第43話、いつかきっと同じスタートラインのライバルであるように
SIDE:ソトミ
わたしの理想を体現した人の形のごとき、少女と女性の狭間で揺れているような彼女、テリア。
その、深い深い海色の波打った髪を撫でつけ、そんな彼女にしてみれば随分と勢い込んでいるというか、改めて一つ息を吐いて。
わたし、サマルェ、サマンサのことをしっかり見つめた後、その薄桃に色づいた唇から言葉をこぼす。
「……ソトミは知っていると思うのだけど、私は元々【闇】の魔精霊に類する肉体を持たない存在でした。悪『役』に染まっていた頃は、それこそ数多くの私に合う肉体、器を探し求めていたわ。
そのうちのひとつに、【金】の優が創造、開発した……魂を込めることで人間のように感情、意思を持ち動けるようになる『魔導人形』と呼ばれる器があって。あの子と出会ったのは、その『器』を見つけた、この世界のモデルでもある『スクール』と呼ばれる魔法学園だったの」
サマンサなんかは時期時代が少々ずれているだけで同郷で。
サマルェの世界こそ違えど同じ創造主様の管轄する世界の子だから出てくる固有名詞については理解は及んでるだろうけれど。
『リヴァイ・ヴァース』を含めた我らが創造主さまが管轄している世界は、おおよそその全てが12ある属性によって構成、表現されているのだ。
魔法の体系、種類もそうだし、この世界で暮らす生き物や自然、人工物にも複数の属性が含まれていて、それがみんなの個性として成り立っている。
ちなみに、キショウくんの場合ここに住み込みでみんなの弟子になる際、さりげなくこっそり【鑑定】した結果。
勇者見習い、候補としては珍しい気がする【木】の属性割合が一番で。
そこに【水】と【氷】が追随してくる感じだった。
内包する魔力は初めにS級悪『役』と勘違いしただけあって(今でもそうじゃないって完璧に払拭したわけじゃないけど)大分多めで。
それこそわたしやカイのようにその身の内なる世界に何人か棲んでいてもおかしくなさそうだったけれど。
……って、話が逸れちゃったわね。
それもこれもキショウくんのせいよっ、なんて理不尽な言いがかりをつけつつ引き続きテリアの言葉に耳を傾ける。
「その【魔法学園】で心……感情を求め彷徨っていた私は、悪『役』として英雄たちとの戦いの最中、あの子たちと出会ったわ。と言っても、戦う羽目になったというよりも、偶々彼らがそこに居合わせて巻き込まれてしまって。私が取り返しのつかない罪を犯す前に、皮肉にも【クリッター】に救われた形になるのだけど……」
そこまでは、開口一番矢継ぎ早に語ってくれた部分に含まれていたっけ。
キショウくんの、テリアと邂逅した時のリアクションを見るにばりばり悪『役』やってたテリアのことは覚えていないみたいだけど。
ガチンコのケンカをふっかけたわたしですら内心ではけっこうビビってたくらいにはおっかなかったから。
その辺りのことを気にしてあえてこちらからキショウくんのことを避けていたのかなって思ってたんだけど。
「恐らくそうじゃないかしらって思って避けてはいたのだけど。あの子と顔を合わせた瞬間に確信したわ。ほんの僅かばかりの時間対面しただけだから、覚えていないってだけならまだ良かったのだけど。あの子はどう見ても私と、今の私の元となった素体の彼女と勘違いしているみたいなの。……【金】の一族が創る魔導人形は、実在する人物から型を取るのだけど。私が器として目をつけた魔導人形の一体は、魔法学園のある国でも有名なお姫様だったみたいで……多分あの子はそんな彼女に憧れて、彼女を護るための騎士、勇者を目指していたんじゃないかしら。その流れで【クリッター】に囚われ、行き着いた先がこの世界。運悪くそこに、良く似た姿の私が現れて、どうやら私と彼女を取り違えているみたいなの。もしかしたら、実際どこかの重なる世界で彼女に助けられたことがあったのかもしれないわね」
だから、そんな夢を壊さないためにも。
その時の恐怖、絶望を思い起こさないためにも、黙っていて欲しい。
あるいは、知らないまま勘違いしていた方がいいこともある。
それが、テリアのキショウくんを避けていた理由。
キショウくんがその時のことを覚えていない以上、キショウくんの心を守るためには是非もなしって気はするけれど。
何だか酔っているかのように熱く語っているテリアを見るに、本当にそれでいいのかなって気もした。
お姫様への憧れだとか、そのために勇者を目指していただとか、何となくテリアの勝手な思い込みのような気もしなくもないし。
そのへんどうなのかキショウくんに聞いてみて、別人なら別人ですって。
師匠と弟子として、一から始めてみてもいいんじゃないのかなって。
今すぐにとはいかなくても。
いつの日か勘違いを正して、良き関係になれば良いのになぁ、なんて思っていて……。
(第44話につづく)
次回は、11月10日更新予定です。