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第50話、何もないはずの行き止まりに敢えて興味をもって



SIDE:キショウ?



ユミの、肩透かしをくらったかのような、残念そうな態度でなんとはなしに予測できていたわけだが。

『雨の守り神の館』は、このダンジョンを攻略、脱出するために通らなくてはならない中継点のひとつであって。


ゴール地点に先にたどり着いた者には、例のごとく事前に別れた相方に化けたキャスト……モンスターがなんやかやで襲いかかってくる仕様になっていたらしい。


つまるところ、一度目と同じように壁を乗り越えてやってきていなければ、カイのふりをしたモンスターと相対することとなって。

そんなモンスターに対しどういったリアクション、行動を取るのか見たかったのに、とはユミの弁で。


表向きには、そんな彼女に対し期待に添えずにすみませんと、苦笑いを浮かべつつお茶を濁していたが。

内心では、自身を棚に上げて彼女の言葉の中にある矛盾について考えていた。




この『スリー・サーキュレイト』なるダンジョンの特色であるのか、探索のパーティが二手に分かれる事が多く、その度に友情、関係を問う罠が立ちはだかるわけだが。

彼女の解説通りであるのならば、そうして現れるのはカイではなく彼女自身であるはずなのに、そうでないのは一体全体どう言う事なのか。


同じ穴の狢であるのに。

そんなこと、考えなくても初めから分かっているのに。

一旦役になりきってしまったら止めるに止められなくて。


直接的にはっきりきっぱりと言われるまではお互いがお互いこのままでいきましょうと。

語り合い確認しあったわけでもないが、結局その辺りの話題に必要以上触れることなく……最早長年の付き合いのある友人同士のようなノリで、二人が辿り着いたのは。

奇しくも壁の上に登った時に目をつけていたもののひとつ、燭台のような形をした、塔めいたもののたもとであった。





「今日はここで雨宿り……日も暮れることだし、中で休みましょうか」

「中に? 入れるんですか? この、塔のような建物は」

「塔、ね。確かにそう見えなくもないけれど。かつては逆バンジー、フリーフォールなんて言っても分からないか。中じゃなくて外周を使って楽しむアトラクションだったのだけど、ダンジョンと化してからは本来の用途で使われることはないわね」



本当ならば、見上げるほどに高い大きな燭台めいた建物を、一体何の用途で使われるものなのかくまなく調べるのも醍醐味であるのだろうが。

話すことが、教えることが生きがいのような彼女は、あっけなくネタばらしをするかのように、そう言いつつ手招くようにして大樹のように聳える建物の裏側へと回る。



「ほら、ここ。よく見て。切れ目があるでしょう。ここをこうして、っと。さ、開いたわ。ついてきて」

「は、はい。お邪魔します」


日が暮れ闇に包まれていたのならば、あるいはひとりならば見つけられなかったであろう燭台めいた塔の中へ入るための扉。

ユミが軽く触れ手で押すと、緩やかに回転してその内側を露わにする。

塔の内側は、煉瓦めいた外周と違い無機質な鉄壁が広がっていた。

扉の向こうは踊り場のようになっていて、上へ続く階段と下へ続く階段があるのが分かる。



「この中は、一種の安全地帯になっているの。ここなら外を徘徊しているキャスト……モンスター達に襲われる心配もないわ。上階は見た目よりも広いスペースになっていて、雨風をしのぐ程度ならば十分のはずよ」

「なるほど。つまりはまず、下階の様子を見て……行き止まりを潰してくればいいんですか?」

「ふふ。ダンジョンアタックの醍醐味、分かってるじゃないの。何もないと分かってなお向かうというなら止めはしないわ。私はその間、夕飯の準備でもしておくから」



まずは行き止まりから網羅していくのがダンジョンの醍醐味であると言うのならば。

彼女もそこまで付き合ってくれるのかと思いきや、ひどくあっさりとした様子でユミは、そう言い残し手をひらひらさせて上階へと上がっていってしまう。



(下の階は行き止まり。何もない。だからこそ冒険大好きなキショウとしては向かうべき、か)


何もないと言いつつも、何だか下階には行きたくなさそうにも見えてしまって。

それがかえって気になってしまって。

別に彼女の言葉に嘘があると思ったわけでもないが、行きたくない理由がそこにあるんじゃないかって。



妙な期待感が生まれる中。

軽快な足取りをもって、硬く冷たい鉄の階段をくだってゆく……。



      (第51話につづく)









次回は、12月10日更新予定です。

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