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第45話、目覚めたら、水も滴る名女優がそこに



SIDE:キショウ?

 



「……はっ」


全身を撫でる風、砂埃と日差しを感じ、一体どこからが現実でどこまでが夢であったのか。

よく分からないまま目を覚まして。

しかしそれでも、その視点を借りるようにして見ていて、状況を把握していたのは確かだったから。



「カイ師匠? あれ、いない……っ!?」


すぐに起き上がり、見た目以上に頼もしい年の近い兄のようなカイの姿がどこにもないことに気づいて。

思わず不安の入り混じったそんな声を上げつつ、直前にあったことを思い返すようにして辺りを見回す。



暗号めいた不思議な言葉の書かれた、この『スリー・サーキュレイト』なるダンジョンのスタート地点を示していたであろう看板。

それにカイとともに触れた瞬間、ダンジョン攻略のスタートを告げるかのように、ダンジョン内のどこかへ弾かれ弾き飛ばされてしまった。

ひどく大地が撓んで跳ね上がったのを見るに、随分と乱暴な仕打ちではあるが、恐らくはその瞬間に転移魔法に近いものを受けたのだろう。


カイはこの世界に魔法めいたものは存在しないとは言っていたので、代わりにあると言う超常の力によるものなのだろうが。

実はあの時あの瞬間、それを避けようと思えば避けられたのは確かであった。


しかし、師匠であるカイが今回の訓練のメインがこのダンジョンを攻略(と言う名の脱出)だと言っていたこともあり、加えて同じく容易にその大地のうねりをかわせたであろうカイがそのまま受け入れているのを見て、その身を任せるままにしていたわけだが。




「……いきなり一人、かぁ。ダンジョンから出るだけならどうとでもなりそうだけど、まずは師匠と合流しなくちゃいけないよね」



ダンジョンと言いながらも、陽射しを遮るものは一切なく。

遠目に黒く大きな雲が見えるものの、現状透けるような青空が広がっている。

天井がない代わりに、まるで行く手を阻む迷宮のごとき白い壁は、一番高い所で3~4メートルほどだろうか。

飛翔魔法に頼らずとも、それを乗り越え外へ向かうのは、ぱっと見る限り壁の上もなだらかで乗り越えの対策もしてないように見えることから容易に思えるが……。



「さっきの転移魔法の応用で反則扱いになって戻されたりするのかな。試すだけ試してみよう」


それならそれで、このダンジョンのルールにのっとって迷宮めいた道をひたすら進むだけだと。

敢えてそう口にして、しゃがみこみおもむろに利き手を地面につける。


するとその途端、魔法を発動した気配すらないのにその手のひらに水が、水流が生まれ続けて。

あっという間にその軽い身体が浮かび上がり、これみよがしに一際高くなっていた白壁のなめらかな天辺まで打ち上げられた。




「……あっ」

「えっ!?」


恐らく、その反対側にスタート地点でダンジョン攻略のために組んだパーティメンバー……この場合カイがいて。

壁越しにやり取りをして、落ち合う場所を決めるなり今後の方針を話し合うなりする場所がこの場だと思っていたわけだが。


まず壁超えを阻止する何らかの仕掛けがあるのかと思いきや、あっさり飛び越え乗り越えられてしまって。

様子見のために壁の上に降り立つイメージをしていたのに、勢い余って虹を撒き散らしながら反対側へ落ち……降り立ってしまうと。

すぐ側に、まさか上から人が降ってくるだなんて思いも寄らなかったわ、とばかりに驚き呆けた顔を見せつつも。

生来のものなのだろう、理知的で清廉な美貌を少しも損なうことのない白銀の髪の、年の頃はソトミなどとそう変わらないであろう少女がそこにいた。


予想していた相手、カイの姿はどこにもなく。

お互いがお互い予想外にすぎると、どうしたらいいのか分からなくなって一首の膠着状態が続いたが。

一足先に気を取り直して声をかけてきたのは、銀の髪を二つに結った……切れ長の瞳の少女の方であった。



「まさかいきなり問答無用で壁を乗り越えてくるなんてね。前代未聞ってことはないと思うけど、ええとあなたがキショウさん?」

「……は、はい。そうですけど、あなたは?」

「私はユミ。このダンジョン、『スリー・サーキュレイト』を管理維持してるものの一人、といったところかしら。カイ・フモトハラから話は聞いてるわ。この遊園地型ダンジョンを体験したいということで、案内役とまではいかないけれど、お目付け役として側に……勝手についていく形になるけれどよろしいかしら」

「あ、そうなんですか? わかりました。えと、それじゃあお姉さんと一緒にこのダンジョンを廻って……三日以内に脱出すればいいんですか? カイ師匠をまずは探そうかなって思ってたんですけど、その様子だと師匠はもうここにはいないってことなんですかね」

「……そうね。人に丸投げしておいて、自分は高みの見物ってわけでもないけれど、今ここにいないのは確かね」


だから気にすることなく、あなたのやりたいようにやってもらって構わない。

そう言って微かに笑う彼女であったが、しかし何かを思い出したのか僅かばかりその白眉を寄せて。



「ただ、この後このダンジョンの最初のトラップ……仕掛けがあったのだけど。あなたの予想外の行動でおかしなことになりそうなのよねぇ。ま、これはこれで結構興味深い、大変面白そうだから早速向かいたいのだけど、よろしいかしら?」

「あ、はい。分かりましたっ」



そんないたずらっぽい顔もできるんですねと。

その辺りは、何だかカイに似ている部分もあるんだ、なんて。

しみじみ思いつつ、そんな彼女の後をついていく……。



    (第46話につづく)









次回は、11月18日更新予定です。

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