像するしかなかったが。

その時まで二人は、今のキショウと同じようにひとつの身体の中に複数の意思を共有することなどなかっただろう。


しかし、このダンジョンに囚われて悪『役』となって。

ひとつになることで気づけたことも、あったのかもしれない。


まる爺は、ユミが全てが終わった今となってもここへ顔見せに来ようとしない気持ちは分からないでなはいと。

元をたどればすべてが自分のせいであると、自嘲気味に笑っていたけれど。

一通りお話が終わったところで、そんな事ないんじゃないですかねと笑ってみせて。




「二人と面と向かって話したわけじゃないので、あくまでもこれは私の想像ですけれど。恐らく二人は……ここへ来るまで、ひとつになるまでお互いのことをちゃんとよく知らなかったと思うんです。たぶん、お互いがきょうだいだってことすら知らなかったんじゃないでしょうか。役を押し付けられる形となって、それから色々大変なこともあったと思いますけど……今の彼らはそんなこと微塵も感じさせずに私たちの師匠をやってくれています。きっと、まる爺と顔を合わせるのが恥ずかしいとかかえって気まずいとか、そういった感情によるもののせいじゃないんですかね」



自分でもよく口が回るものだ、なんて内心でそう言いつつも。

まる爺も、そうだったらいいんじゃがのう、なんて呟いて破顔してくれたから。

出しゃばってここまでやってきた甲斐があったなぁ、なんて思っていると。





―――オオオオオォォォォォッ……!!




「……っ、な。何っ!?」


本人の居ぬ間に好き勝手くっちゃべったのがたたったのかと、一瞬思ってすくみ上がるほどの。

怒号めいた、それこそダンジョンじゅうに響いているのではなかろうかというほどの咆哮が、煌びやかな七色の地下室にまで響いてくる。



「ふむ。ちと早い気もするが、始まったようじゃな。ふふふ。鬼の居ぬ間に語りすぎたのかもしれんのう」

「えぇっ? え? まさか、そんなっ」



引き続き笑っていたから冗談な部分もあるのだろうが。

その耳朶を打つ声の中に、昼先にも会った『オブシディアン・ウォーカー』を倒した時にも耳にした……キショウやカイの声だけでなく。

上階で夕食の準備をしているはずのユミの声まで聞こえてきたような気がしたからたまらない。

大げさでなく思わず飛び上がってしまって。



「ちょ、ちょっと上、見てきますっ! 貴重はお話どうもありがとうございましたっ!!」

「ほほ。なんともまぁ、律儀なお嬢さんじゃのう」



まさかこの短い間にあのような咆哮を吐き出すナニカに成り代わってしまっただんて思いたくなくて。

だけど、今までのことを思うとその可能性を完全に捨てきれないのは確かで。

慌てふためき、それでも折り目正しく頭だけは下げて返事も聞かずに飛び出し駆け上がっていってしまう。


故にその後の、何だかんだですっかりバレてしまっている、ある意味誇りを失いかねないまる爺の発言を耳にすることがなかったのは。


彼女のプライド的には不幸中の幸い、なのかもしれなくて……。



    (第53話につづく)








次回は12月18日更新予定です。

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