第42話、或る人形と勇者未満の馴れ初めにもならない邂逅
SIDE:ソトミ
そんなこんなで、宴もたけなわってわけでもないけれど。
色々お話し合いしたいのも、結局はわたしばかりで。
いい加減わたしとしてはテリアがキショウくんのこと、実際はどう思っているのか……じゃなかった。
今となっては女子の鏡というか、わたしから見て理想な女の子(そう表現すると物凄くいやーな顔されるけど)テリアがキショウくんを、できれば避けたいというか、後ろめたい罪悪感めいたものを負ってしまっている原因を聞き出したいわけなんだけど。
引っ込み思案で大人しいわたし(一応ここ、笑うところね)はどうしても聞くことはできなくて。
そんなわたしを察してくれたのかそうでないのかはわからなかったけれど。
なんの躊躇いもなく、じゃあ次の話題ね、とばかりに一石投じたのはサマルェだった。
「そう言えばテリア姉、あの森の精みたく可愛い娘引き連れてる新参のあいつと、何かあったの? テリア姉ってべつに私みたいに男きらいとかそう言うんじゃなかったわよね。みのたろうは平気そうだものね。
あいつはあいつで素敵なお姉さんがいて私的にはもどかしい部分はあるけれど」
ちなみに、『みのたろう』とは何故かサマルェがカイにつけたあだ名である。
まぁ、全くもって変哲がないってわけでもないんだけど、そう呼ぶとカイが怒るって分かってるからこその敢えて、なのかもしれない。
そんなわけで実はサマルェとカイって顔を合わせればいつも喧嘩してるっていうか、ほんとに仲がいいんだもんなぁ、なんて感想しか出てこないわけだけど。
結局のところどストレートなサマルェの台詞に、食事の手を止めてきょとんとするテリア。
あぁ、それも何だか珍しい、女の子っぽい貌で。
いろんな意味で妹ちゃんグッジョブ、なんて思いつつも。
そこにワタシもそろそろ知っておきたいわね、なんてサマンサが続いたから。
仕方ないか、とばかりにテリアはひとつ大きく息をついて。ついにはその重い口を開いてくれた。
「……結果的に言えば、私が悪『役』の時に手をかけることとなったのは事実よ。ただ、その寸前に『クリッター』に邪魔をされた形になって……もしかしたら、巡り巡って彼がここへ来る羽目になったのは、私のせいなのかもしれないわね」
「え? ちょっと待って、結構初耳なことばかりなんだけど。よりにもよって『あの時』のテリアとキショウくんって会ってるってわけ?」
言うなれば心がないと思い込み妄執に囚われていた殺人人形であった頃のテリア。
そんな彼女をえいやっと懲らしめて、そのついでに『リヴァイ・ヴァース』に引っ張ってきてそれからずっと腐れ縁なわけだけど。
それより早く、キショウくんとテリアはぶつかっていたらしい。
「彼らが日常的に通っていた場所だったから、偶然、偶々運悪く鉢合わせたのだと思うわ。ただ、その時そこにいたのは、彼だけじゃなかったの。サマルェちゃんの言う可愛い娘もいたわ。だから……恐らくだけど、私に襲われると言う命の危機が【クリッター】を呼び込んで、レスト族……危機迫る時に魂が分裂するんだったわよね。それと真逆のことが起きたんじゃないかしら」
「ふぅん。そんなことって起こりうるものなんだ。興味深い。実験したいなぁ」
きっとサマルェのことだから、野郎成分だけを排除してずっと可愛いままにできないものか、なんて考えてるんだろう。
って言うか次から次へと湯水のように新情報が湧いてきて、処理しきれてないわたしがいるんですけど。
今の今まで渋っていた割に饒舌なのは、もしかしなくてもテリアってば誰かに聞いて欲しかったのかな、なんて思ったけれど。
「……それで? 興味深い話なのは確かだけれど。だからぼうやのことを避けてるってわけじゃないんでしょう?」
サマンサがそう言うように。
悪『役』の時にしでかした事に対して責任逃れをするようなタイプじゃないってのはよく分かっていたから。
今まで口にしたことの中で、キショウくんを避ける理由がなかったのは確かで。
たぶん、今までテリアが渋っていて、言いたくなかったのはその先にあって。
どうせなら最後まで聞きたいなぁと。
サマンサに便乗して、じっとテリアを見つめるわたし。
相変わらず透き通るように綺麗なお顔ね。
いわゆる魔導人形としての『モデル』となった彼女ともお友達だけれど、あくまでも元になっただけで全然タイプの違う美人さんで別人よね、なんて思っていたけれど。
そう思っていたのはお互いをよく知っているわたしだけだったようで。
答えは、そこにあったらしい。
テリアは、改めて覚悟決めるみたいに大きく息を吐いて。
その理由について、口にしてくれた……。
(第43話につづく)
次回は、11月6日更新予定です。