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第46話、お互い探り合いの化かし合いをしているからこそ、滑稽なズレが生じて



SIDE:キショウ?




「本来この遊園地……いえ、ダンジョンだったわね。グループ、あるいはパーティで攻略、楽しむものなのよ。入口に看板があったでしょう? このダンジョンには、ああいったポイントとなる場所が多くあって、そのポイントの度にパーティが一旦分断される仕様になっているの」



しばらくは、両側に白く艶かしく塗りたくられた壁が続いているまっすぐに伸びた道。

ユミ、と名乗った銀髪の少女は、その一見幼そうにも見える見た目に反して面倒見が良いと言うか、このダンジョンの関係者として案内したいのか、そもそもが教える事が好きなようで。

思ったいた以上の近さ、親密さで接してくる。



「分断……そうだったんですか。という事は先程も少しおっしゃってましたが、あの場所で声をかけあってこの先の集合場所を決めたりするのが本来の攻略方法だったんですかね」

「ええ、その通りね。この真っ直ぐな道を抜けるとこのダンジョンに限っての買い物ができたりお土産が帰る広場があるのだけど、大抵はそこでまず落ち合う形になることが多いわね。このダンジョンはポイントごとにいわゆるトラップが仕込まれている可能性があって、その広場で待ち構えている事が大概なのだけど……」




いきなり放り出されたこともあって。

実のところ結構混乱しとどまっていて。

どうやら、言われてみれば分かりそうな本来行動すべきセオリーをすっとばしてイレギュラーな事をしてしまったらしい。


とはいえ、キショウならば聳え立つ壁が近くにあって、越えられそうだと判断すればそんな行動に移してもおかしくないだろうと納得させて。

ほとんど教義めいた振る舞いのユミの言葉に耳を傾ける。



初対面であるはずなのに、正しく教え子と先生のようなやり取りをする彼女は。

伺う前からネタバレでもするかのように、進み行きながらの会話が止まることはなかったが。

そこまで話したところで、ついさっきもあったように。

楽しくてしょうがない、なんて気持ちを隠しもせずにいたずらっぽい笑みを見せてくる。



「その様子ですと、やっぱり僕の行動に問題が?」

「いいえ、そこまでのことじゃないのよ。ただ、きっと間違いなくおかしなことになりそうねって思っただけなの」



何だか、お互いがお互いで探り合うような会話。

もしかしなくても、理解っていらっしゃるのか。

内心では自信がありそうでなかったりして、戦々恐々であったが。


そんな様すら楽しいとばかりに彼女はそれ以上その話題を広げることはなく。

それじゃあ早速答え合わせじゃぁないけれど、向かってみましょうとばかりに。

終わりがないようにも見えていた真っ直ぐの道が急に開けた(厳密にはもう少し行ったところで白壁が消失している)その場所へと。

最早心通わせた間柄だからいいでしょうと、腕を引かれるようにして終いには駆け出すような勢いとなって。




辿り着いたその場所は。

ユミが言う通りかなり広い円形の広場のようになっていて。

中心にある舞台……陣のようなものを囲むようにしていくつもの出店らしきものが連なっていた。



普段ならば、なんとはなしに多くの人が行き交うのだろうと予想できる場所。

しかし、いつの間に生まれて広がったのか白壁のかわりに広場一帯を霧が包んでいて。

どんな出店が並んでいるのかはっきりと見えない代わりに、その魔法陣のようにも思える中心地に、二人の人影があった。



「……おーい、遅いよ~! 随分と寄り道してたみたいだねぇ」

「師匠、良かった! 何とか合流できたみたいですねっ」

「え? 僕……とカイ師匠? これって、どう言う……」

「それ以上陣の中に入らないことをおすすめするわ」

「……っ、あっ。はいっ」



待ちくたびれ待ち構えるようにして中心に立っていたのは。

間違いなくカイとキショウそのものであった。

思わず動揺して、もっとしっかり確認しようとふらふら近づこうとして、静かながら有無を言わせないユミの言葉に止められる。



「もっとよぉく観察してみて。彼らはこちらを呼ぶだけでけっして動こうとしないでしょう。それに、あんなに仲の良い二人が視線を合わそうともしてない。あれは、仲違い……避けていると言うよりも、お互いがお互いを認識していないって感じね。傍から見ると滑稽ねぇ。この状況、想定してなかったのかしら。杜撰な仕様なんだから、もう」



確かに言われてみると、それらしく呼びかけてくるだけで彼らは一向にその場から動こうとしなかった。

ユミに諭されて近づくのを思いとどまったのに、構わずに声をかけ続けている様は、違和感しかなくて。



「……つまりこの状況こそが、さっきおっしゃっていた罠、だと?」

「ええ、その通りね。本来ならばこの最初に二つに分かれるルートはその距離が違うのよ。だからここへ辿り着くにも時間差があって、初めにたどり着いたグループは、そうでないグループのいわゆる『偽者』と邂逅することとなって、お互いの関係にヒビ、疑念を抱かせるといった、ダンジョンの罠としては少々下世話で厭らしい類のものね」



それはある意味でありがちといえばありがちな、情に問いかけるようなトラップ。

もしいきなりテンパって壁を乗り越えるだなんて行動をしていなければ、まず間違いなく嵌っていたことだろう。

だけど今は、イレギュラーな行動をしたことで相手……ダンジョン側も対応できなかったらしく、おかしなことになっているようで。


ユミが楽しげにしていたのは、ある程度この状況を予測していたからなのだろう。

まんまと嵌っていただろう可能性を考えると、それは到底笑えるものではなかったが……。



   (第47話につづく)









次回は、11月23日更新予定です。

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