第44話、自分の担当日じゃなくても、結局気になっちゃうから
SIDE:ソトミ
「……ふふ。最初に聞いた時は貴女らしくないなんて思っていたけど。なるほど、そう言うこと。これは面白く……いえ、そうであるならばワタシは今後の展開を生暖かく見守っている事にしましょうかね」
テリアの、珍しくも結構長い……想いにも似た語りを聞いてから。
それまでテリアがキショウくんを避けようとしている事について思う所があったというか、少々不満というかもやもやするものがあったらしいサマンサは。
正しくみんなのお母さんのごとく楽しげ……慈愛のこもった笑みを浮かべてそんなテリアだけでなく、何故かわたしまで見つめてくる。
「ちょっ、何よぅその顔はっ。わたしは関係な……くはないけどっ。わたしだってこれからテリアとキショウくんがどうなるのか興味津々なだけなんだからねっ」
「……むぅ。そんな、いつの間に絆されたんですか姉さま方は。まぁ、あの【木ピアドリーム】の妖精のごとき幼女は見込みありまくりですけれど」
「話、聞いていました? そのような話ではなかったと思うのですけれど……」
わたしが慌てて何だか典型的な定型文を口走る中、サマルェは前半不服そうに、後半はどこか恍惚と。
テリアは大きな大きな溜め息をついて、相変わらず仕様がないんだからとでも言いたげな様子を見せる。
ある意味三者三様のそれに、サマンサがますます笑みを深めるところまでが一連の流れではあるんだけど。
そんな弛緩した空気の中。
何だかんだでメンツの中で一番百面相していた気もするサマルェが、何処か遠くから何かを受信したみたいに、寝落ちしそうになってびくっとなる感じで座った状態のまま飛び上がったではないか。
「どしたの、サマルェ。いきなり?」
「……きたきたきたぁーっ、びびっときたわ。『変わった』時に分かるようにと発信機つけといたんですお姉さまっ。早速訓練の状況、見に行きましょうっ。『役想回起』のダンジョンで見られるはずですからっ」
「え、何。どういうこと? いつのまにそんな機能までつけちゃったの?」
「いや、二人で分かった上で話されても困るのだけど、何が変わったのですって?」
「まさか、あの子の魂がまた入れ代わるほどの危機が?」
「ううん。新参のあいつのことじゃなくて、みのたろうの方よ。あいつ私の前では中々変わってくれなくなっちゃったから、私に黙って変わってくれちゃった時のためにってこっそり発信機つけておいたの。異世界の壁に隔たれていても分かるスグレモノよ。それだけじゃあなんだから、ついでに訓練状況を堪能……確認できるようにしておいたから」
「良くはわからないけど、相変わらずマジックアイテムを扱わせたら凄いのねぇ」
どうやらサマルェってばいつの間にやら勝手にわたしが創ったダンジョンの、しかもお気に入りのひとつを改造しちゃってたらしい。
しかもカイに発信機を、しかも気取られずにつけてたですって?
喧嘩するほど仲がいいと言うかなんと言いますか。
それを口にすれば、サマルェはきっと憤懣やるかたない様子で怒って、『変わった』後の彼女に会いたいだけだって言い張るんだろうけれど。
どこか呆れたような感心したようなサマンサと、いきなりの急展開に、え? 私も見に行かないといけませんかと目を白黒させているテリアを脇目に。
サマルェは有無を言わさずわたしの手を引っ張って引き起こして、それでも律儀にごちそうさまでしたを給仕のおばちゃん魔精霊たちに伝えた後、二人も当然ついてきてデバガメするでしょ、とでも言わんばかりに。
もう始まっちゃってるから急ぎましょうと、食堂の間をみんなして飛び出していく。
「あ、せっかくだしフォル姉にも声かけてきましょ。フォル姉も新参のあいつのこと気になってるみたいだし」
「それはそうだけど、だったらクルベのことも忘れないであげて」
「……そっちはええと、申し訳ないですがサマンサ姉お願いしてもいいです?」
「もう。相変わらず徹底してるんだから」
男きらいが反転して、無類の可愛い女の子好き。
何事も突き抜ければすごいんだなぁって。
それこそわたしは、子どもみたいな感想しか出てこないまま。
再びほとんど普通の一軒家、『役想回起』のあるダンジョンへと向かうのだった……。
SIDEOUT
(第45話につづく)
次回は、11月14日更新予定です。