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第5話、意識亡くとも戦うその姿は、厄介事の色しか見えない




……それからすぐに。

背中にぶつかったのは弾力性のある柔らかいもの、魔法陣の結界に弾き返されて。

ふらふらとしながらもキショウは立ち上がる。



何気なく元いた場所に視線を向けると、大分離れた所に無表情のままキショウを見つめるクルベと。

にこにこしながら自身よりも一回りも二回りも大きい斧のようなものを左肩に背負って立つカイの姿が見えた。





「どう、ルベ兄?」

「カイの攻撃力と、キショウの現在の守備力で算出すると……少なくとも二度死んでいる計算になるな」

「ほっほう。結構本気でいったんだけどなぁ。魔力でガードしたのかな? よし、今度はキショウのターンだよ。魔法でもなんでもどんとこーいっ!」



大仰な斧を肩に担いだまま、緊張感のない言葉を返すカイ。

実際、カイには余裕があったのだろう。

自身の一撃を見切る事もせず、為すがままに受けて吹き飛べば警戒に値しないと考えるのも当然である。


ならば、攻撃力の方はどうなのか。 

これでソトミが大げさに言っていたのか、そうでないのかがはっきりする。


審判をしていたクルベも、素質はあれどそれは悪役の素質ではないと気づいていて。

カイの目の覚めるような一撃に対しどんな答えを返すのか、期待を含めつつじっとキショウの事を見据えて……。




「……なにっ?」


その瞬間、銀色の魔力残滓を置いて、キショウの姿が消えた。



「とっ、【リヴァ】属性かっ! ……っておいおいっ」



かと思ったら、嬉しそうなカイの声とともに、いつの間にか手に持っていた剣でカイの斧と打ち合っている。



「なるなるっ、【ヴルック】属性も使えるってか。中々にレアだねぇ」

「……」


感心しながらも打ち合うのを止めないのは、当のキショウの意識が既にないからだ。

それでも恐ろしく基本に忠実で素直な剣捌きが続くのは、それほどまでに剣を振ったか……あるいは『悪役』によくある、何者かが心の中に棲み、乗っ取られているかだろう。



「……お?」


と。

カイもクルベも乗っ取り主がいるなら主を引きずり出してやろうと画策した時。

金属性の魔力そのものに近く、飾り気のなかった剣が炎を噴き出させ、その炎の蜃気楼がキショウを包み始める。



「うわあ。全属性使う気かい? せっそーないねぇ」


それまでの打ち合いを止め、間合いを取ってからの一幕。

カイは余裕を崩さなかったが、クルベは見覚えのあるキショウの雰囲気に、少なからず動揺していた。



(ソトミ様と少年は先程が初対面ではなかったのか?)


その魔力の構成は、この世界の主であるソトミが好んで使う魔法剣技のひとつ、【カムラル・ソード・ヴァレス】によく似ていた。


剣をひと振りすれば、四つの炎が刹那飛び出し、受けたものを焼き尽くす魔法剣。

一見どこにでもありそうなそれは、しかし火、光、風、雷の四種合成の奥義でもある。

複数の魂を持つと言われる希少種族、レスト族にしか使えない技のはずで。


やがて、一色だった炎が赤青黄白の四色を纏った時。

クルベは最早審判であった事も忘れ、自らの得物……細かく房の整った箒を取り出し、カイの横に並ぶ。



「ちょ、ルベ兄っ! 横入りはナシだぞっ」

「そんな事を言っている場合ではない。あれはまずい。結界ごと焼き尽くされるぞ!」

「あーん? それならそれでどんとこいだヨ! 伊達に何度もくらってないしぃ」


自慢できる事ではないが、カイはあれの威力を分かった上で迎え撃つつもりらしい。

ならば責任を全てカイに押し付けて下がろうかと、打算的な事をクルベが考えた時。

 

未だ意識を失った風のキショウが、やはり基本に忠実な動きで四色の炎映える剣を振り下ろす。

刹那、四色の炎が意思あるもののように飛び出し、カイ達の方へと向かっていって……。


 

どさりと。

それなりに大きな音を立て、キショウが倒れこんだのはその瞬間だった。

 

魔力が足りなかったのか。

そもそも撃つ気はなかったのか。

魔力の風が、何ら影響のない風となってカイとクルベに降り注ぐ。




「ぼ、ボクを驚かせるとはやるじゃあないか。ごーかくぅ。ボクの弟子になる事をみとめてあげよう」

「……厄介事の色しかなさそうだがな」



後には、強がって偉そうなカイと。

眉間に皺を寄せ、作られし空を見上げため息をつくクルベがそこにいて……。



    

     (第6話につづく)









次回は、7月9日更新予定です。

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