表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/86

第49話、意識してなかったのに、天井ならぬ天丼してしまって



SIDE:キショウ?




それは、後々に聞かされたことではあるのだが。

このダンジョン……『スリー・サーキュレイト』のマスコットにして守り神と呼ばれる存在はいるようでいない、会えそうで会えなくて。

このダンジョンを攻略するために必要なようでいてそうでもない、といった随分と曖昧な存在らしい。


ダンジョン攻略のための最後の砦、あるいはこのダンジョンをつくった創造主そのものなんて話もあるが、それらはどちらも別にいて。

本物に見えることができることができたなら奇跡であり、通常に攻略するのとはまた違ったご褒美的なものが与えられるかもしれないと。

まことしやかに……ユミ自身も会ったことがないらしく、何かいいことがあるかもしれないわね、とのことで。




……そんな裏話はともかくとして。

これだけのお膳立てをされて結構楽しみにしている部分もなくはなかった『雨の守り神の館』は。

ずっとずっと真っ直ぐな道の続く、その道中にモンスターや至高を凝らした多様なトラップが配置された、攻略するだけなら迷う余地のない、ユミが口にしていた通りの攻略の速さを競うような類のものであった。


表向きにはダンジョンアタックもモンスターを倒すことも。

それほど得意でも、率先してしたいと思うほど好ましいものでないのは正直なところであったが。

あくまでも脅かし、挑戦者の進行を阻害するものばかりであったこともあって。

そんな見かけのふりはともかくとして、その内心では結構楽しんでいたのは事実であった。


トラップにしろ現れるモンスターにしろそのほとんどが見えるのも体験するのも初めてで。

先にゴールにたどり着いた方にそれこそご褒美があるらしいが、これはきっと間違いなく先を越されたであろうと思っていたわけだが。





「……あれ。誰もいない、や」


そのご褒美とやらがダンジョン攻略に役立つもの、あるいはヒントであるのならばどっちが先に攻略しても構わないのではと内心では身も蓋もないことを考えつつ、改めて辺りを見回してみる。



『雨の守り神の館』をくぐり抜けて脱したその先には、相変わらず白塗りの壁が蔦か蜘蛛の糸のごとく蔓延り張り巡らされた天井なしの迷宮のごとき景色が広がっていた。

一見してもユミの言っていたご褒美らしき類のものも見つからない。

その流れでなんとはなしに空を見上げるも、館に入る前から近づいていた黒い大きな雲がだいぶ暗くなってきた空を覆っていて。


いつ雨やそれに類するものが降ってきてもおかしくない状況で。

これは本降りになる前に屋根のあるところ……いっそのこと『雨の守り神の館』へ舞い戻って雨と夜を凌ぐべきかと思ったが、律儀にも今出てきたばかりの出口はさっぱり消え去って、のっぺりとした白い壁に塞がれている始末。



そうであるのならば、ユミがやってくるまで待っていようと。

いささか手持ちぶさたに、目に見えて近づいてきているのが分かる黒い雲……空を眺めていると。

何故だか館の入口側からは見えなかった、空に近いところにあるいくつもの大きな建造物の存在に気づく。



「……あれは、塔かな? あっちのうねうねした空へ続きそうな道はなんだろう?」


まだ距離がありそうな、遠目に見える塔は、蝋燭……燭台のような形をしている。

『雨の守り神の館』と同じような、ダンジョン内ダンジョンの類だろうか。

雨が降ってこないうちにユミと合流できるようなら、その塔を目指してみるのもありだろう。


一方初めて目の当たりにする、空を駆けていくような橋梁のようなもの。

遠目で見てもかなり蛇行しているというか、上下動しているようにも見えて白壁の頂き近くまで降りてきている部分もあって。


しかし、その橋梁にはその内側を隠すように、あるいは落下防止なのか包むように白い壁が聳えており詳細がよくわからなくて。

どうにも気になって仕方が無かったから、ついさっきと同じようにほとんど無意識のまま【ウルガヴ】の魔法、魔精霊に呼びかけ呼び寄せ力を借りて飛び上がる。



「よっ、と。んーと、あ。見えた。あれは何だろう。見た事がある気が……ああ、そうか。何かの線路かな?」


手のひらを横にしてピントを合わせるみたいに。

よくよく見ると、故郷でも特定の場所にしかないとはいえ、目にしたことのある『レール』が走っていることに気づく。

しかもその路を追っていると、いざとなったらそこを乗り越えれば脱出できるのでは、なんて思っていた、このダンジョン『スリー・サーキュレイト』の外周とも言うべき最も背の高い白壁を乗り越えて路が続いているのが分かって。


もしかしなくても、あの路を通る乗り物か何かを見つけ出すことができればダンジョンを攻略、脱出できるんじゃあ、なんて。

狸の皮算用的な判断をしようとしたところで、何だか既視感たっぷりな感じでやってきた方とは逆側から、呆けたような声がかかった。



「……あらら。またしても、なの? 私的にご褒美な光景が今度こそは繰り広げられるって思ってたのに」

「あっ。ええと、その。なんていうか、すみません……」


まるでいつだって高いところが好きな子供みたいだと。

それはそう言うキャラ設定なんです、だなんて言えるわけもなく。

しかし気づけば高いところに上がっていたのは事実であったので。


顔が赤くなっているのを自覚しつつも頭を下げ下げごまかし笑いを浮かべつつ。

そんな思惑通りにはさせませんよ、とばかりに彼女のいるフロアへと降り立って……。



    (第50話につづく)









次回は、12月5日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ