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第51話、自分を棚に上げて考えていたから、穴があったら入りたい



 SIDE:キショウ?


 

『雨の守り神の館』がそうであったように。

今いる塔もダンジョンの一部らしく空間が拡張されているらしい。

どうせ行き止まりであるからと、暇つぶしくらいの気持ちでユミと別れて階段を下ってから小一時間経ったような気もするのに、緩やかに螺旋を描くようになった階段は、中々終わりの気配を見せない。



それでも、お腹が空くまでは下っていこうと跳ねるように足を動かしていると。

それこそダンジョンによくあるかもしれない無限ループに嵌ってしまったのかもしれない、なんて気持ちにもなったが。

そんな考えを裏切るかのように、唐突に階段が途切れているのが分かって。



「……おっと」


途切れていたのは、続く道を塞ぐように、周りにそぐわない木造りの扉があったからだった。

鍵はかかっていないようで、その隙間から微かにその向こうが見える。



(七色の……光? 魔力の光じゃあなさそうだけど)


それはいつか見て体験した虹泉トラベルゲートからこぼれる光に似ていた。

しかし、虹泉特有の12種が混在した魔力の波は感じられない。

それだけとっても十分に興味が惹かれて。

とりあえずのところは何もないなんてことはなさそうだね、なんて断じつつ。

念のため、とばかりにその木造りの扉をノックする。



「はーい。空いておるよ~」

「……っ! お、お邪魔します」


まさか人が居るだなんて予想もしていなくて。

おざなりなノックの流れで部屋の中へ入りそうになるのを慌ててこらえ、恐る恐るそう声をかけてから身を縮めて部屋の中へとお邪魔する。




「……ふむ。思っていたより早かったの」

「え? 僕たちが来るの知っていたんですか? それじゃあ、あなたは」

「おぉ、一応この園の責任者のようなものをやっとる。まる爺とでも呼んでくれい」

「あ、そうか。この園内のお札に書かれている人! つまりは、このダンジョンのマスターさんですか?」

「ほほ。ダンジョン、とな。まぁ、そう言われればそうかもしれんのう。最近は予約の団体客ばかりじゃったから、そうでない探索者は久しぶりでの。懐かしい顔もあったことだし、気にはしておったんじゃ」



どうやら、この部屋の魔力のこもらない七色の光は、そうして探索のために入ってきた者達を逐一確認するもの……故郷で言うところの『魔導機械』のようなものらしい。


詳しく聞くところによると、一昔前までは来るもの拒まず来るものを喰らう勢いの凶悪なダンジョンだったらしいのだが、この『スリー・サーキュレイト』なるダンジョンを初めて攻略した者が現れてからは、責任者にしてこの園のもとを創ったと言うまる爺を中心に、現在は定期的に探索者を受け入れ、必要以上に探索者に危険が降りかからぬように、逐一ここで監視観測している、とのことで。



今回、このダンジョン……『スリー・サーキュレイト』へキショウが訪れるにあたって、偶然目についたからやって来た風を装っていたカイであったが。

このダンジョンの責任者にしてマスターであるまる爺によると、しっかりきっかり予約というか、渡りをつけてあったらしい。


ソトミに連れられて挑戦したダンジョンも、攻略失敗してもやり直せる親切訓練設計であったが。

一昔前と違って今ではここも、あくまで訓練用のダンジョンらしく安全第一、思いで作りがメインの娯楽的仕様になっているようで。



そうであるのならば。

危機を感じ取って『変わって』しまった……。

率先して立候補してしまった(自分だけまだ表に出たことがなかった、なんて理由もあったが) ことに恥ずかしいものを覚えて身悶えしたい気分に駆られたが。


それもキショウのキャラではないと。

内心だけで気を取り直してそういえばと、気になっていたことのひとつを口にする。




「ええと、その。ユミさんはこのダンジョンの人なんですよね。ここには何もないなんて言ってましたけど、けんかでもしたんですか?」


正直口にしてからあまりに不躾にすぎるとは思ったのだが。

気になったのは確かであるし、キショウならばきっと間違いなく訊いていただろうからと、自身を無理矢理納得させる。

すると案の定、まる爺は少しばかり驚きつつも破顔して見せて。



「このダンジョンのものだと? 彼女らがそう言っておったのか?」

「あ、はい。てっきりここの関係者だとばかり思ってたんですけと、違うんですか?」

「関係は……間違いなくあっただろうよ。この生けるダンジョンの、始まりの被害者としてだがね。そういった意味では、彼女ら姉弟には申し訳ないことをしたと思っとるよ」



そう言うまる爺の言葉には確かな悔恨が含まれていたが。

それよりも先に、知らなかった驚きの事実がそこにはあって。



「き、きょうだい? ユミさんとカイ師匠が? 僕はてっきり……」


ひとつの身体を共有し分け合うほどなのだから。

深く想い合う関係なのかと邪推していたのも、恥ずかしい勘違いだったようで。



「恋人同士とでも思ったかね? まぁ、元々ここはそんな彼らのための場所であったからな。正直わしもそう思っておったよ」



楽しげに微笑むまる爺に、曖昧な顔を返すしかできない。

それは、彼女らと同じ立場にいるであろう自身とキショウの関係について考えしまったせいもあるだろう。


まる爺は、そんな百面相を目の当たりにして何を思ったのか。

変わらずかわいい孫でも見守るような笑顔のままで。



「本来なら本人の口から聞くべきなのじゃろうが。こんなじじいの思い出話でよけれは聞いてもらえるかね? ここであった、今では笑い話な、物語を……」



確かに少し、本人がいないところで聞くのもあれだとは思ったけれど。

キショウでなくともそう言うお話しが大好きだったから。


一向に戻ってこないで何をしているのかと本人やって来る前にと。

前のめりに勢い込んでまる爺の噺を聞く事にするのだった……。



     (第52話につづく)









次回は、12月14日更新予定です。

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